第7話 幼馴染
アカマット村は牧歌的な村である。
王都からは遠く気候も比較的温暖で魔物や猛獣の類もあまり存在しない地域で
村人達は農耕と牧畜それと深い森の恵みで生計を立てていた。
ライトは前回の魔法の練習をした日から2日間寝込んだ。
風邪や流行り病の症状などではなかったが初日の夜から頭も体も熱く火照り身動きが取れなくなった。
最初は家族も心配して様子を気にしていたが時間がたつにつれて火照りが収まりつつあったので
すげなく放置であった。
それにフラフラで身動きは取れなかったが意識ははっきりしていてなにより食事はちゃんと全て完食した。
「飯が食えるなら大丈夫だろ」
の父親の一言で家族は平穏を取り戻していった。
「父さん、今日は農作業の手伝い大丈夫?」
2日休んだ次の朝食時にライトは父親に尋ねる。
「こっちは問題ない。昨日雨が降ったから多少ぬかるんでるかもしれん
森に行っても良いが無理はするんじゃないぞ」
「わかったよ父さん、気を付ける」
家族に心配を掛けたことが少し心苦しく思っているライトは素直な返事を返した。
「じゃあ、行ってきます」
いつものように元気に家族に声を掛け背負い籠を持って扉から出る。
「ライト、おはよう!」
家からでた瞬間に不意に声を掛けられるライトはビクっとする。
「お、おはようリータ」
声の主はすぐにわかったがライトの心に暗雲が立ち込める。
「今日は私も一緒に行くから」
「え」
「なに、嫌なの!」
リータがヒタヒタ笑顔で近づいてくる。
「ヒッ、いや、そんなことはないよ」
ライトはリータの視線を外しながらそう応えた。
リータは隣に住む狩人の娘でライトより一つ年上で幼馴染だがライトより身長も高く力も強い。
勝気な緑色の瞳と蜂蜜色の三つ編みお下げを左右に垂らしている。
そして何よりもライトの周りでもっとも理不尽な要求をしてくるお姉ちゃん的存在だ。
「おはよう、リタねえ、お兄ちゃんをよろしくね」
ライトの後ろから開いたままの扉から声が掛けられる。
「おはようティファ、まかせなさい」
少女二人に挟まれて頭越しに決定事項になっていた。
ライトに選択肢は無かった。
ライトはふーっと一息ついて気持ちを切り替え今日の採取について一考しリータに言う。
「僕も弓を借りていいかな?」
「いいけどライトも狩りをするの?」
「ちょっと考えがあってね」
魔法で鳥を狩ってもそれは秘密であってそうそう素手で鳥を狩れるはずもないのでその理由として弓も持ち歩くようにした。
もともとリータは弓と矢筒を背負って出発の準備は万端のようだったのでライトの提案により
隣のリータの家に寄って余っている弓を借りていくことにした。
「じゃあ今日はお姉さんが弓を教えてあげよう」
「う、うん、まあよろしく」
「何よあんまり乗り気じゃないわね」
一人の時に比べて自由度の低さがライトの反応にでてしまう。
「あんた2日も寝込んだんだってね、なにかあったら私が守ってあげるからね」
「あ、ありがとう、その時はよろしくね」
もともとそんなに危険性がある森ではないので特に森に心配事があるわけでもない。
ライトの心配はこのお姉ちゃんの理不尽な要求のほうが余程高かった。
「久しぶりだね、二人で森に行くの」
道々リータが話しかけてくる。
「リータは狩り、僕は採取だからね別行動のほうが効率がいいからね」
ライトが森に入りたての頃はリータの父親に連れられてリータとライトはよく手を繋がされていた。
慣れないうちはリータのペースでリータの力で引きずられるように歩いた印象がライトには強く残っている。
そして慣れてきたら狩人のおじさんは自分の獲物を求めて森の奥深くまで行くので二人行動が増えたのである。
「ライト、こないだ山鳩を仕留めたんだってね、お裾分けをもらったわ」
「たまたま運よくね」
「今日は私が大物を仕留めてあんたにご馳走してあげる」
「そ、それは嬉しいな」
「なによその返事は私じゃ獲物を獲れないって思ってるの!ライトのくせに生意気よ」
リータはライトに向かって一歩二歩と強く踏み込んで近づいてくる。
「いや、そうじゃなくて、今日は父さんから無理するなって言われてるから」
ライトは両手を広げリータに向け手のひらを振って否定の示す。
「ふん、ちゃんと見てなさいよ、私の弓矢が獲物に突き刺さる瞬間を」
「うん、ちゃんと見てるよ」
ライトはなるべく低姿勢での返答しリータのご機嫌が斜めらないように心がけていた。
今日はリータの主導で森を行くのでいつものライトの行動範囲とは異なる。
なのでいつにも増してライトは森をキョロキョロと見回しながら歩いていく。
不意にリータがライトの歩みを遮るように右手を右下に伸ばしたのでライトも急停止する。
リータの視線は前方のやや上に向いており獲物を観察している目をしている。
リータは右手を下げる動作を2回したのでライトはゆっくりと腰を低くしてその場に留まった。
リータの右手はそのまま矢筒に向かい左手は弓を構えゆっくりと矢をつがえる。
その一連の動作は以前にくらべ大分洗練されていてツィーと小さい音をたて弦が引かれる。
リータの両腕の筋肉が盛り上がり弓を引き絞られて静止している姿が美しく
ライトは思わず見とれてしまう。
リータの視線は獲物から動かない。
その緊張からかライトは息をするのを忘れていた。
リータの胸は呼吸に応じて上下していたが上がって動かなくなった瞬間にそれは放たれた。
ピュゥっと鋭い風切り音とともに矢が枝に留まっている鳥に向かう。
ライトもその矢を目で追うが矢が獲物を捉えることはなかった。
鳥の至近、僅かばかり上方を矢は通過し飛び去っていった当然鳥も飛び去っていった。
「惜しいぃぃ!」
ライトは両手を握り締めながら立ち上がり大きめの声がでてしまう。
「もう!ライトのバカ、あんたのせいで外したじゃない!」
そういいながらリータの蹴りがライトの尻にはいる。
「なんで~~」
尻をさすりながら不平を返すがリータはプイっとそっぽを向く。
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