第711話B バッファロー到着

 翌日、早速僕は機上の人になった。

 自主トレは一旦中断である。

 若手の指導(しごきともいう)は湯川選手に任せた。

 今回は2泊4日の強行日程だ。

 ハードスケジュールなので疲れを残さないために、ファーストクラスで行く。

 目ん玉が飛び出るくらいのお金がかかるが、必要経費と考えている。

 作者は一生乗れないと思うと、機内食もとても美味しく感じる。

 ファーストクラスのロゴが入ったスリッパくらいは、おみやげに持って帰っても良いが、彼にもプライドはあるだろう。


 ニューヨークで乗り換えて、アメリカの国内線でバッファロー・ナイアガラ国際空港に到着した。

 到着ゲートを出ると、代理人のタナカさんが出迎えてくれた。

 隣にはもう一人、金髪で髭を生やしたアメリカ人男性がいる。


「ようこそ、バッファローへ」

 最初にタナカさんと握手をした。

「ヘロー、タカハシ。ナイストゥーミーチュー、アイアムなんとかかんとか、ペラペラペラペラ」

 握手し、軽くハグした。


「タナカさん、こちらの方はどなたですか?」

「バッファロー グレートフォールズの職員の方で、ジャクソンさんです」

 なるほど、球団職員の方も出迎えてくれたということだな。


「さあ球団事務所へ行きましょうか。あちらに車を用意しています」

 タナカさんの後をキャリーケースを転がしつつ、ついて行った。

 今回は必要な荷物だけを、機内持ち込み可のキャリーケースに詰め込んできた。


 駐車場に着くと、これぞアメリカ車という、デカい図体の車が鎮座していた。 

 聞くと、シボレーのサバーバンという車らしい。 

 

「バッファローの街はいかかですか?」

 助手席のタナカさんが聞いてきた。

 運転はジャクソン氏がしており、僕は後部座席に乗っている。


「はい、思っていたよりも落ち着いた街ですね」

「市単独の人口は27万人くらいで、都市圏としては100万人ちょっとです。

 日本なら仙台や千葉に近いですかね」

「なるほど。治安はどうなんですか?」

 僕は車窓から、街並みを眺めながら聞いた。


「大都市の中では良い方ですよ。

 おそらく暮らしやすい街だと思います。

 ご家族はどうされるんですか?」

「当面は引き続き、札幌で暮らします。

 こっちでの暮らしが軌道に乗れば、家族を呼び寄せたいとは思っています」

「なるほど、家族で住むにも良い環境だと思いますよ。

 旅行するにも、ナイアガラの滝はもちろんのこと、カナダも近いし、オフにはいろいろな楽しみがありますよ」

「そうですか。色々と楽しみです」


 見るもの全てが物珍しく、僕は車窓を流れる街並みをずっと眺めていた。

 この街に住むことになると思うと、何となく不思議な気がするし、楽しみに思える。


 プロ野球選手になって良かったと思うことの一つは、やはりいろいろな街に行けることだ。

 本拠地でいうと、札幌、仙台、新潟、川崎、静岡、名古屋、岡山、高松、熊本。

 これらの街はプロ野球選手にならなければ、訪れる事がなかったかもしれない。

 また時々、地方球場での試合もあったので、一度だけ行った街もある。


 メジャー球団は、基本的に大都市にあり、マイナーリーグは地方都市にあることが多い。

 僕はバスの車窓から、流れる街並みを見るのが好きである。

 だからメジャーはもちろんのこと、マイナーリーグだとしても、移動を楽しめるんじゃないかと思っている。

 そんな事をタナカさんに話した。


「まあ、初めは楽しいと思いますよ。

 でもマイナーリーグの移動は過酷ですし、街と街の間は延々と同じような景色が続くので、じきに飽きると思います。

 お聞きだと思いますが、メジャーもマイナーは、それが例えトリプルエーであっても、待遇が天と地ほど違います。

 だから私としては、何としてもメジャーで、生き残ってほしいと思っています」

 まあそれはそうだろう。

 

「もうすぐ着きます。今日は球団幹部とお話して、その後、メディカルチェックを受けます。

 それが終わったら、球場とか球団施設をご案内します」

 うむ、苦しうない。


 しかしバッファロー・グレートフォールズの施設はあまり良くないと聞いていたが、どんな感じだろうか。

 期待と不安が入り混じった気持ちである。




 

 

 


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