第24話:冒険者ギルド

門を通り抜けた先には、ラードネスの活気あふれる街並みが広がっていた。石畳の道には人々が行き交い、両脇には色とりどりの布で飾られた露店がずらりと並んでいる。耳には活気のある商人たちの声が響き、街の中央には大きな噴水広場が見えた。


「リオお兄ちゃん、ここってすごいね……!」


ラフィナは興奮を隠しきれない様子で、キラキラと輝く碧眼をあちこちに向けている。彼女の手は、まるで迷子にならないようにと僕の袖をしっかり握りしめていた。


彼女の傷が癒えたわけではないだろうが、少なくとも僕の存在が安心感を与え、周りを楽しむ余裕も生まれているのは確かだろう。


「そうだね。思ったよりずっと賑やかな街だ」


辺境の町であるとガレスさんに聞いたけれど、想像以上に活気がある。この街が公都から遠くとも繁栄している理由の一つは、僕たちが抜けてきたノトゥリオ大森林だろう。あの広大な森から得られる魔獣素材や希少植物が、この地の産業を支えているらしい。そして、それを狙って集まる冒険者たちもまた、この街の賑わいを作っているのだろう。



石畳の道を歩く僕たちの目に、まず飛び込んできたのは、立ち並ぶ露店の賑やかさだ。焼き立てのパンや香ばしい香辛料の匂いが辺りを漂い、色鮮やかな果実やアクセサリーが棚に所狭しと並んでいる。


「ねぇリオお兄ちゃん、あれ……!」


ラフィナが指さしたのは、大きな串焼きを掲げた店だった。炭火でじっくり焼かれた肉と野菜が刺さった串が、いい具合に焦げ目をつけて並べられている。その香ばしい匂いに、僕も自然と足を止めた。


「美味しそうだね。でも、食べる前に少しだけ確認を……」


僕は『星ノ眼レーヴェ』を発動し、露店の商品を見極めた。不衛生なものや危険な材料が使われていれば、それが分かる。だが、この店の串焼きは安全だと判断できた。


「大丈夫そうだね。じゃあ、一つ買ってみようか」


「うん!」


ラフィナが楽しそうに頷く。僕は店主に銅貨2枚を渡して串焼きを二本手に入れると、一本をラフィナに手渡した。


「ありがとう、リオお兄ちゃん……いただきます」


彼女がかじりつくと、その顔がぱっと明るくなった。


「すごく美味しい!」


「そりゃ良かった。ゆっくり食べなよ」


僕も一口かじる。ジューシーな肉汁と香ばしい味が口いっぱいに広がり、街の賑わいの中で食べるそれは、なんだか特別美味しく感じられた。




街を少し歩いたところで、冒険者ギルドの看板が目に入った。大きな建物の正面には「冒険者ギルド ラードネス支部」と書かれた看板が掲げられている。


「冒険者ギルドはここみたいだね」


「冒険者になると身分証がもらえるんだよね?」


「そうだね。それに登録しておけば、この街だけじゃなく他の街でも身分証代わりになるから便利そうだよね」


僕たちはギルドの中に入ると、室内は外とは違って静かな熱気に包まれていた。壁には冒険者向けの依頼が貼り出されており、いくつものテーブルが並ぶ広間では、冒険者たちが談笑したり、作戦会議をしている姿が見えた。


受付のカウンターには数名の職員が立ち働いており、僕はその中の一人に声をかけた。


「すみません。冒険者登録をしたいのですが」


若い女性職員がにっこりと微笑みながら対応してくれる。


「登録ですね。それでは、お二人の基本情報を伺います。お二人で登録されますか?読み書きは出来ますか?」


「はい。僕と……それから、この子も一緒に。読み書きは出来ますよ」


「えっ、ラフィも?」


ラフィナが驚いたように目を見開いた。


登録に関する説明を受けたが10歳以上であれば登録できるようだ。

幼過ぎるようにも思うが厳しい生活環境の子供たちはもっと幼い年齢でも登録できる場合があるようだ。


割と厳しい世の中なんだね。


「ラフィナももう10歳を超えてるし、一緒に登録しておけば安心だよ」


「う、うん……」


彼女は少し不安そうだったが、僕の言葉に頷いた。


職員が用意した書類に、僕たちは必要な情報を記入し、手続きを進める。


手続きの中で冒険者ギルドに関する説明も受けた。


冒険者ギルドっていうのは、この世界の色んな街にある、冒険者たちのための施設だ。依頼の仲介をするのが主な役割で、町の安全や発展を支える大切な組織でもある。ギルドに登録すれば、冒険者としての活動が正式に認められる。街での信頼や仕事を得るためには、ほぼ必須だと言える。


ギルドにはいくつかの基本的なルールや仕組みがある。まず、冒険者は10歳以上から登録可能だ。登録時には身分証明書も兼ねた冒険者証が発行されるんだけど、最初は誰でも『10級』からスタートする。つまり、完全な初心者ってことだね。


冒険者のランクは『10級』から始まり、依頼をこなして実績を積むことで昇級していく仕組みだ。ランクは10級から1級まであって、さらにその上に特級っていうのもあるらしい。特級はほとんど伝説級の冒険者だけが名乗れるものだけど、そこを目指す冒険者も少なくない。


ランクはこんな風に区分されている

10級(見習い)~9級、8級、7級(初級)

初心者が属するクラス。簡単な依頼、例えば物資運搬や低危険度の魔物討伐なんかが中心。


6級、5級、4級(中級)

ある程度の経験を積んだ冒険者が所属するクラス。中型の魔物討伐や、危険地帯の探索などが増える。依頼の難易度も上がるから、実力と経験が求められる。


3級、2級、1級(上級)

もうここまで来ると街でも有名な冒険者になる。大型魔物の討伐や国家級の依頼なんかも回ってくるレベルだ。


特級

言わずと知れた規格外。どのギルドにも数人いるかいないかの存在で、彼らの名は大陸中に知られている。国に匹敵する力を持つ者もいるって噂だ。



ギルドの依頼は、大まかに3つのカテゴリに分かれてるんだ。


1. 討伐依頼:魔物や犯罪者を倒す仕事。危険だけど、報酬が高いのが特徴だね。



2. 収集依頼:特定のアイテムや素材を集める仕事。手間がかかるけど、初級ランクの冒険者でも挑戦しやすい。



3. 護衛・運搬依頼:貴族や商人を守る仕事。報酬も安定してるし、経験値も稼げる。




ギルドには『冒険者訓練所』って施設も併設されてることが多い。ここでは武器の扱い方や魔法の基礎を学べたり、ランクを上げるための試験も受けられる。特に新米冒険者にはありがたい場所だ。


さらに、ギルドの役割にはもう一つ大事なものがある。それは、冒険者同士の情報交換の場になること。ギルドの提携酒場や広間では、ベテラン冒険者から貴重なアドバイスをもらったり、仲間を見つけることができる。時には競争やトラブルも起きるけど、それもまた冒険者の世界だって感じがする。


街ごとに特色はあるけど、どのギルドも冒険者をサポートする仕組みは共通している。ラードネスのギルドは辺境にある分、魔獣素材やノトゥリオ大森林の珍しい植物を扱う依頼が多いみたいだ。


まぁ、ギルドは便利な場所だけど、気をつけないと危険もある。中にはズルをしたり、他人の功績を横取りしようとする輩もいるって話だ。それでも、冒険者をやるならギルドなしでは始まらないようだ。




「お二人とも登録条件を満たしていますので、問題ありません。これから簡単な適性検査を行いますね」


「適性検査?」


「はい。魔力量や基礎的な能力を見るだけの簡単なものですので、ご心配なく」


僕たちは案内され、ギルドの登録検査が行われる部屋へ向かうことになった。


ギルドの登録手続きが進む中、僕たちは適性検査が行われるという部屋に案内された。

職員さんに連れられ、ギルドの奥へと進むと、そこには明るく広い検査室が広がっていた。壁には訓練用の武器が並び、床には柔らかな素材が敷き詰められている。奥には木製の人形――いわゆる木偶が何体か立っており、冒険者の訓練施設としても使われているようだった。


「それでは、これから魔力量、身体能力、持久力の三項目を測定します。結果は参考として記録しますが、登録後の初期ランクは全員一律で見習いランクの10級からのスタートですので、ご安心くださいね」


若い職員さんが丁寧に説明する。ラフィナは少し緊張した様子で僕の袖を握り、僕に小声でささやいた。

依頼をこなす中で実力との乖離がみられる場合は飛び級試験を提案されることもあるらしいが、自発的に受けることは不可能なようだ。


「リオお兄ちゃん、私……大丈夫かな……?」


「大丈夫だよ。できる範囲でやればいいんだ。それだけで充分だから」


彼女の頭を軽く撫でて安心させながら、僕自身も少し興味を持っていた。初めて受けるこの検査で、自分の力がどう評価されるのか――少しだけ楽しみだった。



まず最初の項目は魔力量の測定だ。職員さんが運んできたのは、透明な水晶のような道具だった。その表面は滑らかで、光を反射してキラキラと輝いている。


「これは魔力量測定装置です。手をかざしていただくと、魔力量に応じて光の強さが変わります。基準としては――」


職員さんが壁に貼られた表を指さす。そこには「微光=10級、明るく輝く=7級以上、眩しいほどの輝き=4級以上」など、光の具合による魔力量の目安が記されていた。


「それでは、どちらから測定しますか?」


「じゃあ、僕から」


僕は装置の前に立ち、手をかざした。

多分僕がしっかりやると取り返しのつかないことになる気がするから魔力を制限して測ろう。


見た感じこの装置は対象から漏れる魔力の濃度を測定する魔道具の様だ。


その瞬間、水晶が眩い光を放ち始めた。最初は柔らかな光だったが、徐々にその輝きは強くなり、ついには部屋全体を照らすほどの明るさになった。


いや光過ぎでしょ。


「えっ……!?」


職員さんが目を見開いて絶句している。


「ちょ、ちょっと待ってください……こんな強い光、4級どころか、上級クラス以上の数値です……!?」


僕は苦笑いを浮かべながら、手を引っ込めた。これでもかなり抑えたつもりだったが、どうやらそれでも充分に目立ってしまったらしい。


「次はラフィナだね。やってみる?」


ラフィナに促すことで場の雰囲気の切り替えを試みて見る。


「う、うん……」


ラフィナは小さな手を恐る恐る水晶にかざした。その瞬間、柔らかな青白い光が水晶から溢れ出す。それは僕ほどの強烈な光ではないが、それでも十分に鮮やかで、美しい輝きを放っていた。


「これも……中級クラス、少なくとも6級相当ですね。すごい……!」


職員さんは明らかに驚いていた。ラフィナは少し照れくさそうに僕を見上げる。


「リオお兄ちゃん、私も大丈夫だったかな……?」


「もちろんだよ。ラフィナはすごい魔力量だ。自信を持っていい」



次に行われたのは、身体能力の測定だ。木偶を使った武器の扱いを見る検査と、軽い走り込みで持久力を測定する検査だ。


「こちらの武器の中から好きなものを選んでください。初心者でも扱いやすい短剣や軽い木製の剣がありますよ」


職員さんが案内するが、僕は軽く見回して、適当な木製の剣を手に取った。それを握った感触を確かめながら、木偶の前に立つ。


「それでは、攻撃を加えてください。連続で構いませんので、力の加減や精度を見ます」


「分かりました」


僕は軽く構え直し、一気に木偶へと踏み込む。


振り抜かれる剣の一撃が木偶を捉え、軽快な音を立てた。そこからさらに連続で攻撃を加える。剣筋は正確に的を捉え、力の加減を変えながら、的確に打撃を与えていく。


「……速い……!」


素早い剣速で攻撃した後、とどめに冗談から振り下ろすと木偶が砕けてしまった。


職員さんが感嘆の声を漏らす中、僕は一連の動作を終えて一歩引いた。


「これでいいですか?」


「はい、充分です……ええと、まるで上級の冒険者の動きでしたが……?」


僕は苦笑いしながら木製の剣を戻し、次はラフィナの番だ。


「ラフィナ、やってみる?」


「……できるかな……」


彼女は不安そうにしながらも、小さな短剣を選び、木偶の前に立った。


「大丈夫だよ。焦らなくていい。ゆっくりやればいいんだ」


彼女が深呼吸をし、短剣を構える。軽く踏み込むと、短剣が木偶に当たる軽い音がした。その動きはぎこちないが、確実に的を捉えている。


「……おお、この年齢でこの正確さはすごいです……!」


職員さんが驚きの声を上げる中、ラフィナは何とか一連の動きを終え、僕の方を振り返る。


「リオお兄ちゃん……できたよ……!」


「うん、よく頑張ったね。さすがだよ、ラフィナ」




最後に、簡単な走り込みで持久力を見る検査が行われた。


「では、こちらのコースを走ってください。疲れたら無理をせず、そこで止めてくださいね」


僕は軽く準備運動をし、走り出した。一定の速度でコースを何周も走る。身体が軽く動き、息もほとんど乱れない。


「もはやそんな気はしてたけど…この人……全然疲れてない……!」


職員さんが驚く声を上げる中、僕は軽く手を振りながら数周を終えた。


「次はラフィナの番だよ」


彼女は少し緊張しながらも、コースをかなりのペースで走り始めた、職員さんは直ぐに疲れないか心配しているようだが心配はいらない


ラフィナはあの時のボロボロな状態で数日生き延びてたみたいだからね。一緒に森を抜けて来る中で、ラフィナの持久力や生存能力は相当高く仕上がっているのを感じていた。



ラフィナがコースを終え、息を切らしながら僕の元へ戻ってきた。


「お疲れ様、ラフィナ。よく頑張ったね」


彼女の頭を撫でると、嬉しそうに微笑んだ。




全ての測定を終えた後、職員さんは結果を整理しながら首を傾げていた。


「正直、驚きました……お二人とも、初期登録では10級スタートになりますが、実力は明らかにそれ以上です。リオヴェルスさんは上級クラス、ラフィナちゃんも中級クラスの力がありますよ」


「そんなに?」


僕が少し驚いた様子を見せると、職員さんは力強く頷いた。


「はい。特にリオヴェルスさん、上級冒険者でもこれほどの結果を出す人はなかなかいません。ラフィナちゃんも、この年齢で中級の水準に達しているなんて驚きです。これからの成長が楽しみですね。お二人とも、大変優れた素質をお持ちです」


「……そ、そうなんだ……私、そんなにすごいの……?」


ラフィナは自分の結果に驚いたようで、胸に手を当てながら僕を見上げた。その目には不安と期待が入り混じっている。


「すごいよ、ラフィナ。君は本当に頑張ったんだ。これからもっと成長できるよ」


僕は安心させるように彼女の頭を撫でた。ラフィナは少し照れたように笑みを浮かべたが、その笑顔の裏にまだ不安を抱えているのが分かる。


「でも、リオお兄ちゃんみたいにすごいわけじゃないし……私、まだ何もできないよ」


ラフィナの声は小さく、どこかしょんぼりしていた。僕は彼女の肩に手を置き、優しく語りかけた。


「大丈夫だよ。ラフィナは何もできないんじゃなくて、まだ始まったばかりなんだ。これからできることを増やしていけばいいんだよ。一緒に頑張ろう」


その言葉に、彼女は少しだけ目を輝かせた。そして、決意を込めたように小さく頷く。


「うん……ありがとう、リオお兄ちゃん」


職員さんは結果を記録し終えると、改めて僕たちに向き直った。


「お疲れ様でした。それでは、これで登録手続きはすべて完了です。お二人の身分証は明日には発行されますので、それまではこの仮冒険者証をお持ちください」


職員さんから手渡された仮冒険者証を受け取り、僕たちは感謝の言葉を述べた。


「ありがとうございました。身分証が発行されるまで、街を探索してみます」


「ぜひそうしてください。この街には冒険者にとって有益な施設や店がたくさんあります。何か困ったことがあれば、いつでもギルドを訪ねてくださいね」


僕たちはその言葉に軽く頭を下げ、ギルドを後にした。ラフィナが仮冒険者証を大事そうに抱えながら、僕に問いかけてくる。


「リオお兄ちゃん、次は何するの?」


「そうだね…まずは魔結晶の報酬を受け取ってから、街を歩いて、必要なものを揃えたり、食べ物を探したりしようか。ラフィナも疲れてるだろうし、今日はゆっくり休める場所を見つけるよ」


彼女が安心したように微笑みながら頷くのを見て、僕は彼女の手を軽く握り、一歩を踏み出した。


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色々書き足してたら普段の二倍ほどの長さになってしまいました。


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