第5話 練習
ライトの一週間は森での採取と農作業の手伝いを交互に3日ずつ行い休日の7日サイクルが基本だ。
昨日ムーに魔法を教えてもらったのは採取の日だったので今日は農作業の手伝いをしなくてはならない
けれど、ライトはサンダーボルトを使ってみたくて居ても立っても居られない。
いつもより早く水汲みと雑草取りをテキパキとこなしているライトの様を後ろから見ていたティファが言う。
「おにいちゃん、何をそんなに急いでいるの?」
ギクッ
「何も急いでないよ...」
「怪し~ぃ」
ライトはティファの水色で細められたジト目から視線を外し逃げるようにその場から距離をとろうとする。
手伝いを早く終わらせて午後からは森に行こうと企んでいた。
いつもと違う様子をティファに見咎められてしまった。
「おにいちゃん、なにか隠してるでしょう?」
ギクッギクッ
まだ小さいとはいえ女の勘の鋭さにライトは恐怖を覚えた。
「なんでもないよ!」
ちょっと強めに否定をしても次からはもっと冷静な行動を心掛けねばと思い知るライトであった。
もともと純朴なライトは嘘をついたり隠し事に向いているほうではないので
昨日の今日でいろいろと行動が不自然になってしまうのは致し方ない。
妹の執拗な追求をなんとか逃れ飼っているヤギと鶏の世話を終わらせて父親に言う。
「父さん、僕の手伝いは終わらせたから午後からは森に行ってもいい?」
「ああ、残りはやっておくから行って来い」
「ありがと、父さん」
ダダダっと小走りに家に帰り背負い籠をひったくるように持って再び家をでる。
その様子を見ていたティファが言う。
「お父さん、おにいちゃんなんか変だよね」
「ああ、そうだな。
でも、男には一人の時間も必要なんだよ、
そういうのをわかってあげるのも良い女ってもんだぞ、ティファ」
「・・・」
返事をせずに水色のジト目が父親の目を見上げていた。
種蒔きの時期が終わり新緑の森は若々しいエネルギーに溢れ日を追うごとに新芽を広げていく様は
今のライトやティファと同じようにすくすくと成長している勢いだった。
シュタタタタ
そんな中をライトは駆ける。
キョロキョロと辺りを見回しながら歩き慣れた道を行くが今日のお目当ては採取の品も二の次に
落ち着いて魔法の練習ができる場所だ。
鐘の音の半分(1時間)ほど森の中を進むと大分人気も無くなり風で揺れる木々のさざなみと春に産まれた小鳥たちの鳴き声だけが聞こえてくる。
ライトはザバッンっと道の横の茂みに突っ込み駆け抜けていき道からは死角になるような裏庭程度の広場に入り込んだ。
この場所も以前に見つけていたライトの独自の採取場所だった。
広葉樹の合間から適度に木漏れ日が降り初夏の風が気持ちいい。
「ここならいいかな」
ライトは一人そうつぶやくと背中から籠を降ろし中から途中で拾ってきた手頃な石を取り出して並べ始める。
サンダーボルトの的にする為に集めてきたのだ。
石を並べ終え一息つき呼吸を整えるとつぶやく。
「魔法はイメージが大切」
頭の中で指先に小さな弱い光をイメージして右手人差し指を立て腕を伸ばし唱える。
「トーチ」
すると指先がほのかな光を発する。
ライトはその光を確認すると目を閉じて体内の魔力の流れを感じてみた。
体の中心から右腕を通ってか細い糸のような繋がりが指先まで続いているのを感じる。
「これが魔力の流れ」
目を閉じたまましばらくその感覚に身をゆだねる。
段々と集中力が増していき体内に向く感覚が鋭敏になっていく。
逆に回りの雑音が小さくなっていきやがて何も聞こえてこなくなる。
静寂の闇の中に辿る細い光の道
その流れを感じているだけでも心地よくなってきてずっと眺めていたい気さえする。
ふと昨日、ムーに手を繋いでしてもらった魔力移動を思い出してしまった。
その瞬間、魔力の塊が指先に向かって動き出すのがわかった。
「やばっ」
動き出した魔力を今のライトでは押しとどめることはできずそのまま塊は腕を通り指先まで達した。
バスンっという音とともに辺りが光に包まれた。
「眩しぃ」
ライトは慌てていたためにその光をまともに見てしまい目がチカチカしてしばらく、視界が回復しなかった。
きつく閉じていた瞼を少しずつ開いていくとお日様を直視した時の見え方になっていた。
「びっくりした~」
意識的にゆっくりと瞬きをしながら目の不調を整えていく。
「魔法はイメージが大切」
もう一度ムーの教えを反芻するライトだった。
回復した視力で辺りを見回してみると近くの木の根元にカラアゲ鳥が落ちて転がっていた。
近寄ってみると気絶しているようで死んでいるわけではない。
「神に感謝を」
指を組みそう祈りを捧げるとライトは採取用のナイフを取り出してとどめを刺し籠に入っているロープで足を括り木に引っ掛けて血抜きをした。
「これはティファの(自分も)好きなカラアゲ鳥だ、今日のおかずゲットだぜ!」
ライトの家では食事は何よりも優先順位が高いのであった。
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