第712話 逆襲開始?
季節が巡るのは早い。
6月を過ぎ、7月も半ばとなった。
シーズンも半分を過ぎ、もう少しでオールスターを迎える。
我が札幌ホワイトベアーズは、この時期になっても2位と1.5ゲームの首位に立っている。
僕は順調にリハビリを重ねており、今は茨城にある2軍施設で復帰に向けたトレーニングを行っている。
今日はチームドクターとの面談があり、復帰時期を教えてもらえる予定だ。
「どうですか。調子は」
「はい、絶好調です。すぐにでも復帰したいです」
「そうですか。まあ焦らないことが重要です。
まずはレントゲンを見てみましょうか」
そう言ってドクターはモニターにさっき撮影したレントゲンを映し出した。
「うーん」
それを見るなり、険しい表情に変わった。
腕組みをして、しばし何かを考えている。
僕は急に不安に感じた。
「あの、どこか経過が良くないところがあるのでしょうか?」
「うーん、そうですねー」
僕は胸騒ぎを感じた。
最近、調子が良かったので筋トレの負荷を増やしすぎたかもしれない。
「ご自分ではいかがですか?
どこかが痛いとか、違和感があるとかありませんか?」
「ええ、特に感じません」
「うーん、そうですか…」
さっきよりも更に表情が厳しくなり、じっとモニターを見つめている。
「あのー」
僕は心配になった。
自覚症状がなくても、どこか悪いところが見つかったのだろか?
「何か見つかったんですね…」
「残念ながら…」
ドクターはそう言って悲しそうに首を振った。
「見つかりませんでした」
???
それはどういう意味だろう。
「あのー」
「何でしょうか?」
「見つからなかったというのは?」
「はい、残念ながら、経過が良好でないところはどこにもありませんでした」
???
それってつまり?
「来週には実戦復帰しても、差し支えないでしょう」
「ま、マジですか?」
「はい、マジですよ」
やったー。僕はガッツポーズした。
「またキツイ練習をして、プレッシャーのかかる試合にでなければならないのは残念でしょうが、まあ頑張って下さい」
「はい、ありがとうございます」
ドクターはさっきの険しい表情から、一転して微笑んだ。
「最後に私から1点。くれぐれも無理はしないように。チームにとって、高橋選手の復帰は大きいと思いますし、高橋選手もすぐにでも1軍でプレーしたいと思います。
でもまずは2軍の試合で実戦感を取り戻してから、1軍に合流するようにしてください」
「はい、わかりました。ありがとうございました」
最後にまた一礼して、僕は退室した。
診察室を出ると、喜びがこみ上げてきた。
ようやく僕にとっての今シーズン開幕だ。
だが焦りは禁物だ。
無理をして、またケガをしたら元も子もない。
翌週、僕は2軍に合流した。
当面は遠征には同行せず、茨城で試合がない時は
2軍施設で汗を流す。
トレーナー、チームスタッフとは8月上旬の1軍復帰を目指して、トレーニングのスケジュールを組んだ。
ジャック監督ともテレビ会議で、通訳を交えて話した。
今は首位に立っているものの、チーム状態は下降気味であり、二遊間の湯川選手、榎田選手にも疲れが見えるとのことだ。
湯川選手はそれでも打率.280台を維持しているが、榎田選手は.250を切っている。
長いシーズンを完走するのは、なかなか大変なのである。
そして今日は茨城の本拠地球場での東京チャリオッツとの2軍の試合がある。
僕は今シーズン初めてベンチ入りした。
今日はスタメンではない。
どこかで代打か守備で出る予定だ。
いよいよ待ち望んだ復帰。
僕は久しぶりの試合用のユニフォームを身に着けた。
さあここから僕の逆襲劇の始まりだ。
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