1999年 2月 ④
たとえばな、とちぐさが言う。
「あづみが何年も何十年も生きて、歳をとってボートのうえで死ぬだろ」
「えっ、やだ……」
「まあ聞けや。それでな、あづみの亡骸はなにかほかのものになるんだ。海鳥がじいさんあづみを食ったら、あづみは海鳥の一部になれるし……そうだな、じいさんあづみが海に落ちたら、魚の仲間入りだな」
あづみは夢想する。海鳥の一部として空を飛び渡る自分、魚に食べられて水のなかを泳いでいく自分。悪くない、と思った。悪くないどころか、最高なんじゃないだろうか。首を傾けて、言葉をさがした。
自分がいなくなっても未来へ延びるものがある。その絶対的な安心感。
「……じゃあ、僕がおわっても僕はつづくんだ」
「そう、そうだよ。それが永遠ってこと。くりかえすこと」
世界は終わるだけではないのだ、とあづみは思った。
雨が降り出したときから、地球に「永遠」が動き出す。たくさんの、水に沈んだものたちの影に守られながら、あづみたちの舟は行くのだ。不安定な永遠のなかを。ゆらゆらと差し伸べられる亡きものの手が、あづみをがっしり支えるだろう。どんなに舟が揺れても、大丈夫なほどに。
優しいんだ、と心が頷いた。この世界はとても優しい場所になるんだ、すこし怖いくらいに。
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