第17話:新たな目的地
アズヴァーンの巨体は横たわり、激しい戦闘の爪痕を残した森の静寂が、ようやく戻りつつあった。僕はエトワールを指輪の形に戻し、息を整える。
「これまで治してきた魔物たちよりも酷い魔力の乱れ方をしてるみたいだね」
エルシアは少し離れた場所で静かに見守っている。その表情には、僕への信頼と不安が入り混じっていた。ルミとコウも近くに寄り添い、不安そうにアズヴァーンの様子を見ている。
「お前たち、手伝ってくれるか?」
ルミは静かに鳴き、コウは翼を広げて答える。僕は二人に頷き、アズヴァーンの頭部近くに手をかざした。
「まるで無理やり魔力の根源を捻じ曲げられたみたいだね……気合を入れて流れを整える必要がありそうだ」
僕はエトワールから浄化の力を発動させて、剣をアズヴァーンに当てる。そして自分の魔力と合わせてアズヴァーンの体に流し込む。乱れた魔力の流れを整えるため、全神経を集中させた。
「ルミ、コウ、君たちも頼む」
ルミは小さな体から銀色な魔力を放ち、コウは羽ばたきながら紅い風の魔力で循環させる。二人の力が僕の力に呼応し、アズヴァーンの周囲に淡い光が広がっていく。
「……少しずつだけど、安定してきたみたいだ」
アズヴァーンの赤黒かった瞳は閉じられ、その巨体を包むように穏やかな光が漂い始める。呼吸のような魔力の律動が戻ってきたのを感じ、僕はほっと息をついた。
「これで、一旦は大丈夫そうだな」
僕たちがアズヴァーンを見守っていると、エルシアが木陰から近づいてきた。
「リオヴェルス、あの竜のことは任せて。彼はもう危険な状態じゃないみたいだし、目覚めるまで時間がかかるでしょう。……その間に、次の問題に取り掛かったら?」
僕はエルシアの言葉に頷き、空を見上げた。この島全体を覆うように漂う魔力の乱れ。特に中央から放射状に広がる異常な気配は、放っておくわけにはいかない。
「……あの場所か。島の中央に何かあるのは間違いない。そこを整えない限り、島は完全には元に戻らないだろうね」
ルミとコウもそれを察しているかのように、前を見据えて小さく鳴く。
アズヴァーンと戦った場所は中心に近かったため少し進めば到着した。
「ここか……確かに異常だな」
目の前には、荒れ狂う魔力の渦が広がっていた。地面にはひびが入り、空気が青白く揺らめいている。原因は不明だが、この乱れを整えない限り、島全体が危険にさらされることは明白だ。
「やるよ」
僕はエトワールを再び指輪から剣へ変形させ、星力を練り上げた。ルミとコウもそれぞれ魔力を高め、準備を整える。
「星の力よ……この地を穏やかに導いてくれ」
星力を地面に流し込み、
「……少しずつだけど、安定してきた」
しかし、魔力の渦が簡単に収まるわけではない。突然、渦の中心から黒い影のような存在が現れ、僕たちに襲いかかってきた。
魔物でも精霊でもない。僕の知らないナニカだった。すかさず
_____________
種族名:歪の因果
特徴 :世界の悲鳴の具現化。不定形で目につくモノ全てに攻撃性を持つ。持つ力は貧弱だが、世界の因果が無理やり捻じ曲げられた際に生じる。
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普段異なる表記になった。存在の持つ情報が少ないのか?世界の悲鳴?曲げられた因果?
疑問が尽きない情報が沢山だが、今は相手している場合では無い。
僕はエトワールを構え、影の一撃を弾き返す。ルミとコウもすかさず動き、影に向けて光と風の攻撃を繰り出した。
「さっさと片付るよ!」
影を一閃で斬り裂き、渦の中心に再び星力を注ぎ込む。影が消えるとともに、渦の勢いが弱まり、周囲の空気が徐々に澄んでいく。
捕縛した方が良かったかな?しかし余裕が無かったのも事実だ。これは反省だね。もっと実力をつけないと。
最後にルミとコウの力を借り、魔力の渦を完全に沈静化させた。青白い光が静かに消え去り、島の中心に安定した静けさが戻ってくる。
「やった……これで、島全体が少しずつ落ち着いていってるね」
僕は剣を指輪に戻し、静かに息をついた。ルミとコウが満足そうに鳴き声を上げ、僕の肩に飛び乗る。
「よくやったな。二人とも助かったよ」
僕たちは森を振り返りながら、アズヴァーンの元へ戻るための道を歩き始めた。
僕たちがアズヴァーンのもとに戻ると、その巨体がわずかに動いた。閉じていた瞳がゆっくりと開かれ、赤黒く輝いていた瞳は穏やかな金色に変わっていた。
「……気がついたんだ」
僕はそっと呼びかける。アズヴァーンは一瞬だけ迷うように首を傾けたが、やがて静かな声を発した。
「……貴殿らか。私を正常に戻してくれたのは……」
その声は重々しくも柔らかく、先ほどの凶暴な咆哮とはまるで別人のようだった。
「大丈夫かい?君の魔力が大きく乱れていたから、なんとか整えてみたけど……」
僕が慎重に尋ねると、アズヴァーンは深く息を吐き、巨大な体をゆっくりと起こした。
「助けてもらった礼を言う。感謝する……貴殿らの名前を聞いても良いだろうか?」
「僕はリオヴェルス、そしてこっちがルミとコウだよ。そして彼女が精霊のエルシア」
その言葉にルミは小さく鳴き、コウは翼を軽く羽ばたかせる。エルシアも少し離れた場所から近づき、腕を組んでアズヴァーンを見上げていた。
「改めて礼を言う。リオヴェルス、ルミ、コウ、エルシアよ」
もしこれで邪智暴虐な存在だったらどうしようかと思っていたが、島の主をしているだけあって、思慮深く冷静な様だ。
「なぜあんなことになっていたのか説明してくれるかしら?あなたほどの存在が、あそこまで乱れるなんて尋常じゃないわ」
エルシアの問いかけに、アズヴァーンはしばらく考えるように目を閉じていたが、やがてゆっくりと口を開いた。
「……私が感じたのは、星そのものの法則が荒らされた痕跡だ。何者かがこの星の因果を無理やりねじ曲げた。それによって、私のいた島の中央が異常をきたしたのだろう。あそこはこの島の魔力の流れの源泉だからな」
アズヴァーンの言葉に僕たちは顔を見合わせた。星の法則が荒らされる……一体どういうことなのか。
「因果がねじ曲げられる?それは……具体的にはどういうことなんだ?」
僕が尋ねると、アズヴァーンは再び瞑想するように目を閉じ、重々しい声で続けた。
「『歪の因果』は知っているか?」
アズヴァーンが静かに問う。
『歪の因果』というと先程
「例えば、お前たちが相手にした『歪の因果』と呼ばれる存在――あれは、この星が悲鳴を上げた結果だ。正常な流れが断ち切られ、無理やり異常な形に結びつけられた。それが歪んだ形で具現化し、厄災として現れる」
エルシアが眉をひそめ、鋭い声を上げる。
「じゃあ、あの歪な存在も……外部からの力が原因ってこと?」
「そうだ。そして、この島がその舞台として選ばれたのは……おそらく星の意志が働いた結果だろう。ここなら、他の場所よりも被害が少なく済むと判断されたのだ」
その説明に、僕は息を飲んだ。星の意志。僕がまだ完全に理解できない存在が、この星に深く関わっているのだ。
「でも、どうしてそんなことが起きたんだ?誰が、何のためにそんな力を使ったのか……」
僕の問いに、アズヴァーンはゆっくりと首を横に振った。
「それは私にも分からない。だが、これが偶然ではないことは確かだ。この島だけでなく、星全体に同じような歪みが広がる可能性がある」
エルシアは腕を組んで沈思黙考していたが、やがて決意を込めた声で言った。
「なら、私たちが知るべきことは一つね。この星に何が起きているのか。そして、それをどうにかできるのかを」
僕は彼女の言葉に頷き、アズヴァーンに視線を戻した。
「君は、まだ何か分かることがあるか?」
「……私はこの地を守る役目を持っている。この異常がここで収まるなら、今後もこの島を見守り続けるつもりだ。だが、お前たちのように島の外で何が起きているのかを探ることはできない」
その言葉に、僕はしばらく考え込んだ。エルシアと目を合わせると、彼女は頷いてみせる。
「島を出るしかない、ということだね。僕たちが外の世界を知り、何が起きているのかを調べないと」
アズヴァーンは頷き、彼の巨体が再び静かに横たわる。
「しばらくはここで眠り、力を蓄えよう。またいつかお前たちに会う日が来ることを願っている」
僕は彼に近づき、手を差し伸べた。その手に、アズヴァーンは爪先をそっと合わせるようにして応えた。
「ありがとう、アズヴァーン。君の言葉を無駄にはしない」
「そうだ。召喚魔法を覚えたら教えて欲しい。貴殿らには大きな借りがあるのでな。力が必要であれば私を呼ぶがいい」
召喚魔法なんて便利な魔法もあるようだ。後でエルシアに聞いてみたが必要ないと思って言わなかったそうだ。
エルシアが少し離れた場所から皮肉っぽく笑う。
「本当にこの島に来て、いろいろあったけど……やっぱり外に出ないと何も分からないのね」
ルミとコウも静かに鳴き、僕たちの決意に同調するようだった。
僕はその場で小屋にあった本を一通り思い返したが、「歪の因果」や「星の法則」に関する情報は何一つ見つからなかった。それを解明するには、やはり島を出るしかない。
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