第13話 勃◯
とりあえず先に進むことにした。
ルカは『ナチュラルズ』に加入してヴェルニー達の仲間として冒険に参加した。しかし正式なメンバーではない。服も着ている。全裸見習いとしてのお試し加入である。
といっても『ナチュラルズ』は冒険者ギルドに登録されている正式なパーティーではない。あくまでもギルドに参加している冒険者達の「趣味の集まり」である。同好会とか部活動とか呼ばれるタイプの。
基本的には部活動と正式活動の間に大きな違いはない。ギルドで依頼を受けて、または自発的にダンジョンに潜ったりして素材や財宝を収拾する。活動としては同じである。
ただ、細かいところの『保障』がギルドから受けられない。パーティー内での揉め事、たとえばルカが問題を抱えていた解雇の問題をはじめとする取り決めが部活動にはない。保険に入ることもできない。保険に入っていても、部活動での活動は冒険者としての仕事として認められないので保険金が下りない。ただ、保険に関しては冒険者の死亡率が他の職種に比べてとんでもなく高いので掛け金が高く、元々入っている者が少ないが。
他には一部の依頼が受けられない。具体的には依頼者が「身元の確かな者を」と求めた場合にはギルドに保証されていない部活動ではなく、正式なパーティーが仕事を受けることになる。
要は、ギルドに加盟せずに仕事をしているフリーの冒険者と同じ扱いになるのである。
さて、そんな冒険者ギルド全裸ダンジョン部である『ナチュラルズ』にルカが加入しての初の活動が散り散りになった仲間の捜索である。
「竜の胃の中には一人しかいないね」
まず手始めに調べたのは当然ながら倒した竜の胃の中である。ヴェルニーが竜の腹を切開して中を確認した。ルカはショックが強いだろうという事で、少し遠くで反対側を向いて待っている。
「フード付きのマントを羽織った、術師っぽい栗毛の痩せた男だな。見覚えは?」
「ギョーム……確かに僕の仲間です。飲み込まれたところを目撃しました」
他の仲間はとりあえずは竜に食われてはいないようである。
「先へ進もうか。スケロク、頼む」
「まかせろ」
埋葬はせずに先へ進む。ダンジョンの中で死んだ者はダンジョンの中で朽ちていく。その死体はスカベンジャーに食い荒らされ、ダンジョンの糧となるのが礼儀。冒険者の中では「うたになる」という。
ダンジョンの中は戦場と同じ、一瞬の気のゆるみが死を招く場所。死者にまで気を払う余裕などない世界。そんな場所で死に、形見も墓もない名も無き勇者達。せめて詩人のうたくらいには残るだろうという慰めである。
誰にも知られずひっそりと行方不明になるものが多い中、吟遊詩人の目の前ではっきりと死が確認されたギョームはまだ
誰もが待ち続けている。「きっと生きている」と信じ、帰らぬ友を。家族を。
自分がそうならないためにも、ルカは先へ進む。
「今日はダンジョンの様子がおかしい。少し慎重に先へ進むぜ」
彼の言うとおり、今日はいつもと調子が違うようである。それはルカも感じ取っていた。
このダンジョンにドラゴンが現れたというのは初耳である。そのドラゴンを警戒してか、他のモンスターは息を潜めていた。
なにか下の五階層で異変でもあったのか。そこから下は未だ人類の未踏領域である。当然このダンジョンのマスターが何者であるか、何を目的としてこのダンジョンを作り、深部には何があるのか。それは判然としていない。
「とりあえずは下の階層に向かって痕跡を探しながら歩くぞ。いいな?」
上の階層に向かったならば自力で脱出できる可能性がある。やはり危惧すべきは下の階層に向かってしまって
ナチュラルズの探索は斥候のスケロクが最前列を歩き、そのすぐ後ろを大剣使いのヴェルニーが追う。そして少し後ろにマッピングをしながらグローリエンがついていく、というスタイルである。
今回は実力の足りない新メンバーという事でグローリエンと袖が触れ合うほどの距離で(グローリエンに袖は無いが)ルカが斜め後ろについている。
「あまり音を立てるなよ?」
最前列のスケロクがルカに声をかける。呼吸音が聞こえそうなほどに皆、音を立てずに歩く。実際、ルカが歩く際に出る衣擦れの音がこのパーティーの出す一番大きな音であった。
先頭のスケロクは耳の後ろに手を当て、音に注意して索敵しながら前を進む。緊張感でルカは心臓を吐き出しそうだった。音のない時と空間が延々と続き、自分の心拍の音すらうるさく感じてくる。
実際ルカの脈拍は通常よりも激しくなっていた。
グローリエンのせいである。
仕方あるまい。目の前を、花も恥じらう年頃の美しい少女が全裸で歩いているのだ。手を伸ばせば届くほどの近くを。歩く度に、小ぶりではあるものの形の良い胸と尻が揺れる。
なぜ他の二人はこれが平気なのだ。どっかおかしいんじゃないのか。いや全裸の時点でどう考えてもおかしいのだが。
ルカが服を脱げない理由の一つはこれである。
正直に言おう。今彼は、カッチカチである。
「前線で敵と接触があったわ、下がって、ルカ」
ルカの進行方向を遮る様にグローリエンの手が遮り、彼を押し退ける。
柔らかい。
別に変な部分が触れたわけではなかった。彼女の指先がほんの少しだけルカの顎に触れた。しかしそれだけでバキバキ童貞のルカは高まった。前線ではモンスターとの戦闘が行われているというのに。
「一匹そっちに行ったぞ!」
二人の取りこぼしか、双頭の狼が恐ろしい速さでルカの方に向かってくる。
「巻き込まれないようにね」
そう言ってグローリエンは杖を前に出して腰を低く落とした。腰を低く落としたという事は、まあ、足を開いたのである。
「深き地の底より獄炎よ、参れ! ヴォルケイノ!!」
ダンジョンの床が割れ、炎が吹き上がり、狼に直撃した。その衝撃でオオカミは天井に叩きつけられ、消し炭となって崩れ落ちた。
問題は、床から炎が吹き上がったので、下側からライトアップされたような形になったのである。要するにまあ、いろいろ見えたのだ。見えてはいけないところが。
「ぐっ……」
「大丈夫? ルカくん。攻撃が当たったようには見えなかったけど」
うめき声を上げてるかがうずくまった。
「大丈夫かルカ! ケガしたのか!?」
戦闘を終えたスケロクとそしてヴェルニーも戻ってきた。
「立てるかい? ルカ君」
立てないのだ。
勃っているから。
「ルカくん、ケガしたところを見せて。応急処置くらいは出来るわ」
ルカ、人生最大のピンチである。
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