第28話:はじめてのくえすと
朝早くに目を覚まし、僕は昨夜のうちに整えておいた荷物を確認する。今日は初めての依頼を受ける日だ。ラフィナと一緒に準備を済ませ、宿を出た。
「リオお兄ちゃん、私の準備も大丈夫だよ!」
彼女は昨日購入した簡単な防具を身に着けており、普段のラフィナとは少し違った雰囲気だ。小柄な体に合うように調整された革製の胸当てと手甲が、彼女の真剣さを際立たせている。
「似合ってるよ、ラフィナ。これで少し安心だね」
僕も同じく、昨日買った軽い防具を装備する。機能性を重視したシンプルなデザインの革鎧と膝当てだが、適切に体にフィットしていて動きやすい。
冒険者ギルドに到着すると、受付で採取依頼の詳細を確認する。担当の職員は、見慣れた中年男性だ。
「お、初めての依頼だな。ちゃんと準備はできてるか?」
彼が僕たちの装備を見て、少しだけ感心したように頷く。
「防具も揃えたみたいだし、大丈夫そうだな。ただ、採取とはいえ森の中には魔物がいるかもしれない。無理はしないようにな」
「はい、ありがとうございます。本で森の基本的な知識や採取のコツを勉強してきたので、なんとかなると思います」
僕がそう答えると、職員は驚いたように目を見開いた。
「ほう、本で勉強してきたのか。なかなか感心だな。初心者が森に入るときに、ちゃんと知識をつけておくのは大事なことだ。普通は勢いで突っ込む若い奴が多いからな……」
彼は感心したように頷き、地図を手渡してくれる。
「ここにヒールグラスが生えている場所をいくつか示しておいた。慎重にな。特に君たちは初めてだからな」
「ありがとうございます。気をつけて行ってきます」
ラフィナも隣で小さく頷き、意気込みを見せている。
ノトゥリオ大森林の入り口に到着した僕たちは、まず地図を確認して目的地を定めた。
森の浅い場所ならそこまで時間をかけずに行ける。
「さて、ここから森に入るけど、ラフィナ、大丈夫?」
「うん!ちゃんとついていくよ」
彼女はしっかりと答える。緊張と期待が入り混じった表情を浮かべているのが分かる。
森の中はひんやりとしていて、太陽の光が木々の隙間からちらちらと差し込んでいる。足元は苔や草で覆われており、どこを見ても緑一色だ。空気が澄んでいて、少し息を吸うだけでリフレッシュされるような気がする。
「まずは目的地を目指しながら、周囲の状況を見て進もう。ラフィナ、採取対象のヒールグラスの特徴、覚えてる?」
僕が問いかけると、彼女は少し考え込んだ後、答えた。
「えっと……緑色の葉っぱが三枚で、真ん中に白い花が咲いてるんだよね?」
「正解。よく覚えてるね」
僕が微笑むと、彼女は嬉しそうに頷いた。こうして少しずつ知識を吸収していく彼女を見ると、自分ももっと頑張らなきゃと思う。
森の中を慎重に進みながら、僕は周囲の音や気配に注意を払う。以前図書館で読んだ本にあったように、森の中では足音を極力抑え、周囲に溶け込むように動くのが基本だ。
「ラフィナ、なるべく音を立てないように歩くんだ。周りの様子をよく見て、少しずつ進むよ」
「うん……やってみる!」
彼女は慎重に足を運びながら、僕の後をついてくる。その姿はぎこちないながらも一生懸命で、見ていて微笑ましい。
「いい感じだね。その調子で行こう」
森の奥に進むうちに、目の前に目的のヒールグラスが見えてきた。
「ラフィナ、あれがヒールグラスだよ」
「本物だ……!」
彼女は感動した様子で、慎重にヒールグラスのそばに近づいていく。そして、小さな手でそっと摘み取る。
「取れたよ、リオお兄ちゃん!」
「よくできたね。その調子で、あと少し集めようか」
僕も彼女と一緒にヒールグラスを摘み取り、専用の袋に入れていく。数株分を確保したところで、僕たちは次の採取ポイントへ向かう。
森の中を歩きながら、僕たちは集めたヒールグラスを袋に詰めていく。ラフィナが熱心に草や花の特徴を確認しながら、手際よく採取している姿が頼もしい。
「リオお兄ちゃん、これもヒールグラスかな?」
ラフィナが小さな手で摘んだ草を僕に差し出してきた。その葉は確かに似ているが、白い花の形が少し異なる。
「惜しいね。これも薬草だけど、ヒールグラスじゃなくて『ミストハーブ』だよ。毒消し薬の材料になるけど、今回は対象じゃないから戻しておこうか」
「そっか……似てたから間違えちゃった」
彼女は少ししょんぼりした様子だが、僕は彼女の肩を軽く叩いた。
「でも、しっかり観察できてる証拠だよ。似たものを見つけられるのはいいことだからね。次はきっと間違えないさ」
ラフィナが小さく頷きながら、少しだけ微笑んだのを見て安心する。
採取を続けていると、次第に周囲の気配が変わってきた。森の奥から、かすかな音が聞こえる。鳥のさえずりが途切れ、小動物の気配も薄れているように感じる。
「ラフィナ、少し止まって」
「え?どうしたの?」
僕は魔力を薄く周りに放ち、別の魔力を探知したため周囲を見渡す。草むらの奥にかすかだが動く影が見えた。小型の魔物が何匹か固まって動いているようだ。
「あそこに小さな魔物がいるみたい。まだこっちには気づいていないけど、あまり近づかない方がいいね」
「うん、分かった……」
ラフィナは静かに足を止め、僕の後ろに隠れるようにして周囲を見回している。僕も彼女を守るように立ちながら、できるだけ音を立てないようにしてその場を離れる。
「読んだ本に書いてあった通りだね。無理に近づかず、安全な場所を選んで進むのが大事だって」
「うん……リオお兄ちゃんって本当にすごいね」
「いやいや、本のおかげだよ。こうしてちゃんと実践できるのも、ラフィナが協力してくれてるからだ」
彼女が少し照れたように微笑むのを見て、僕は再び足を進めた。
森の中での採取は順調に進み、集めた薬草も目標量に達してきた。
「これでだいたい集まったかな」
僕は袋の中を確認しながら、周囲を見渡す。日はまだ高いが、森の中は薄暗く、そろそろ戻る準備をした方が良さそうだ。
「ラフィナ、少し休憩しようか。ここなら安全そうだし」
小さな空き地を見つけ、ストレージから水筒と簡単なおやつを取り出す。ラフィナに水筒を渡すと、彼女は少し嬉しそうに受け取った。
「リオお兄ちゃん、これって……昨日のお店で見たやつ?」
「そうそう。ちょっと甘めのパンだよ。疲れた時には丁度いいと思ってさ」
ラフィナはパンを一口かじり、満足そうに微笑んだ。
「美味しい……リオお兄ちゃん、いつもありがとう」
「いや、こっちこそラフィナがいてくれて助かってるよ。一人だと寂しいからね」
休憩中、彼女と何気ない話をしながら、周囲の音に耳を澄ます。遠くでかすかに風が木々を揺らす音がするだけで、特に危険な気配はない。
「さて、そろそろ戻ろうか。次はどのルートで帰ろうかな」
帰り道、ラフィナがふと足を止めて周囲を見回す。
「リオお兄ちゃん、私……なんだかちょっとだけ役に立てるようになれた気がする」
「お、いいね。その意識が大事だよ。なんだってできるさ。一つ一つ学んでいこう」
彼女が照れくさそうに笑いながら、僕の横を歩く。森の出口に近づくにつれ、光が少しずつ差し込んでくる。採取を終えた満足感と、無事に一日を終えられた安堵感が心に広がっていた。
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