第13話 冒険者2日目

夜明け前、町が起き始めるちょっと前の静けさ

村の夏よりも少し熱を帯びている町の宿屋の部屋でライトは目を覚ます。


冒険者2日目が始まる。


身支度を整えて28番の部屋をでる。

下の階に降りていくともうすでに朝食の準備ができていた。


日の出の開門と同時に町の外に出かける商人や旅人、冒険者が居るので、宿屋の朝は早いようだ。


そのため受付は多少順番待ちができていた。


「おはようございます、ライトさん」

受付業務をこなしながらシェーンが声を掛けてきてくれた。


「おはようございます」

ライトもあいさつを返す。


「受付は少しお待ちいただくようなので、先に朝食をお召し上がりいただいても結構ですよ」

シェーンがそう教えてくれた。


ライトは急ぐ必要もないので先に朝食を済ませることにした。


「はい、先に朝食をたべます」

そう返して客席の方へと向かう。


トマテ亭の朝食は5種類のパンから好きなものを2つ選びあとはスープと飲み物。

追加料金でパンを増やすこともできる。


ライトは腸詰の挟んであるパンと肉が挟んであるパンを選択して待っていると

お皿にパン2個と黄色いスープとブドウジュースが運ばれてきた。


腸詰のパンは赤いソースがかかっていて食欲をそそる。

そのまま大きく口を開けてかぶりつくと腸詰がプチっと弾けて中の肉汁が溢れ出してくる。


村で食べる腸詰よりもかなり味が洗練されていて臭みも少ない。


肉の挟んであるパンは昨日食べた串焼きの肉が塩で味付けしてありパンに辛い何かが塗ってあり刺激的な味だ。


ライトはパンを全て食べきりとても満足な朝食だった。


しばらくここの食事を食べたいと思い続けて宿を取ることを決めた。


食後に受付を確認すると人が少なくなっていたのでそちらに向かう。


すぐにライトの順番が来たのでシェーンに3泊と食事付きで追加したいことを言うとシェーンは嬉しそうに応じた。


「銀貨2枚と銅貨70枚になります、あと鍵をお預かりしますね。部屋は掃除してよろしいですか?」


「はい、掃除もお願いします」

ライトはそう返事をして銀貨3枚と鍵を返す。


「はい、ありがとうございます。お釣りが銅貨30枚ですね、28番のお部屋3泊食事付きで準備しておきます」


「お願いします、じゃあ、行ってきます」


ライトはシェーンに手を振って宿を後にして、冒険者ギルドへ移動する。


冒険者ギルドはまだ閑散としていた。


クエストボードに新しいクエストが張り出されるにはまだ時間が早いらしい。


受付も空いていたのでライトは質問してみることにした。


「G級クエストの採取や狩猟のおすすめはありますか?」


手の空いている赤髪ショートヘアの眼鏡を掛けた受付嬢に声を掛ける。


「そうですね、今の時期ならば北の森でチジェク、西の森でケモモ、東にある川での魚釣りが人気がありますね、あと、あちらの閲覧所で各クラスのクエストを纏めた案内が見れます」


受付嬢は丁寧に教えてくれた。


ライトは北の森に反応して

「チジェク?」

と聞き直した。


「はい、チジェクは夏から秋にかけて森で取れる甘酸っぱい木の実でそのまま食べても美味しいですし、タルトや甘漬物、乾燥させて保存食としても人気です」


受付嬢は笑顔で教えてくれる。


「ありがとう、北の森に行くので見つけたら採ってきます!」


「ちょうどクエストの依頼書が張り出される時間になったのでクエスト契約になさいますか?」


「はい!お願いします!」


「では受領します。完了は40個で銅貨10枚それ以上の買取も可ですね、それではこれで正式な依頼書となります。

お気を付けていってらっしゃいませ、無事のお戻りをお待ちしています、ライトさん」


スッと依頼書をライトの前に差し出す。


「あれ、僕の名前・・・」


依頼書を受け取りながら不思議がるライトに受付嬢は顔を寄せて小声になる。


「はい、ライトさんは初日からクエストを3つこなしてきた有望な新人さんなので職員はみんな知ってますよ」


「そうなんですね」

ライトはポリポリとほほをかきながら応える。


「はい、今日の担当はわたくしララです。お見知りおきください」

ララは丁寧にお辞儀をしてライトを送り出す。



北門に向かう道中で果物を売っている出店を覗く。


「おばちゃん、どれがチジェク?」

「それだよ坊や」


果物売りは赤や茶色の拳大の先の尖った果物を指さす。


「へーこれが、色の違いは?」


「茶色は若いから歯ごたえがあり少しすっぱい、薄い赤はすっぱさ増し、濃い赤が一番甘いが足が短いよ」


「教えてくれてありがとう!」


そう言ってライトは銅貨を1枚渡し去ろうとすると


「ちょっとお待ちよ」


おばちゃんがライトを呼び留め、ナイフで真っ赤なチジェクに切り込みを入れ皮を剝き


「はいよ」ライトに差し出す。


ライトは受け取って黙ってかぶりつくと口の中に甘い果汁が流れ込んでくる。


「甘くて美味しいね、おばちゃん」

「良く熟れていた奴を選んだからね」

「ありがとう、おばちゃん、美味しかったです」


ライトはお礼を言いおばちゃんに手を振って別れる。


そして、今日は昨日とは別の屋台でお昼ご飯ように鳥肉の串焼きを10本買って、北の森へと向かった。


今日は森でチジェクの実を探しながら常設クエストと魔法の修練をする予定だ。


最初は中々、チジェクの木が見つからなかったが上を見ながら森の中を散策していると


小鳥たちが木の実をつついて食べている姿を見つけた。


よく見るとその実は赤く熟れたチジェクの実だったので、その木を観察すると沢山の実がなっていた。


ライトは木登りは得意なのでスルスルとチジェクの木を登りその実をもいでいくマジックバックに放り込んでいく。


一本目の木で40個以上のチジェクの実が取れたのでクエストは達成できそうだ。


木から降りて周辺の気配を察知してみると奥の方で茂みの中を何かが移動している感じがした。


ライトは気配を殺してその茂みをよく観察しているとホーンラビットがひょこひょこ歩いているのが見えた。


「魔法はイメージが大切」


ライトはそう呟いてサンダーボルトの軌道をイメージしながら左手を前に伸ばす。


「曲がれサンダーボルト」


目標のやや右上に向けて撃ちだしたサンダーボルトは弧を描いて左下方へと向かっていきホーンラビットを捉えた。


「大分、イメージ通り曲がるようになってきたな、今度はもっと角度をつけて曲げてみよっと」


そう言ってライトは森の更に奥に向かって歩いていく。

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