第24話 話題
冒険者ギルドはにわかに活気に満ちていた。
ここ一年近く放置された状態になっていたダンジョンが攻略され、奥に進めるようになったという情報が入ったからだ。しかもそれがベネルトンの街から一番近いダンジョンであるという点も大きい。ダンジョン攻略に大きな注力したい以上、ダンジョンの入り口までにはあまりリソースは割きたくないのはみな同じである。
「それにしても『ナチュラルズ』? だったか? 聞いたことないパーティーだな」
「俺は知ってるぜ」
ギルドの軽食屋のスペースではその話題でもちきりである。
「ゲンネストのヴェルニーとスケロクとグローリエがやってる同好会のパーティーだよ」
「ドリームチームって奴だな。本業の方だとメンバーがダンジョン探索をやりたがらないから同好会の方でってことか。プライベートの方でも冒険者やって新発見するなんて無茶苦茶だな」
「俺はもう一人新人が入って、そいつがダンジョンの謎を解いたって聞いたぜ」
「新人?」
「ヴェルニー達に上手く取り入ったってことか。へっ、あやかりたいもんだぜ」
ダンジョンの攻略をはじめとして、冒険者の成果については早く共有されることが多い。「情報」は「金」になるからだ。
「となると、ベネルトンのダンジョンも攻略済みで一区切りってことか」
「いやそれがよ、新しい区画には入れるようになったが、そのまま進まずに引き返したらしいぜ」
「ってことはよ……」
そして、冒険者は当然のことながら「金」の動きには敏感である。
「金銀財宝への入り口が、口開けて待ってるってことかヨ……」
これまでにも何度か紹介したように、ダンジョン探索は人気のない仕事ではある。しかしそれは未踏破のダンジョンとなれば話は全く変わってくる。どれだけの財宝が眠っているのかも分からないし、もしそれがなくとも「未踏破のダンジョンを初めて攻略した」という名誉があれば冒険者として名が売れる。
男たちは、にやりとほくそ笑んだ。
一方、別の卓では線の細い、見目麗しい数人の男女が話をしていた。そのうちの一人は、グローリエンである。
「最近あまり本業の方が暇だったからと言って、裏でそんな事をしていたとはね」
話を切り出したのはAランクパーティー『ワンダーランドマジックショウ』のリーダー、エルフのリナラゴスである。気怠そうな表情はいつものとおりであるが、半ば呆れ、グローリエンを責めているようだ。
「別にいいじゃない。プライベートで何しようが自由でしょ」
グローリエンもそこを譲るつもりはない。へそを曲げられてマジックショウを抜けるなどと言われたらことだ。
「まあ、そのおかげで新たな稼ぎのクチができたなら良しとするか……それにしても、停滞していたダンジョンの新たな道を見つけたのか……出来れば我らがその栄光にあずかりたかったが」
「まあ仕方ないんじゃない?
「バード……?」
当事者であるのにグローリエンはまるで他人事のような喋り方をする。
それが「プライベートの事だからお前達には関係ない」と言われているような気がして、リナラゴスは話を聞いているうちにどんどん不機嫌になっていった。そしてその怒りが静かに爆発する。卓の反対側に座っている男にその鋭い視線が注がれた。
「たしか、うちにもバードがいた筈だが……?」
「そうだっけ?」
『ワンダーランドマジックショウ』のバード、マルコ。不穏な空気を感じてか、今日は楽器を無駄に鳴らしてはいない。グローリエンからは「バードじゃなくてキザな魔法使い」と言われ、ルカからは「バードとしてあり得ない」とくそみそに貶された男。この男が「悪魔のダンス」に気付いていればあのダンジョンが一年も放置されることはなかったであろう。
反論の余地はない。マルコはただ気まずそうに下を向く事しかできなかった。
「通路を開けておきながらなぜ引き返して来たかは聞くつもりはないが、これは好都合だ。ベネルトン東のダンジョン、これを攻略して、Sランクへの昇進を目指すとしよう」
「え、本気なのリナラゴス」
これには少しグローリエンも驚いた。強力な魔法を使用する上に遠距離攻撃偏重の『ワンダーランドマジックショウ』の戦い方は閉所であるダンジョンには向かず、普段は傭兵などの仕事をメインに請け負っている。本パーティーでダンジョンに再び挑むことになるとは思っていなかったのだ。
しかも本パーティーの仕事があるうちは同好会であるナチュラルズの活動は出来ない。
(ま、仕方ないか……)
せっかくこれから面白いことになりそうだったのに、という気持ちはあるものの、所詮部活動は趣味の集まり。ヴェルニー達も予定が悪か分からない以上、本パーティーの決定に従うしかあるまい。
(ゲンネストのあの男、確かヴェルニーとか言ったな……)
しかし、リーダーのリナラゴスは全く違う事を考えていた。
(人間のくせにあの美しい外見……まさか、グローリエンを狙っているんじゃないだろうな。ここでポイントを稼いで、何とかグローリエンの心を繋ぎとめないと)
むしろグローリエンは何でも恋愛に絡めてしまうその考え方こそに窮屈さを感じているのだが、そんな事とはつゆ知らず。
そしてダンジョンの攻略をすればグローリエンの心を繋ぎとめられるというのも意味不明ではあるが、そもそも恋愛とは論理的なものではないのだ。
さて、ギルド内のもう一角、依頼掲示板の近くでは重い空気が漂っていた。
「そう……じゃあ、結局ベインドットとガルノッソは」
「ああ、見つけることは出来なかった。それに、ギョームも……」
「あいつはいいのよ! あたしのケツを触りやがって! 思い出しただけでもムカツク!」
ルカとメレニー。
そのメンバーの半数以上を失った冒険者パーティー『オニカマス』は壊滅状態と言っていい状態であった。ダンジョンの新通路発見の立役者で時の人となったはずのルカが浮かない顔をしているのもそのためである。
「その……ホントにゴメン、ルカ」
「もう……いいよ」
今回のダンジョン探索がそもそもルカをパーティーから追い出すための策謀であった。それには、幼馴染のメレニーも加担していたのだ。
「でも信じて。ルカに冒険者をやめさせるってことには同意してたけど、まさか殺そうとしてるなんて知らなかったんだよ!」
新たな仲間を得てはいたが、同時に古い仲間を失っていたのである。
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