第707話B オファーの内容

「メジャー契約のオファーがあったって本当ですか」

「はい、まあ本当です」

 タナカさんの声はどちらかと言うと暗い。

 まあ、という形容詞も気になる。


「どこのチームからですか?」

「モントリオールとバッファローです…。

 つまりアメリカンリーグとナショナルリーグの最下位チームからです…」


 モントリオールとバッファロー。

 あまり大リーグの事情には詳しくないが、どちらも人気球団で無いことは知っている。

 特にバッファローのチームは確か今シーズン、大リーグ最多敗戦を更新したことで話題になったような…。


「バッファローはここ最近は、高年俸選手を出して、若手選手を獲得することで年俸総額を抑えてきたチームです。

 またモントリオールは観客動員数が全30球団中、最下位のチームです。

 正直なところ、メジャー契約といえど、どちらもあまりオススメはできません…」

「でもメジャーはメジャーですよね」


「まあそうですけど、どちらのチームからもメジャー最低年俸クラスでのオファーです。

 バッファローが1年契約の75万ドル、モントリオールが同じく1年契約の80万ドルです」

「それって日本円でいくら位ですか?」

「そうですね。約1億円というところでしょうか…」

 年俸1億円なら、悪くもないのではないか?


「僕としてはメジャーで試合にでるのが夢なので、メジャー契約であれば条件はあまり気にしません」

「でもメジャー契約で、開幕40人枠には入れたとしても試合に出ることができる26人枠に入れなければ、マイナーリーグで戦うことになります」

「でもメジャーに上がる可能性はあるんですよね」

「もちろんそうです。ただ、狭き門ではあります」


 例え最初はマイナーリーグでプレーしたとしても、メジャーに上がれる可能性が少しでも高い方が良いのでは無いだろうか。


「ところでバッファローとモントリオールって、どこにあるんですか?」

「バッファローはニューヨーク州にある都市で、五大湖の一つのエリー湖に接した都市です」

「ああ五大湖ってガンダーラの…」

「人口30万人弱の都市ですが、都市圏人口は100万人を越えています」

 渾身のギャグをスルーされた。

 銀河鉄道と言ったほうが良かったか?


「ゴホン…、ニューヨーク州ということはニューヨークからは近いのですか」

「いえ、ニューヨークからは約400マイル離れていますので、かなり遠いです」

 なるほど、よくわからないが確か1マイルが1,600メートルだったから、マイルチャンピオンシップ400回分か。(安田記念等でも可)

 そう考えると結構遠い。

 北海道で例えると、稚内から函館くらいまでの距離だ。

 東京からなら、青森や広島くらいの距離となる。


「モントリオールはどこにあるんですか?」

「カナダの東側で、ケベック州最大の都市です。フランス語が公用語の大都市です」

「カナダにあるんですか…」

「はい。カナダで2番目の都市です。とても良いところですよ」


 なるほど。バッファローかモントリオールか…。

 どちらもあまり強くないということはメジャー昇格のチャンスがあるかも…。


「タナカさんはどちらが良いと思いますか?」

「そうですね。まだ期間はありますので、他のチームのオファーを待つという手もありますが、時間が経つと、オファーそのものが取り下げられることもあります」

「そうですか。じゃあ今日中に決めます」

「え、そんな事ができるんですか?」

「はい、どうせ良くわからないからどっちも一緒かと…」

「なるほど。まああまり悩んでも仕方ないかもしれませんね…。

 分かりました。それではご回答をお待ちしております」

 そう言って、タナカさんからの電話が切れた。


 さてどうしょう。

 読者アンケートをとっている時間もないし、とりあえず結衣に報告だ。

 僕は携帯電話を取り出した。

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