第32話:世間ではチンピラと言うらしい。
ギルドへ向かう道を歩く途中、僕たちはいつも通り多くの人に声を掛けられる。ラフィナは銀髪碧眼という珍しい容姿で注目を集めているし、態度が好ましいようで目をかけられることも多い。
「リオお兄ちゃん、また声を掛けられちゃったね……」
ラフィナが少し照れくさそうに小声で呟く。彼女の手には、さっき露店の果物売りのおばさんにもらったリンゴが握られている。
「人気者だね、ラフィナ。おばさんも君のこと可愛いって言ってたよ」
「そんなことないよ……ただ、リオお兄ちゃんの隣にいるから目立つだけ……」
彼女が恥ずかしそうに言うのを聞いて、僕は軽く笑った。謙虚なところもラフィナの良いところだ。
ギルドに到着すると、今日も中は賑わっている。依頼を受ける冒険者や、報酬を受け取る人々がひっきりなしにカウンターに並んでいた。僕たちは受付で9級への昇格を伝えられると同時に、ギルド職員から特別試験の提案を受けた。
「リオヴェルスさん、ラフィナさん。これまでの依頼の丁寧さと余裕のある行動を見て、ギルドは中級特殊試験を受ける資格があると判断しました。どうですか?挑戦してみませんか?」
若い女性職員がにこやかに言葉を続ける。ラフィナが驚いたように僕を見上げる。
特殊試験では、十分な実力を持つとギルド内で認められた者に試験を受けさせ、合格すれば級に関わらず昇格できるといったものだ。
試験はギルドが選んだ依頼をこなす形で行われる。
実力を持つ監督官が付くため、ある程度の安全が保証されており、挑戦しやすくなっているが不正は厳しく罰せられる。
「リオお兄ちゃん、どうするの……?」
僕も少し戸惑った。確かに余裕を持って依頼をこなせているけど、まだこの生活に慣れきったわけではない。
「ちょっと考えさせてもらってもいいですか?」
職員さんは笑顔で頷き、僕たちに猶予をくれた。カウンターを離れた僕たちはギルド内の一角で待っていると、最近仲良くなった中級冒険者のセドリックが声を掛けてきた。
セドリックはノトゥリオ大森林の浅部で出会った5級冒険者だ。僕たちが採取中に本来もっと深い層にいる魔物が現れ、苦戦している所を助太刀したのが出会うきっかけだった。彼の実力は確かで、豪快な戦い方を間近で見て感心した僕たちは、その後ギルドで顔を合わせるたびに挨拶を交わし、自然と話すようになった。
「リオ、聞いたぞ。飛び級試験を提案されたらしいな」
彼は口元に笑みを浮かべて僕を見下ろす。高身長で筋骨隆々のセドリックは、ギルド内でも頼りになる冒険者として有名だ。
「そうなんですけど……まだ慣れきってないので、受けるべきか悩んでるんです」
僕が正直に答えると、セドリックは軽く肩をすくめた。
「悩む必要なんかないさ。俺が見たところ、あんたたちはもう十分中級の実力がある。いや、リオなんか上級でも通用するんじゃないかってくらいだ」
「そんなことは……」
僕が否定しようとするが、セドリックは冗談めかして笑った。
「遠慮するなって。あんたと全力で戦っても勝てる気しないしな。ラフィナちゃんも初々しいが、吸収が早い。自信を持てよ」
その言葉に、僕はラフィナを見る。彼女も少しずつだが確実に成長している。僕も彼女の頑張りを無駄にしないために、この機会を活かすべきかもしれない。
「分かりました。やってみます」
僕がそう言うと、セドリックは満足そうに頷いた。
飛び級試験を受けると決めた矢先、ギルドの別の角から苛立った声が響いた。
「おいおい、お前らみたいなヒヨッコが飛び級だって?冗談だろうが」
声の主は、見るからに柄の悪い三人組の冒険者だった。粗末な装備を身に着けた彼らは、こちらを睨みつけながら近づいてくる。
「人気者だな、リオヴェルス。調子に乗ってるんじゃねぇぞ」
その中のリーダー格らしい男が、僕の胸倉を掴むような勢いで詰め寄ってきた。周囲の冒険者たちは、一瞬で静まり返る。
「やめてください。ここはギルド内です」
僕が冷静に返すと、彼は鼻で笑った。
「へぇ、冷静ぶってんじゃねぇよ。こんなとこで出しゃばってると、そのうち痛い目を見るぞ」
ラフィナが僕の袖を引っ張る。怯えているのが分かった。
「ラフィナ、大丈夫だよ。僕が守るからね」
僕はラフィナを後ろに庇いながら、手の中に純粋な魔力の塊を作り握り潰すように軽く星力を込めた。
「ちょっと失礼するね……」
僕が手を上げると、ギルド内の照明が一瞬だけ不自然に揺れ、床が微かに震える。昂る気配に伴う魔力は全て霧散し周囲の空間と僕が意識した者の魂に圧をかけた。
これ以上の実力を見せる必要もなく、彼らは動きを止めた。
「……なんだよ、この力……」
リーダー格の男は目を見開き、怯えた様子で膝をガクガクと震わせながら後ずさる。周囲の冒険者たちもざわめき始める。反感を抱いていたものにも同様に多少伝わったようだ。
「おい、あんなのに手を出すのはやめておけ」
誰かが小声で忠告する声が聞こえる。その場は次第に収まり、三人組は恐怖に引き攣った顔をしながらギルドを出て行った。
ラフィナが不安げに僕を見上げる。
「リオお兄ちゃん……怖くなかったの?」
「怖いことなんてないよ。ラフィナを守るのが僕の役目だからね」
僕は彼女に微笑みかけながら、静かにエトワールを指で撫でた。
その日を境に、ギルド内では僕たちに手を出さない方がいいという噂が広まり始めた。僕は少しやり過ぎたかなと反省しつつも、ラフィナの手を取ってその場を後にした。
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