第716話 復活の日?
「おう、久しぶり。肩はもう良いのか?」
「はい、絶好調です」
というようなやりとりを、ロッカールームで何度もした。
しかし半年しか経っていないのに、何となく違うチームに感じる。
もっともこれは良い意味である。
久しぶりに首位争いをしているチームメートからは、自信を感じる。
その中で僕は、どんな役割ができるだろうか。
まずは代打、代走、守備固め。
どんな役割でも良い。
チームの役に立てるように、与えられた出場機会で一つ一つ結果を出していきたい。
「高橋さん、お疲れ様です」
僕がベンチでバットを磨いていたら、榎田選手がやってきた。
「おう、お疲れ。1年目からなかなかの活躍だな」
軽く先輩風を吹かせてみた。
「いえいえ、最近はバッティングの調子を崩して、打率も急降下していますので、プロの壁にぶち当たっています」
榎田選手の打率は今、.237。
確かに2番打者としてはもう少し打率は欲しい。
出塁率もあまり高くないし。
「まあ、プロの壁は誰しもぶち当たるものさ。
俺だって、最近こそ3年連続で打率3割を打ったり、ベストナインを取ったりしているけど、ここに至るまでは、聞くも涙、語るも涙の物語があった。
詳しくは1部と2部を読んでくれ」
「はぁ」
「はぁ、ってまた読んでないのか?」
「いえ、あの、はい。ちょっと時間が無くて…。
無駄に長いし…」
貴様、今なんつった?
僕は手にしたバットを強く握りしめた。
「リュースケさん、後輩をイジメないで下さいよ」
そう言いながら、湯川選手がやってきた。
「おう、今シーズン、大活躍の切り込み隊長様か」
「はい、そうです。ケガは良くなったんですか?」
謙遜しないのかい。
「ああ、もう大丈夫だ。心配かけて、済まなかったな」
「いえ、別に心配してませんよ。むしろライバルが減って、ほくそ笑んでいただけで。なあ、榎田」
「え、いや、あの、その」
さすがの榎田もYESとは言えないだろう。
こういうのも後輩イビリの一つである。
「ほう、ライバルとして認めてくれて光栄だ。
安心しろ今日からは、その実力を見せつけてやるぜ」
「はい、望むところです」
こういう不遜なところも、僕が湯川選手を気に入っているところである。
プロではチームメートとは言え、ライバル。
仲良しこよしではいられない。
「おう、高橋。元気か?」
「えーと、どちら様でしたっけ?」
「貴様、恩師の顔も忘れたのか。またバッティングが不調になっても助けてやらんからな」
ああ、思い出した。
この方は麻生バッティングコーチだ。
いつもわけの分からないバッティング理論で、僕を混乱させてくれる。
監督が変わってもまだ生き延びていたのか…。
「あー、その節はお世話になりました。
また機会があればよろしくお願いします」
僕は丁寧に挨拶した。
「相変わらず可愛げのない奴だ…。
まあ、最近チームのバッティングの調子が落ちているから、是非起爆剤になってくれ」
「はい、任せて下さい」
この試合は僕は途中から代打で登場し、空振りの三振に倒れた。
でも代打が告げられた時の、大歓声。
とても嬉しかった。
ようやく帰ってきたという実感が強く湧いた。
そして翌日は1番レフトでスタメン出場し、良い当たりを連発した。
結果は5打数ノーヒット。
ことごとく良い当たりが正面をついたのだ。
まあこういう日もある。
そして翌日も1番レフトでスタメン出場し、4打数ノーヒット。
これでここまで10打数ノーヒットだ。
でも決して調子は悪くない。
これからこれから。
僕は何か言いたそうな、麻生バッティングコーチの前を素通りして、球場を後にした。
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