第16話:黒神龍(後編)

森の奥深く、暴風と雷鳴が響き渡る中

アズヴァーンが再び翼を大きく広げると、空気が一変した。赤黒く輝く瞳が僕とエルシアを睨みつけ、巨大な体を揺らしながら低く唸る。その口元には灼熱の光が宿り、再び放たれようとしているのは、島そのものを焼き尽くすほどの力――神炎の吐息だ。



「次はさっきより本気か……けど、そう簡単には撃たせない」


エトワールを剣へと変形させると、星力と魔力を混ぜて放つ光の刃をアズヴァーンの口元へ向けて放った。星力の刃は空気を切り裂き、アズヴァーンが息を吸い込む瞬間を正確に狙い撃つ。



「攻撃の準備が遅いよ。隙が大きすぎる。」


星力の刃が命中すると、アズヴァーンは一瞬たじろぎ、喉元から漏れ出した魔力が乱れる。その隙をついてリオヴェルスは空中へ跳び上がり、翼の付け根を狙って剣を突き込む。衝撃が走り、アズヴァーンの巨体がバランスを崩す。



「今よ!そのまま押し切るわよ!」



アズヴァーンは怒りの咆哮を上げ、翼を一気に広げると同時に巨大な爪を振り下ろす。その攻撃は一瞬で地面を裂き、衝撃波が周囲を吹き飛ばす威力を誇るが――


冷静に距離を取り、エトワールを盾へと変形させる。爪が地面を叩き割る直前、盾を星力で強化し、正面から弾き返した。



「その力、確かにすごいね。でも、僕には当たらない。」


再び爪を振り上げようとするアズヴァーンだったが、その隙を突いて宙を舞いながら槍に変形させたエトワールを振り抜く。鋭い一撃がアズヴァーンの鱗を打ち砕く音が響く。



「……手玉に取ってるわね」


次は星力を纏った拳をアズヴァーンの顔面に叩き込む。巨竜の頭部が後方へわずかに揺れ、その衝撃で赤黒い魔力が再び乱れる。



激怒したアズヴァーンが尾を振り回し、雷の力を帯びた一撃を繰り出す。すかさずエトワールを再び盾に戻し、尾の動きを正確に見極めた上で受け止める。



「尾も鋭いけど、動きが直線的だね。冷静なほうが強いんじゃないかな?」


受け止めた衝撃を利用し、跳躍してアズヴァーンの背中に飛び乗ると、剣を槍へ変形させ、雷を帯びた鱗を叩きつけるように打ち砕く。その一撃が命中し、アズヴァーンが苦しげに吼える。


アズヴァーンが翼を羽ばたかせて振り落とそうとするが、空中で体勢を立て直す。


アズヴァーンが再び神炎の吐息を放とうとするが、それを読んで一瞬で距離を詰める。剣を双剣に変形させ、その切っ先に星力と魔力を纏わせると、連続した斬撃をアズヴァーンの胸部と脚に叩き込む。


赤黒い魔力が大きく揺らぎ、ついにアズヴァーンが動きを鈍らせる。その隙を見逃さず、光・属性結界エレメントバリアを生成してアズヴァーンの巨体を包み込む。



「すごい……本当に一歩も引かないなんて!」


じゃあ大人しくしてもらうよ。


光の結界の中で星力を込めた拳を握り、最後の一撃を叩き込む。その拳がアズヴァーンの頭部に命中し、巨体がついに力なく崩れ落ちた。



アズヴァーンは横たわり、赤黒い瞳が次第に暗く沈んでいく。その巨体は静かに動きを止め、深い眠りに落ちたようだった。


エトワールを剣から指輪の形に戻し、そっと息をつく。


「これで一旦大丈夫だ。正気を取り戻す準備をしよう。」


エルシアが駆け寄りながら呆れたように笑う。


「本当に手加減しながらあそこまでやるなんて……さすが、って言っておくわ。」


リオヴェルスは穏やかな笑みを浮かべ、静かに森を見渡した。空には雲が残りながらも、わずかな星明かりが差し込み始めていた。


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