第18話 鹿肉祭
ライトは川から上がりヨークに手を差し延べる。
ヨークもそれに応えて手を借りて川から上がる。
ライトは濡れそぼっれ髪の毛から雫を垂らしているヨークに見入ってしまう。
ヨークの白い肌に白い髪、白いワンピースにやや赤みがかった顔をしていた。
時間が止まったかのように見とれているとヨークの顔がボッと赤くなり胸の前で手を交差させて身体をよじる。
ライトは目を大きく見開いて状況を飲み込んでいく。
ヨークのワンピースが濡れて肌に張り付き身体のラインをくっきりと際立たせ、
張り付いた部分が透けて見える。
「ご、ごめん」
ライトはそう言って目を逸らしながらマジックバックから綺麗な大き目の布を取り出しヨークに手渡す。
「ライトの、、、エッチ」
そう言いながらヨークは布を受け取る。
「ち、違うよ!ヨークが綺麗だったから、見惚れちゃって・・・」
慌てて言い訳をしながらヨークの方へと向き直る。
ヨークはベッと舌を出して背中を向けてしまうのを見てライトも背中を向けるが・・・
(綺麗で見惚れたって言われちゃったヨ)
この言葉が頭の中でリフレインしてヨークのドキドキも収まらない。
ライトの頭の中は濡れそぼったヨークや恥ずかしそうに身体を隠す姿、舌を出した赤い顔がグルグルとフラッシュバックして頭がクラクラしてくる。
ライトはボーっとなりながらもマジックバックから布を取り出して自分の身体を拭き始める。
2人して服は濡れているが火照った顔が収まらないのは夏の暑さのせいだけではない。
ライトが身体を拭き終わり布をマジックバックにしまっていると茂みの方からざわざわした気配を感じた。
気配察知をしてみるとそこそこ大きな動物が動いている感じがする。
ライトは身を屈め気配を殺して茂みに注視していると鹿の親子が川に水を飲みに来たようだ。
「黒尾鹿の親子だヨ」
ヨークが隣に来て小さい声で言う。
なるほど、よく見るとお尻の上のところが黒く色づいている。
「ヨークの家で鹿って料理できる?」
「できるけど・・」
それを聞いたとたん、ライトは左手を親鹿に向け小さく唱える。
「サンダーボルト」
バシュッという音と共に閃光が鹿へと向かい、母鹿の首を貫く。
母鹿はスローモーションのように倒れていく
ビクっと怯えて飛びのく小鹿が母鹿を確認するように振り返る瞬間。
「サンダーボルト」
バシュ。次の光が小鹿の頭を貫く。
「やったね、鹿肉」
ライトが手を叩いて喜びヨークを見る。
ヨークは口を開けたまま倒れた鹿の母子を見て固まっている。
「・・・昨日も思ったけど、凄い魔法だね」
フリーズから回復したヨークがため息交じりで言う。
ライトは鼻歌を歌いながら解体の準備を始める。
「ライト、解体できるの?」
「うん、村ではたまにしてたからね、鹿肉の香草ローストがいいね」
(ライト、料理の話はしてないヨ)
ライトが楽しそうに話すのでヨークは内心で突っ込むだけにして言葉には出さない。
ライトが手際よく解体をできるのはアカマット村での魔法の練習の副産物にほかならない。
2頭とも解体が終わるころには日も傾きかけてきたので2人は町に戻ることにした。
「今日は肉祭りだね」
ライトが満面の笑みで嬉しそうに言う。
「肉祭り?」
ヨークが聞き返す。
「うん、村で大物が獲れた時に村中みんなで肉を沢山食べることを言うんだ」
そう言ってライトは肉祭りのあらましを話してくれる。
「それは心躍るヨ」
ライトが嬉しそうに話すのでヨークも嬉しくなってくる。
2人でヨークの家の前まで来る頃には夕暮れになっていた。
「ねえちゃんの彼氏?」
家の前で声を掛けられる。
「ち、違うヨ、ホーク、おねえちゃんを助けてくれた人だヨ」
ビクっとして慌ててヨークが否定する。
「ふーん」
品定めするようにホークがライトを見ている。
「ヨークの友達のライトだよ、よろしくホーク」
ライトは笑顔で自己紹介する。
「で、何の用?」
ホークの言葉に
「肉祭り!」
ライトは嬉しそうに答えて家の中に入って行く。
家の中にはやや不健康そうな女性が居たのでライトは元気良く挨拶する。
「ヨークの友達のライトです、今日は肉祭りです!」
女性はライトを見てキョトンとしているとそこにヨークが近寄ってきて
「お母さん、昨日話したライトだヨ、今日は鹿が獲れたからうちで料理してみんなで食べたいっていうから連れてきたヨ」
女性はヨークの話を聞いてライトに向き直り頭を下げる。
「娘を助けていただきありがとうございます。ちゃんとお礼も出来なくてごめんなさいね
その上チジェクの実やホーンラビットまでいただいてしまって」
「いいんですよ、男は女を守るって父さんから言われてるから、それよりも鹿食べれます?」
困惑している母親にヨークがライトの村の肉祭りの話を説明する。
「そうですか、わかりました。ライトさんのしたいようにして結構です」
「ありがとう!ヨークのお母さん」
ライトはそういいながらマジックバックから鹿肉を取り出していく。
元気なライトの笑顔にヨークの母親もつられて笑顔になる。
「何か手伝えることはありますか?」
協力的なお母さん。
「僕とヨークでローストと串焼きを作るのでそれ以外の料理がなにかあればお願いします」
「それでは私は鹿骨のスープを作りましょう」
「美味しそう!」
そう言って3人はキッチンで準備を始める。
ライトの料理は無骨そのものだったが串焼きもローストもジャンジャン焼いて皿に山積みになっていく。
ヨークの家族は見たこともないくらいの肉の山が出来上がったころにお母さんがスープと付け合わせ用に葉野菜のバター焼きを作ってくれた。
料理をテーブルに並べ4人で席に着く。
「さぁ、食べましょう!感謝」
ライトは軽く目を閉じてからガツガツと食べ始める。
「まぁまぁ、ライトさんは元気なのですね、私たちも食べましょう」
ヨークの母親が子供たちを促す。
ヨークとホークはやや遠慮がちに食べ始めるもライトの勢いの良い食べっぷりに圧倒されている。
もともとヨークの家庭では肉を塊で食べる習慣があまりなかったので食べ慣れていないのも仕方ない。
「ホーク、早く食べないと僕が全部食べちゃうよ!」
ライトはホークに煽るように言う。
圧倒されていたホークも負けじと肉に手を伸ばす。
「このスープ美味しいです!このバター炒めも肉に合うので肉がたくさん食べれます!」
「ライトさんのお口に合って良かったわ」
ヨークの母親は笑顔でそう答えながら、レバーの串焼きをほうばる。
新鮮な野生のエネルギーが詰まったレバーは病弱だった身体に新しい息吹を吹き込んでくれる感じがした。
「おいしい・・・」
母親の口から感想がこぼれる。
ヨークは母親が目を閉じゆっくり自分の作った串焼きを租借する姿を冷静に見ている。
ヨークたちの日常とまったく異なる食事風景や家族の非日常を目の当たりにするとライトの異常さや存在感を強烈に感じざる負えない。
出会って2日しか経っていないのに自分を救うどころか家族にまで多大な良い影響を与えてくれるライトの存在。
自然とライトに目が行ってしまう。
彼は夢中で全力で肉を食べている。
ヨークの瞳はそんな彼をいつまでも捉え続けていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます