12年目 アメリカ球界への挑戦

第706話B 自主トレと鬼ノック

 年が開けた。ポスティングの申請をしてから、約半月が経過した。

 代理人のタナカとは連絡を取り合っているが、問い合わせこそチラホラ来ているが、具体的に僕を獲得したいという熱意は感じないとのこと。

 自分でも厳しいとは思っていたが、やはり簡単では無いということだ。


 報道を見ると、やはりフリーエージェント選手の目玉となっている選手から契約が決まっていっているようだ。


 焦っても仕方がない。

 正月は家族で初詣に行き、1/3からは沖縄で自主トレをやる。

 今回、アメリカでやらなかったのは、来シーズンがどうなるかわからない状態であり、日本で落ち着いて状態を上げていきたいということだ。

 そしてもしオファーが来たら、すぐに動けるようにという思惑もある。


 自主トレは湯川選手、そして若手選手6名と行った。

 今回、静岡オーシャンズのコーチに就任した山城さんが来ないので、まったりしていたら、代理で内沢さんが来た。

 内沢さんは僕の静岡オーシャンズ時代の先輩で、今は少年野球のコーチをやっている。

 山城さん以上に鋭いノックが次々と飛んできて、若手選手は目を白黒させていた。


「そんなことでレギュラーを取れると思っているのか」

 若手選手が内沢さんのノックに右往左往するのを、僕は生暖かい目で眺めていた。

 僕も若いときはTK組(特別強化組の略)に2年連続で入れられて苦しい思いをしたっけな…。


「ほら、高橋。手本を見せてやれ」

 うん、うん、そうだ、手本を…。

 え?、僕が?


「高橋、ショートでゴールデングラブ賞を獲得した実力を見せてやれ。ほら、さっさとしろ」

 僕は慌てて内野手用のグラブを取り出して、守備についた。


「行くぞ、高橋」

「よろしくお願いし…」

 最後までいう間もなく、次々と強烈なノックが飛んできた。

 しかも左右に散らして。


「こら、高橋。なまっているんじゃないのか。

 そんなんでメジャーで活躍できると思っているのか」

 まあ確かに…。

 30球連続で受けて、カゴの中のボールが無くなった時、僕はグラウンドにうつ伏せで倒れていた。


「こら、誰が寝ていいって言った。寝るのは夜だけ、冗談は顔だけにしろ」

 どうやら内沢さんもサドステイックな性格らしい。

 僕はヨロヨロと立ち上がって、再び30球連続で強烈なノックを受けた。

 そして終わると同時にまたグラウンドにうつ伏せで倒れた。

 もうダメ。ギブ…。


「おら、若手に見本見せなくて良いのか」

 はい、別に構いません。

 本当、もう無理です。

 僕は聞こえないふりをして、グラウンドに倒れたままでいた。


「おう、湯川。

 あいつを起こすために、そこにある氷がタップリ入ったバケツの水をかけて来い」

「了解です」


 僕は慌てて起きあがった。

 いくら沖縄とは言え冬だ。そんな冷たい水をかけられたら、風邪を引いてしまう。


「ほら、全然余力あるだろう。追加で30球だ」

 ということで、90球連続ノックを受けた。

 

「あ、ありがとうございました…」

 僕はフラフラになりながら、やっとの思いでベンチに戻り座った。

 そしてふとスマートフォンを見ると、着信の記録がある。

 代理人のタナカからだ。

 しかも5回も来ている。

 僕は折り返し電話した。


「もしもしタナカです」

「あのー、高橋です」

「ああ、やっとつながった。今、大丈夫ですか?

 何かゼェゼェ言っていますが…」

「体は大丈夫ではないですが、時間は大丈夫です」

 息はまだ整っていない。


「そうですか。単刀直入に言うと、オファーが来ました」

「マ、マジですか?」

「はい、2球団から。しかも、メジャー契約です」

「ほ、本当ですか?」

「はい、余白が少なくなってきたので、詳しくは次話で」

 余白は十分にあると思うが…。

 単に作者が眠くなってきただけだろう。

 


 

  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る