第29話:垣間見える実力
森の出口が近づくにつれて、僕たちの足取りも軽くなってきた。木々の間から差し込む光が次第に明るさを増し、出口付近の空間が見えてくる。今日の採取は順調だったし、トラブルもなくここまで来られたことにほっとしている。
「リオお兄ちゃん、もう少しだね」
ラフィナが嬉しそうに僕を見上げながら言う。その小さな手には、先ほど集めたヒールグラスの入った袋が握られている。
「うん、あと少しで出口だ。街に戻ったら、何か美味しいものでも食べようか」
そんな話をしていた矢先、ふと周囲の気配が変わった。出口付近の茂みががさがさと揺れ、小さな影が動いている。
「……魔物だね」
僕は立ち止まり、エトワールを剣に変形させて構える。魔物の姿が茂みから現れた。全長1メートルほどの四足獣で、鋭い牙と長い尾を持った姿だ。見た目は狼のようだが、背中には棘が生えている。
茂みから現れた魔物を、僕はすぐに『
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種族名: トゲオオカミ《スパイクウルフ》
特徴:全長1メートル前後の小型魔物で、背中から鋭い棘が生えているのが特徴。狼のような姿だが、牙や爪だけでなく、背中の棘を飛ばして攻撃することもある。棘には麻痺作用を持つ毒が含まれており、一度刺されると動きが鈍くなる。群れで行動することが多いが、幼体や若い個体は単独でいることもある。
危険度: 初級冒険者が注意して戦えば問題ない程度。ただし油断すると棘による奇襲で不意を突かれる可能性があるため、注意が必要。
弱点:防御力は高くないため、素早く動き回る前に攻撃を仕掛けるのが有効。また、背中の棘が生え変わるタイミングでは攻撃力が著しく低下する。
用途:棘は魔道具や武器の材料として需要がある。また、体内に蓄えられた魔力を取り出し、魔結晶に加工することも可能。
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「……トゲオオカミか。危険度は高くないけど、背中の棘には麻痺毒があるみたいだね。油断すると危ないかも」
レーヴェから得た情報をラフィナに簡単に説明しながら、同時に図書館で読んだ内容も思い出す。トゲオオカミの解説が載っていたページには、「幼体や若い個体なら初級冒険者でも対応可能。ただし、毒を警戒すべし」といった注意書きが記されていた。なるほど、単独行動しているのは若い個体の可能性が高い。とはいえ――。
「リオお兄ちゃん、それなら私がやる!」
「やった……!倒せたよ、リオお兄ちゃん!」
彼女がこちらを振り返り、満面の笑みを浮かべる。その姿に僕は一瞬言葉を失った。あっさりと撃破してしまっただけでなく、彼女にはまったく迷いや躊躇が見られなかったからだ。
「ラフィナ……本当に一人でやるなんて、すごいね。でも、その……怖くなかったの?」
「ううん、怖くなかったよ。これくらいの魔物なら、昔もみんなと一緒に狩ったことあるから」
「昔って……」
僕は彼女の言葉に引っかかりを覚えながらも、それ以上深く聞くことはしなかった。彼女がこの年齢で、すでに魔物狩りの経験があるとは。少しずつ彼女の過去が垣間見えてきたが、それを知るにはまだ時間が必要だろう。
「ラフィナ、すごいね。でも倒した後の処理はできる?まだできないなら一緒にやろうか」
「うん、お願い……」
僕たちは倒れた魔物の前にしゃがみ込み、ストレージから本で読んだ内容をもとに解体用の道具を取り出した。
「まずは棘の部分に注意して、外側の皮を剥ぐんだ。ラフィナ、この辺りを押さえてくれる?」
「分かった……こう?」
彼女が手伝ってくれるおかげで作業はスムーズに進む。皮を剥いだ後は、食べられる部位や素材として使える部分を慎重に分けていく。
「リオお兄ちゃん、本で読んだとおりだね。すごく器用にできるんだね」
「本で覚えたことを試してるだけだよ。ラフィナも少しずつ覚えていけば、きっと上手くなるさ」
彼女の突然の言葉に驚きつつも、少し冷や冷やしながら見守ることになったのがさっきの状況だったわけだけど……いや、驚いたよ。まさかあっさり倒してしまうなんて。
解体の途中、彼女に棘の状態を見てもらう。
「リオお兄ちゃん、この棘……本で読んだ通り、毒があるんだよね?」
「そうだね。でも麻痺毒だから慎重に扱えば大丈夫。棘の付け根を切り取るときは力を入れすぎないようにすると、毒を漏らさず安全だよ」
僕の説明に、ラフィナは頷きながら丁寧に作業を進める。トゲオオカミの体から、使える素材を一つずつ分けていく。小さな体でも、きちんと狩ればそれなりの収穫があるものだ。
「こうやって見ると、結構いろいろ使える素材があるんだね」
「そうだね。この棘なんか、武器の材料としてかなり需要があるみたいだよ。次の依頼でも役に立つかもしれない」
魔物の素材を袋に詰め終えたところで、僕たちは再び森の出口へと歩き始めた。こうやって本の知識と実践を組み合わせることで、僕たちの冒険は少しずつ形になっていく気がする。
彼女は少し照れたように笑いながら、僕の手元をじっと見つめている。解体が終わり、素材を袋に詰めると、僕たちは再び森の出口へと歩き出した。
出口に向かう途中、ラフィナがふと足を止め、僕をじっと見上げた。
「ねぇ、リオお兄ちゃん。私、ちゃんとできてた?」
その大きな碧眼には、不安と少しの期待が混ざっている。その問いに僕は笑って答えた。
「もちろんだよ。初めてなのに、ここまでやれるのは本当にすごいことだ。ラフィナはよく頑張ったね」
その言葉を聞いて、彼女は少し照れくさそうに顔を背ける。
「リオお兄ちゃんがそばにいてくれたから……私、一人じゃこんなこと絶対できなかったよ」
その小さな声が、何とも健気で胸に響いた。
「でも、これからはもっといろいろできるようになるさ。一緒に少しずつ進んでいこう」
僕がそう言うと、ラフィナは思い切り笑顔を見せてくれた。それは、今までで一番明るい笑顔だった。
「うん!リオお兄ちゃんと一緒なら、きっと頑張れる!」
その元気な声に、僕も自然と笑みがこぼれる。風がそよぐ森の中で、その笑顔が太陽よりも眩しく見えた。少しずつ、彼女の心が前を向いていることを感じて、僕も負けていられないな、と思った。
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