第14話 薄水色の瞳

ライトが気配察知をしながら森の奥に進んでいくと、複数の人の気配を感じた。


何か大声で話しをしているようなので、ライトは気配を殺して近づいて様子をうかがう。


「これは私のチジェクの実だヨ」


「だから言ってるだろ!ここは俺たちの縄張りだからここで採れたもんは俺たちのモノだって」

「そーだ!早く寄越すブヒ」

「痛い目にあいたくないだろ」


白いもじゃもじゃ髪の籠を背負った女の子がライトより少し背の高い男たち3人に囲まれて言い争いをしていた。


「そんなの狡いヨ」


「狡いとかじゃなくてそういう決まりなんだよ」

そういってリーダー格の少し体型のいい男が女の子の籠に手を伸ばそうとする。


「止めてヨ」

女の子はそう言って体をよじって抵抗するとバンっと籠が男の手を弾く。


「いてっ!おっと怪我しちまったぜ、これはポーション代も貰わないとな」

男はいやらしい笑みを浮かべて手を押さえながら言うと男たちは囲いを狭めて近づいていく。


「ひぃっ」

女の子はビクっとして後ずさるが、後ろにいたデブの男に籠からぶつかる。


「ブヒ!俺も怪我したブヒ!金だせブヒ」

デブがブヒブヒ言っている。


「止めろ!」

ライトが囲いに割って入り女の子を背中で庇うように立ち3人と対峙する。


「なんだてめーは!」

リーダー格の男が威嚇交じりで声を荒げる。


「僕はライト、弱いものイジメは止めろよ」

素直に名乗るライト。


「別に俺たちはイジメてるわけじゃねーよ、ライトく~ん。この女が俺たちの縄張りから採取したものを取り戻そうとしているだけだ」


「この森はみんなのものだヨ、お前たちのものじゃないヨ」

女の子が涙目で反論する。


「てめーは黙ってろ!」

男は大きな声で威嚇する。


「ひぃやぁ」

女の子がまたビクっとする。


「そういうのを理不尽っていうんだよ」

ライトががっかりそうに言い、少しリータのことを思い出す。


「ごちゃごちゃうるせえんだよ、ライトくんはよ、なんなら代わりにお前が金を払ってもいいんだぜ」

「そうだ金払うブヒ!」

「早く金ださないと怪我するぞ」

そう言って3人はナイフやショートソードを抜いて見せつけてくる。


「僕は男だから女を守る」

小声でライトは言う。


「ハァ~なに言ってるか聞こえねぇーよ、ビビってんのか?」

リーダー格の男が言って近づいてくる。


ライトは近くの木に左手を向けて強めに魔力を込めるようにイメージして唱える。


「サンダーボルト!」


バシュ!


ライトの左手から光が迸り3人の間を抜け後ろの木を貫き飛び去って行く。


3人は一瞬、防御の姿勢を取り自分たちの間を通り抜けた光の後を目で追いながら尻もちをつく。


「怪我をさせたくないし、お金も払わない、この子の採取したものも渡さない、それで良い?」


リーダー格の男がコクコクと無言で頷いている。


「じゃあ、僕たち行くから」

そう言ってライトは踵を返し、女の子の手を引いて男たちの前から去っていく。




ライトはしばらく女の子の手を引いて歩いてきた。

周囲に気配察知をして危険がなさそうな場所で手を放し女の子と向き合う。


「大丈夫?」

ライトは女の子に声を掛ける。


女の子はライトの目を見て少しブルブルっと身体を振るわせてライトに抱き着いた。


「怖かったヨ」

そう言って語尾に”ヨ”に独特のニュアンスがある女の子は薄水色の瞳から涙をこぼす。


「アリガド、タヅゲテクレデ」

女の子はエグエグと泣きながらライトにお礼を言う。


「もう、大丈夫だよ」

ライトは女の子の頭を優しく撫でながら言う。


女の子はしばらくエグエグ泣いていたが次第に落ち着いてきたので、

ライトはマジックバックから綺麗な布を取り出して女の子に渡す。


女の子はその布を遠慮がちに受け取り顔を拭いてライトを上目遣いに見て言う。

「ありがとう、ライト、わたしはヨークだヨ」


モジャモジャ白い髪の女の子はヨークと名乗って身の上話をしてくれる。

ヨークはライトより1歳年上で母親と弟の3人暮らしをしている。

森の採取で生計を立てていて一応、G級の冒険者らしいがクエストはついでで主に家の食糧の採取をしているそうだ。


「さっきのは魔法?」

ヨークがライトに聞いてくる。


「うん、サンダーボルトって魔法だよ」

ライトが応える。


「ライトは凄い魔法使いさんなんだね」

ヨークが尊敬の目で見ている。


「全然そんなことないよ、冒険者になって2日目だし」

「2日目?」

「うん、昨日、この町に着いて、冒険者になったばっかり」

「じゃあわたしの後輩だヨ」

そういってヨークが笑顔になった。


それから色々話をして午後は一緒に採取しようという話になった時に鳴る。


ぐぅ~~。


ヨークの白い髪に赤くなった顔と耳が映える。


「これ、あげるよ」

ライトはそう言ってマジックバックから買ってきた串焼きを取り出して半分ヨークに渡す。


ヨークは最初、遠慮がちにしていたが、ライトが森のことや冒険者のことを教えてくれると助かると言うとヨークは頷き串焼きを受け取った。


「ライトはマジックバックも持っているんだね」

「うん、魔法の師匠様に貰ったんだ」

「わたしもいつか欲しいんだよね」

「うん、便利だよ」


食後にヨークが剝いてくれたチジェクの実を二人で食べる。


午後は2人で採取をする。

ヨークが道案内をしながらこの森で採取できる物と場所をライトに教えてくれる。

ライトは気配察知をしながらサンダーボルトで獲物を狩る。


ヨークがチジェクの木が生えている場所を数か所教えてくれたので2人で200個以上収穫することができたし、ホーンラビットも4羽仕留めることができた。




日も傾きかけた頃2人は帰ることにする。

ライトはヨークの家まで送っていくことにした。


「今日はいろいろと教えてくれてありがとう」

「こちらこそ、助けてくれて嬉しかったヨ」

「今日の獲物は山分けでいい?」

「うん、助かるヨ」


ヨークの家の前でライトは獲物と採取したものをヨークの籠に入れていく。

チジェクの実120個と獲物2羽。

他にもキノコや薬草の類もそれなりにあった。


「チジェクの実だけでいいヨ」

「山分け」

ライトは笑顔で籠に入れていく。

「ホーンラビットなんてわたし、貰えないヨ」

「山分け」

ライトは誰かと冒険ができたのが嬉しかったので手が止まらない。


「ライト」

そう言ってヨークがポフッと抱き着いてきた。


「ヨーク?!」

ライトは吃驚している。


「ありがとう」

ヨークはそう言って少しもじもじしたあとにライトの頬にそっと口付けをする。


ライトは麻痺パラライズの呪文に掛かったように硬直していた。

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