1999年 2月 ③
すこし考えて、あづみはちぐさの横顔に話しかけた。
「やっぱり7月で世界が終わったら、大学にもっと行きたかったなぁーって、思う?」
「なんでだよ、俺、まだ一日も大学の講義を受けてないのに。そんなことわかるはずないだろうが」
「僕、5年生の夏休みがはじまらないのが悲しいな」
ちぐさは一瞬黙り込んで、ふいに爆笑した。
「あづみ、学校も水の底だ。ことしの7月以降、おまえは登校しなくてもいいんだよ」
「えっ、じゃあ勉強は……」
「しょうがないな、俺が見てやる」
「……ずうっと夏休みになるのか」
「そうそう」
「ずうっとって、どこまで続くの?」
あづみは心底ふしぎに思った。ずうっと、を見た人はいるのだろうか。そんなものが本当にあるんだろうか。
「永遠に、とおなじだろ。終わらないってこと」
「永遠……」
「だれかが考えたんだよ。時間には果てがないって」
「果てがない」
小声であづみはくりかえす。ちぐさの言うことは、ときどきとても難しい。でも、うっすらおそろしくなった。好きな色のクレヨンがいちばん先になくなるという歌を昔うたったのを思い出す。そういえば、あの歌はあづみにはすこし得体が知れないように思えた。あの歌のもたらす、足元が急におぼつかなくなるような感覚。もう一度味わいたいような、二度とごめんなような。
ちいさくちぐさに告げた。
「なんかよくわからないけど、こわいね」
「なんにもこわくない」
かえってきたちぐさの声は優しかった。
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