第27話:馴染む
図書館を出た後、僕たちは市場の方へ足を向けた。街の中心部に近づくにつれ、行き交う人々の数が増えてくる。賑やかな声や笑顔が広がる中で、ふと視線を感じた。
「リオお兄ちゃん、なんかみんな見てる気がするよ?」
ラフィナが僕の袖を引っ張りながら、少し不安そうに囁く。僕も周りをちらりと見回してみると、確かに多くの人がこちらを見ているのが分かった。大半は好奇の目だが、中には驚きや少し引きつったような表情を浮かべる人もいる。
「まぁ、きっと目立つんだろうね。僕たち、少し服装が変わってるし」
そう。僕たちは街で一般的な冒険者や市民の服装とは明らかに違う。僕が作ったこの服は素材も裁縫も異質で、ある意味で冒険者っぽさがない。特にラフィナの着ている服は動きやすく、それでいてさりげなくかわいいデザインにしたつもりだったけど……街中での注目度は予想以上だった。
「ラフィナ、恥ずかしくない?」
「ううん。リオお兄ちゃんが作ってくれた服だもん。リオお兄ちゃんがかっこいいのもあるかも?」
さらりと言われて一瞬言葉を詰まらせた。僕自身、特に見た目を気にしたことはないけど、街に来てから何度か視線を感じていた。服だけじゃない。この顔も原因だと、少し前に気づいた。
……まぁ、自分で言うのもなんだけど、多分、顔立ちが整ってるんだよね。それこそ作られたみたいに。
ラフィナにはっきりと言われたことで、ようやく自覚し始めた。島にいた頃は、ほとんど人目を気にする必要がなかったから、こういう視線に慣れていない。僕は軽く頭を振り、意識を切り替えることにした。
「ありがとう。でも、この服は街に馴染むには少し派手すぎるかもね。市場で服を見てみようか?」
「うん!」
ラフィナの元気な返事に微笑みながら、僕たちは市場の露店が並ぶ通りへと足を進めた。
市場は、朝よりもさらに活気に溢れていた。行商人たちが元気よく声を張り上げ、冒険者や市民がそれぞれの目的で買い物をしている。通りの両脇には、果物や野菜、日用品から防具や武器まで、さまざまな品が並んでいる。
「ここなら、何か良さそうな服が見つかるかもね」
僕は露店の中でも特に布や衣服を扱っている店を見つけ、ラフィナと一緒に近づいた。店主は目ざとく僕たちを見つけると、にこりと笑みを浮かべた。
「おや、新顔だね。どうだい、新しい服を探してるのかい?」
「ええ、街に馴染む服を探していまして。どんなものがありますか?」
僕が丁寧に尋ねると、店主は並んだ商品を指差した。
「ここら辺の服は冒険者向けだよ。動きやすくて丈夫な素材を使ってるし、汚れも落ちやすい。値段もお手頃だよ、銀貨1枚でどうだ?」
「銀貨1枚……」
その価格に少し驚いた。僕たちは手元に銀貨があるけれど、それでも銀貨1枚という金額は軽く考えられるものではない。
(なるほど……銀貨って結構価値が高いんだね)
「リオお兄ちゃん、高いの?」
ラフィナが小声で尋ねてくる。その声に僕は笑みを浮かべて首を横に振った。
「ううん、大丈夫。でも、もう少しだけ見てみようか」
そう言って店を回りながら、いくつかの服を手に取る。動きやすいズボンや薄手のジャケット、そしてラフィナに合いそうな可愛らしい服もあった。最終的に僕たちは、目立ちにくく、街で過ごすにはちょうどいい服を選んだ。
「これでどうかな?」
「うん!可愛い……リオお兄ちゃんも似合ってるよ!」
ラフィナの嬉しそうな声に、僕は少し恥ずかしくなりながらも微笑んだ。店主に代金として銀貨2枚を支払い、服を手に取った。
市場を歩き回りながら、僕たちは街の雰囲気をじっくりと味わう。道具屋や食材店、防具を扱う店など、さまざまな店が並ぶ中で、必要になりそうな場所をチェックしていった。
「ねぇリオお兄ちゃん、あれって何?」
ラフィナが指差したのは、ギルドの看板が見える建物だった。近づいてみると、どうやら依頼掲示板のようだ。さまざまな依頼が貼り出され、冒険者たちがそれを真剣な表情で見ている。
「依頼を確認してみようか?まだ受けるわけじゃないけど、どんな内容があるのか見ておくといいね」
「うん!」
僕たちは掲示板の前に立ち、並ぶ依頼書を一つずつ眺めていった。
依頼は多岐にわたっていた。魔物討伐、採取、護衛……初心者向けのものから上級者向けのものまで、さまざまな内容が書かれている。
「これなんか初心者向けっぽいね。『ノトゥリオ大森林付近での薬草採取』か。報酬は銅貨40枚」
「リオお兄ちゃん、私でもできるかな?」
「ラフィナなら大丈夫だよ。でも、もう少し準備してからにしようね」
掲示板を眺めている間にも、何人かの冒険者たちが依頼書を取っていく。その様子を見ながら、僕たちは街での生活に必要な知識を少しずつ吸収していった。
午後の市場散策と掲示板確認を終えた僕たちは、新しい服を試しつつ、街の探索を続ける。生活に必要な知識やアイテムを揃えながら、少しずつこの街に馴染んでいく準備を進めていった。
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