第3話ポイントこそパワー
リビングから逃げるように自室へ戻った俺は、生足事件をなるべく忘れるようと、暫く自室で心を落ち着かせた。(全然忘れられなかった……)
大変素晴らしいものを見て、ラッキーだったが、
リビングに行くと、またひよりと顔を会わせる事になるので、全然リビングに戻る気力が湧かないな……
でも、このまま逃げて続けても、どうせまたひよりに
戻る、戻らないと自問自答を繰り返し、
やっと重い腰を上げ、自室にあるガウンを持ってリビングへ向かう。
リビングに戻ると、案の定、ほくそ笑んだひよりが見せつけるかの様に、両足を組んだ状態で椅子に腰を掛けていた。
俺はなるべく下を見ないように、ひよりにガウンを渡し、
その官能的な生足を隠してもらうのだった……
「それで、脚は隠してしまって良かったのですか?」
「うるさい! 煌星の続きを教えてくれ」
「これ以上、かわいい翔真さんを揶揄うと怒られそうなので、先程の続きを説明しますね」
コイツ……いつか泣かす!
「ポイントがあれば、何でも出来るとお伝えしましたが、
具体的に何が出来るのかを、私の知っている範囲でご説明します。」
「まず、校内全ての施設はポイントで利用できます。
逆にポイント以外は使用できません。
価値としては1ポイント=1円ぐらいですが、
現金をポイントに変えることは出来ませんのでご注意下さい。
日々の生活と合わせ、進級には50万ポイント必要なので、ここで沢山退学者が出るそうです。
あ、留年はありません……」
「次にポイントの貯め方を説明します。
ポイントの貯め方は多岐にわたりますが、
新入生は主にアルバイトや動画収入で貯めるそうです。あと、文化祭や体育祭など大きなイベントはいっぱい稼ぐチャンスだそうです」
「最後にポイントを全部失うと、どうなるかも説明します。
結論から言うと、ポイントを全て失っても問題はありません。
ですが、先程お伝えしたように施設の利用には全てポイントが必要です。
なので、ポイントが無いと生活できず、自主退学される方が多いそうです。」
「私の知っているところではこれぐらいですね。
何か質問はありますか?」
「パッと思い付いた質問は5つある」
「5つもですか!?
ブランクがあるとはいえ、頭の回転が早いですね……」
「じゃあ1つ目から、入学して学校側から一番最初に貰えるポイントはどれぐらい貰えるんだ?」
「……質問を返すようで申し訳ないですが、聞かせて下さい。
なぜ、一番最初に学校側がポイントをくれると思われたのですか?」
「ひよりは全ての施設の利用にポイントが必要って言ってたよな。
それだったら、入学したての新入生は全員がメシを食えない事になる。それはあまりにも厳しいだろう?
エリートばかり集まる高校と言っても、流石に入学早々、アルバイトや動画収入でポイントを稼げるとは思わないし……」
「流石ですね……
ではお答えすると、一般試験に合格した新入生は全員10万ポイントを貰えます。
スカウト組で入られた方は10万ポイントに実績分がプラスされて支給されます。
実績はもちろん人によって変わりますので、誰が何ポイント貰えているのかは分かりません。」
「へぇ……じゃあ、俺とひよりは何ポイント貰えるんだ?」
「私と翔真さんは25万ポイントですね」
「多いな!?
俺とひよりが同じポイントって事は、ひよりの貰える分と同じ量を俺も貰えたのか、
ひよりが元々50万ポイント持っていて、俺を推薦した事で半分の負担をしないといけなくなったのか……
俺的には、ひよりの実績で25万は少ないと思うから、後者だと思うけどあってる?」
「大正解です」
「悪いな…お前のポイント貰ってしまって……」
「気にしないで下さい。それに私達ならすぐに稼げる量です」
「私達ね……」
「じゃあ、2つ目の質問。
確か煌星は全寮制だったと思うけど、家賃や水光熱費とかも自身のポイントで支払うのか?」
「家賃は毎月5万ポイント引かれるそうです。
水光熱費は引かれません。ただ、無駄に使いすぎるとペナルティがあるそうです……」
「水光熱費の出費が無いのは、地味にありがたいな……」
「3つ目はアルバイトについて詳しく聞かせて。
ポイントを稼がないといけないシステムのせいで、学生がアルバイトに夢中になり、学業が疎かになるんじゃないか?
それと、学内に生徒の数に合ったアルバイトが沢山あるとは思わない。
つまり、働き手と雇い主の需要と供給が釣り合わないんじゃないか?」
「アルバイトは学外でも行っているので、まず無くなる事はありません。
それと、アルバイトも自身の勉強の為になるので問題ありませんよ」
「学外でもやってる……それと勉強の為か……
なるほど、そう言う事か……」
「分かったみたいですね。」
「ああ。つまり役者の仕事をしたいヤツがいたとすると、学外の稽古場に行って雑用をこなしポイントを稼げる。
尚且つ、間近でプロの演技を見られるから、
そりゃ勉強になるわ。
多分、学外の仕事は元煌星のOB、OGかそれに近い関係者のコネって所か……」
「またまた、大正解です!」
「改めて煌星の力を思い知るな……」
「ふぅ……次は4つ目の質問。動画収入について。
単純にポイントを増やすには再生回数を伸ばせば良いのか?」
「そうです。
ただ、動画は3分以上からしかアップ出来ません。
さらに再生回数は3分からカウントされ、
再生1回につき、1ポイント入ります。
動画は超大手動画サイトのWetubeにアップされるので、
再生回数は稼ぎやすいかと思います。」
「それはひよりだけだろ!
世間での知名度が凄すぎるから、人気動画と言われる100万回再生とか余裕でいきそう……」
「あと、毎月、再生回数が増えた分だけポイントが貰えますので、急にバズったりするとその月にポイントが増えるなんて事もあります」
「ナチュラルにスルーしてきたな……」
「じゃあ最後。ポイントで商品購入しないと生活と出来ないという事は、学校側から何かしらのシステムを借りないといけないよな?
そうだな……専用の端末なんかが配られる認識で間違いないか?」
「その通りです。翔真さんにしては、最後の質問だけあっさりしてますね?」
「まだ質問終わってないから……
先のはただの確認。本題はポイントの貸し借りや、譲渡、極論奪うことも可能か?」
「なるほど、先の確認を踏まえると、翔真さんはこう言いたい訳ですね。
他人の端末を奪ってポイントを掠めることは出来ないか……とね」
「いやいや、そんな物騒な事は考えてないよ。
まあ、そういったヤツもいると思って、自衛のためにな……
それと、貸し借りが出来るなら、それで商売してるヤツとかもいそうかと」
「貸し借りも譲渡も可能です。
なので貸し借りで商売されてる方もいらっしゃるそうです。
ただ、利子が法外であったり、先程の奪ったりしてしまうと学校からのペナルティで退学もありえます」
「なるほどな、ポイント関係の不正は学校が警察の代わりって訳ね」
「でも、持ち逃げとか自己破産とかされるとどうなるんだ?」
「先程伝えていませんでしたが、ポイントがマイナスのまま退学してしまった場合は1ポイントにつき10円の罰金が生じます。
ですので、借りてた生徒が退学や卒業した場合は一旦、学校側が立て替えて、後日、立て替えて分のお金が借りてた生徒に請求されます」
「在学中の価値は1ポイント=1円なのに、
退学すると1ポイント=10円か……ぼってるな……」
「あ、それなら契約書とかも端末で作れたりする感じ?」
「はい。契約書とかの作成も全部端末で出来ます。」
「ポイントの説明は以上ですが、まだ何か聞いておきたい事はございますか?」
「最後に一つ。ひよりがポイントについてそこまで詳しいのは何で?」
「私が煌星学園からスカウトされて、学校について説明された時に、担当者に質問したからです。
ポイント関連含め全ての校則が載ったものを見せて下さいと。」
「それを全部覚えたのか……?」
「はい。学外への持ち出しはNGでしたので、少しお時間をいただき、覚えました。」
「……ひよりはやたら俺を持ち上げるけど、お前の方が天才なんじゃ……」
「そんな事はありませんよ。翔真さんが本気であればですが……」
「色々耳が痛いな……」
それからひよりと軽く雑談し、ゆっくりしていると、
少し肌寒くなってきて、そこで俺は玄関の扉の惨状を思い出した。
「ひより。今思い出したが、玄関の扉にチェーンソーで切り込みが入れられたままなんだが……」
「あの扉ですね。
既に業者を手配してますので、あと1時間ほどで来ると思いますよ」
「もう手配が終わっているのか!?
でも、賃貸なのに勝手に変えると怒られそうやだけど……」
「それなら大丈夫です。
このマンションのオーナーは私ですから」
「……はぁぁぁ!?」
「え、えっ、どう言うこと? と言うよりいつから?」
「半年ほど前からですね」
「半年前って事は、その段階から俺を煌星に入学させることは決めてたみたいやな……
どう足掻いても逃げられなかった、って事か……」
ひよりの行動力の恐ろしさを改めて実感し震えが走る。
これは寒さで震えているのか、恐怖で震えているのかどっちだろう……
「では、そろそろお暇させて頂きます。
明後日に学校でお会いすることを楽しみにしています。」
「えっ……!? 明後日に学校で?」
「明後日は入学式ですよ」
「ちょ、そう言うことは早く言え!!!!」
「翔真さんでしたら、大体察していると思ってましたので……」
「うっ……そう言われると責めにくいな……
責めると俺が無能みたいやから……」
「そんな事より、明日で引っ越し済まさないとマズイ!」
「早速、引っ越し業者手配しないと……」
「引っ越し業者は明日11時に来られるので、それまでに荷造りして頂けると助かります」
「もう手配してるのかよ!?」
「抜かりはありません!」
「じゃあ、もっと早く言ってくれ!!!!!!」
ひよりのマイペースさに、俺の絶叫が部屋全体に響き渡り、
途方に暮れる中、元凶のひよりは笑顔で帰っていくのだった……
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