第703話A 記者会見
広報担当の新川さんに案内されて、記者会見場に入った。
カメラが7台、記者も20名近くいる。
結構注目されているようだ。
壁には大きな球団旗が貼られており、机と椅子が用意されている。
僕は球団旗に一礼し、椅子に座った…。
(なんだろう…。デジャブか。つい最近、こんな場面を経験したような気がする…)
「それでは高橋選手の残留に関する記者会見を始めます。
質問がある方は挙手をお願いします」
新川さんの発声で、10人くらいの記者の方が一斉に手を上げた。
「○○新聞さん、お願いします」
「はい、○○新聞の△△です。まず今回、ポスティング申請を断念した理由をお聞かせください」
僕は苦笑した。別に断念したわけではない。
「はい、いろいろと考えましたが、まだまだこのチームでやり残したことがあると考えました」
(以下はマスコミ名は省略する)
「やり残したこととは何でしょうか」
「はい、一番は2年連続で4位に終わり、ポストシーズンに進出できなかったことです」
「金銭的な面も大きいのでしょうか」
「全く無いと言えば嘘になりますが、ここ数年はプロ入り時には想像もつかなかったような年俸を頂いております。
お金はもちろん重要ですが、それ以上にこのチームで優勝したい、日本一になりたいというのが残留を決めた一番の理由です」
もしかして僕は今、とてもカッコいいこと言っているのではないだろうか?
「建前はわかりました。本当のところはどうですか?」
新川さーん、あいつをつまみ出してくれませんか?
僕は苦笑しながら答えた。
「まあ確かにお金の事も無くは無いです。
子供も小さいですし。
でもやっぱりこのチームで、このチームメイトと優勝したいという気持ちが強いです。
あとはファンの方の声です。
残ってほしいと多くの方に言われたというのも、正直、嬉しかったです」
「もしポスティングしても、どこからも声がかからない。
メジャーでは通用しないという、そういう気持ちもありましたか?」
なかなか辛辣な質問だ。
「そうですね…。正直、そういう不安はありました。それは確かです。でも繰り返しになりますが、それ以上にこのチームで優勝したい、という気持ちが勝りました」
「ファンとしては、メジャーの舞台で山崎投手と対戦するという場面を楽しみにしていたと思いますが、その点はいかがですか」
「そうですね。最終回はそういう展開もいいかもしれませんね。作者に言っておきます」
「ご家族はどんな反応でしたか?」
「まあ、妻はアメリカで暮らしてみたかったようですが、子供が大きくなってからでもいいか、というような事を言っていました」
「最近、高橋選手の記者会見があまり面白くない、真面目に答えすぎという声がありますが、その点はいかがですか」
「僕は野球選手であってコメディアンでは無いので…。
これまでは失言が多く、広報担当の方に怒られていたので、そこはレベルアップしました」
「順調なら来シーズン中に、フリーエージェントの資格を取れますが、その辺も日本残留の判断に影響したのでしょうか?」
「うーん、そうですね。
そこはあまり考えていないです。
まずはチームの勝利に貢献することに集中して、来シーズンが終わったらゆっくり考えたいと思います」
「チームメートからは残って欲しいとかは言われましたが?」
「いえ、全く言われませんでした。
谷口からはライバルが減るから、さっさとでていってくれ、と言われました」
「契約年数を教えて頂けますか」
「本日は条件提示を受けただけですので、まだ契約はしていません。
持ち帰って家族とも相談しますが、自分の中では決まっています」
「といいますと?」
「はい、一年契約で勝負したいと考えています」
「それはフリーエージェントを見据えての判断でしょうか」
「さきほども申し上げた通り、フリーエージェントの事は今は考えてはいません。
ただ僕の性格的に複数年契約を結ぶと、気が緩んでしまう気がします。
ですので、一年ごとに勝負したいと考えています」
「最後に札幌ホワイトベアーズファンに向けて、一言お願いします」
「はい、プロ12年目を迎える高橋隆介、来年は30歳になります。
ファンの応援とグッズをご購入いただくのが、力になりますのでよろしくお願いいたします」
「最後に言い足りないことはありませんか」
「えーと、作者からの伝言を読み上げます。
『ドラフト7位で入団しても700話を迎え、マンネリ化が著しいですが、777話、そして気力が続けば1,000話を目指して書き続けますので、引き続きよろしくお願いします。
テレビで見れない川崎劇場、書店で買えないこの小説。
第一部、第二部も併せてよろしくお願いします』…だそうです。
…。こんなことを主人公に言わせるなよ、って感じですね」
そう言って、僕は大きくため息をついた。
「それではこれで高橋隆介選手の残留記者会見を終わります。皆様、ありがとうございました」
新川さんが締め、僕は退席した。
勝手に一年契約って言っちゃったけど、結衣は怒ったりしないかな…。
まあいいや。
そして僕は愛車ぽるしぇ号で帰路についた。
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