第703話B 退団の挨拶(by ファン感謝デー)
ポスティング申請が行われれば、その後は待ちである。
僕の獲得を希望する球団があれば、MLBに申請し、30球団に通知された日から45日の間に交渉し、その間に契約が出来なければ日本に残ることになる。
今年のスケジュールで言えば、11/1からポスティング申請期間が始まり、締め切りは12/15である。
例えば球団が12/1に申請した場合、交渉期間は1/15までとなる。
メジャーでは有力選手から先に契約が決まっていくので、僕のような選手は後回しとなる。それは自分でも自覚している。
よって申請日はできるだけ後、つまり期限の12/15近くとなるだろう。
それまでは待ちなので、球団行事(選手会行事、ファン感謝デー、納会等)に参加したり、身体のメディカルチェックをしたり、練習したりして過ごすことになる。
さあどうなるか。
もっとも自分の中では、どことも契約を結べず、日本残留となることもありうると思っている。
代理人のタナカからもそのように言われているし、山崎からもそのように言われた。
「よおメジャーリーガー」
「まだ日本にいたのか」
谷口と五香だ。
こいつらと会うのも1か月ぶりくらいだ。
今日は選手会行事である。
「よお、久しぶり。ていうか、五香は良くクビがつながったな」
今季も中途半端な成績に終わり、戦力外も予想されていたが、何とか残ったようだ。
投げては敗戦処理、守っては守備固め、ベンチでは声出し要員とそれなりに使い勝手が良いようだ。
「うるせぇよ。痩せても枯れても第一話からでているんだぜ。簡単にクビを切られてたまるかよ」
確かにそうだ。
第一話で僕の高校時代の対戦相手として登場したのが最初だ。
将来、僕のライバルになる。
最初から読んで頂いている方は、そう思っただろう。
だがこの体たらくである。
作者はなんのつもりで、五香を登場させたのだろうか。
行き当たりばったりにも程がある。
ちなみに先ほど作者は第一話を読み返し、何のために五香を登場させたか、首をひねっていた。
選手会行事はゴルフがある。
作者はパターゴルフとパークゴルフしかしたことが無いので、描写ができないそうだ。
ドライバーとパターはわかるが、アイアンとか似たようなクラブが幾つもあるのが、意味わからないらしい。
だれか教えてあげてほしい。
作者がそんな感じなので、僕はゴルフは上手くない。
結衣からはブービー賞を狙うように言われたが、惜しく3位だった。もちろん下から…。
そして翌日はファン感謝デー。
これがファンの方に挨拶する最後の機会になる。
若手選手の仮装しての寸劇や、ファンの方も交えてのゲーム、かくし芸などがあり、最後は退団する選手の挨拶となる。
僕はかくし芸として、アコースティックギターを弾きながら、尾崎豊の「僕が僕であるために」を歌った。
上手い下手はともかく、大勢の方の注目を浴びて歌うのは気持ちが良かった。
この歌はギター初心者でも弾きやすいし、歌いやすく、また老若男女にそれなりに刺さるのでおすすめである。
そして予定していたプログラムも終わり、最後に退団する選手の挨拶となった。
戦略外通告を受けて退団する選手や、自主的に引退を決めた選手が挨拶し、僕は最後に挨拶する。
僕はマウンド付近に置かれたマイクの前に立った。
「ファン感謝デーにお越しの札幌ホワイトベアーズファンの皆様。
背番号58の高橋隆介です。
本日はこのように皆様に挨拶させて頂く場を設けて頂き、ありがたく思っています。
報道等でご承知の通り、この度僕はわがままを通させて頂き、アメリカ球界へ挑戦することを決心しました。
これまで札幌ホワイトベアーズの関係者の皆様、そしてファンの皆様には非常に良くして頂き、感謝に堪えません。
本当にありがとうございました」
そこで僕は帽子を取って、深々と頭を下げた。
そして話を続けた。
「この決断をするまでに、僕はとても悩みました。
今シーズン終了後、実際にアメリカに行き、いろいろな方々の話も聞き、メジャーリーグの素晴らしさもさることながら、マイナーリーグの過酷さも知りました。
その上で、自分はどうしたいのか、将来後悔しない選択は何か、本当に悩みました。
お金の問題、家族の問題、このチームでやり残したこと、そしてファンの皆様からの応援。
これらはもちろんとても大事です。
でも最後は自分の素直な気持ちに従おうと思いました。
それがアメリカ球界への挑戦でした。
恐らくとても厳しい挑戦になると思います。
そもそも契約を結んでくれる球団があるかすら、わかりません。
でもやらないで後悔するなら、やって後悔したいと思います。
札幌ホワイトベアーズにトレードで入団して、約4年半。
僕は本当に幸せでした。ありがとうございました」
そして僕は再び深々と頭を下げた。
すると球場内から大きな拍手が巻き起こり、至る所から声援が飛んできた。
「たかはしー、頑張れよー」
「いつか帰って来てねー」
「いつまでも待っているぞー」
「りゅーちゃーん、がんばってねー」
そしてサプライズで僕の応援歌が流れた。
泉州ブラックス時代の応援歌を私設応援団同士で引きついてくれたものだ。
「打てよ、守れよ、走れよ
光と共に、蒼き旋風 高橋隆介」
ありがとうございます。本当にありがとうございます。
僕は頭を下げたままだった。
なぜなら顔を上げると、目からしずくが流れているのがバレてしまうから…。
この球団に来て本当に良かった。心からそう思った。
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