第2話 精霊の少女

 朝からしこたま飲んで、夕刻には宿屋へと帰ってきた。そしてそのままベッドにドサリと倒れ込む。すると後ろで少女の声が聞こえた。


「お兄さん。私に力をちょうだい」


 酔って回らない頭。俺は適当に頷いた。


「あぁ。好きなだけ持ってけ」


 すると弾んだ声が聞こえた。


「いいの!」


 俺は寝返りを打って、仰向けになる。


「あぁ」


 すると、体から何かが抜け落ちていく感覚がした。急激に寒くなる。俺はベッドの中に潜り込んだ。


「本当はもっと欲しいけど…… これ以上はお兄さんが死んじゃうから。また次回ね!」


 そんな声が聞こえたが、俺はそれについての意味を考える思考を放棄した。眠いし気持ち悪いしで、さっさと眠かったからだ。


「おやすみ」


 誰にともなく呟いた。そんな俺の言葉に返事があった。


「おやすみなさい」



 深夜。嘔吐感で目が冷めた。急いでトイレにバタバタと駆け込んで吐いた。


「気持ち悪りぃ」


 しばらくトイレでぐったりしていたら、またクスクスと笑い声が聞こえた。


「何なんだ?」


 戸惑っていると目の前に少女が現れて言った。


「解毒する?」


 何のことだと思った。少女が言う。


「気分が悪いんでしょ? 解毒したら楽になるよ?」


 どうやら目の前の少女は酔いを覚ましてくれるようだ。俺は頷いた。


「あぁ。頼む」


 すると、気分の悪さは消えて頭もスッキリとしてきた。目の前の少女は消えない。だから俺は尋ねた。


「お前はいったい何なんだ? 悪魔か何か?」


 少女がニッコリと笑って頷いた。


「そう呼ぶ人たちもいるね」


 俺は首を傾げる。


「そうじゃない人もいるのか?」

「うん。昔は精霊と言われてた」

「精霊ねぇ」

「うん。知らない?」

「いや。精霊の話は知ってる。契約した人に力を授けてくれたりするんだろ?」


 少女がコクコクと頷いた。


「うんうん。そうそう。それだね」

「実在したのか」

「うん。まぁ最近は私達が見える人も、私達が気に入る人もほとんどいないけどね」

「ふぅん?」


 少女が肩をすくめてクスクスと笑った。俺は問う。


「力って、どんな力なんだ? さっきの解毒がそれか?」


 すると少女は首を傾けて答えた。


「色々できるよ。解毒はその一端だね」

「ふぅん」


 俺は説明を続けてと先を促す。


「お兄さんがすることは二つ。私に何をして欲しいのか。明確に頭の中でそのイメージをすること。その代償として私に力を捧げること。だね!」

「チカラ?」

「うん」

「なんだそれ?」

「お兄さんの魂には精霊の因子と呼ばれる特別な力があるの」

「へぇ。それがあることで俺に何か利点ってあるのか?」

「うん。お兄さんが精霊に愛されやすくなるという利点があるよ」

「愛されやすくねぇ。どうせならもう少し年上の姿だったらなぁ」


 すると少女は肩をすくめて言う。


「それが望みなら力をちょうだい。望みの姿に変わったげる」


 俺は少し考えて質問をした。


「精霊の因子から得られる力とやらは失くなったりするのか?」

「うん。有限だね」

「なら、その話は無しだ。勿体ないからな」

「そっか。残念」


 そう言って精霊の少女は消えたのだった。

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