第5話:海の精霊

夜が明け、海辺に朝日が差し込む。静かな波の音が響く中、僕は精霊の隣で目を覚ました。彼女の透き通る体が、淡い光を帯びて穏やかに輝いている。


「……よかった、無事みたいだな」


僕が小さく呟いたその時、彼女の体が微かに動いた。



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「……ここは……?」


透き通る声が耳に届いた。彼女がゆっくりと目を開け、ぼんやりとした瞳でこちらを見る。その姿には力が戻りつつあり、僕は安心した。


「気がついたんだね。よかった……」


僕は胸を撫で下ろしたが、次の瞬間、彼女が起き上がると同時に顔を驚愕に染めて距離をとった。


その直後、魔法を発動したのか大きな水球...水と言うにはあまりにも激しい流れと鋭さを孕んだ水の槍を何本も生み出しその矛先を僕に向け…


発射した。



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激流の槍が僕に着弾するが、体に風穴を空けることは無く、体に触れたものから霧散していった。


避けれる速度ではあったが、何となく危機感はなかったため、そうはしなかった。


「あなた……何をしたの?」


その声には警戒と戸惑いが混じっている。僕は慌てて手を振った。


「違うんだ!僕は君を傷つけるつもりなんてなかった。ただ、魔法を練習していて……君が近くにいるのに気づかなくて……本当にごめん!」


敵意をなんとか和らげようと、どんどん僕の言葉が早口になるっていくと同時に、精霊の表情も微妙に変わっていく。しばらくして彼女は静かにため息をつき、小さく頭を振った。



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「私も……あなたが魔法を使っているのを知らずに、大きな魔力の流れを感じたのに気楽な気分で様子を見に来たところに暴発の余波が当たって。それで気絶して……迷惑をかけたわね」


彼女はその場に座り直し、淡く輝く目で僕を見た。


「誤解して、咄嗟だったとはいえ攻撃してしまって...ごめんなさいね」


「いや、僕の方こそ……!」


お互いに謝り始め、言葉が重なり、どちらが悪いのかを押し付け合うような妙な空気が漂う。



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その時、銀色の狐がそっと間に入り、短く鳴いた。


「クゥン!」


その声にはどこか叱るような響きがあり、僕も精霊も一瞬で黙り込んだ。狐はまるで「落ち着いて話し合え」とでも言うように、鋭い目でこちらを見つめてくる。


「……そうだね、まずは落ち着こう」


僕は息を整え、改めて精霊の方を向いた。



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「僕の魔法が暴発して、君に迷惑をかけたのは間違いない。本当にごめん。これからはもっと気をつけるよ」


「そう……。でも私も、あなたがどれほどの力を持っているか分からずに近づいてしまった。私も謝るわ」


お互いに頭を下げると、狐が満足したように尾を振り、僕の膝にちょこんと座り込む。その仕草に、精霊が微かに笑みを浮かべた。



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「あなた……不思議な力を持っているのね。それに高位の精霊の私は魔力の量には自信があるんだけど私に回復魔法をかけられたようだし。」


回復魔法は保有する魔力が多いものほど流れを整えるのが難しくなり、掛けづらくなるらしいが、そこまで難しいとは感じなかったな。


精霊は僕をじっと見つめ、言葉を続ける。


「普通の魔法使いとは少し違う……あなたが秘めている力には、どこか星の光を感じるわ。私の魔法が効かなかったのも、それが関係してるわね。」


「星の光?」


彼女の言葉に、僕は少し驚きながら問い返した。しかし、精霊はふんわりと微笑むだけで、それ以上何も言わなかった。



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「それにしても、この狐……面白い子ね。あなたたちは仲がいいのね」


精霊は狐に目を向け、その頭を優しく撫でた。狐は目を細めながら満足そうに尻尾を振っている。その様子を見て、僕も少し安心した。


「僕たちはずっと一緒だよ。この島で出会ってから、いつもそばにいてくれるんだ。」


「そう……素敵ね」


「本当は太陽のような羽毛を持つ小鳥もいつも一緒にいるんだけど、君が目覚める前に何処かに飛んでいってしまったんだ。また彼が戻ってきたら君にも紹介するね。」


「それは楽しみだわ」


精霊は優しい目をして、僕と狐を見つめた。



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「これからどうするつもりなの?」


彼女が問いかける。その声は柔らかいが、どこか試すような響きがあった。


「もっと魔法を学んで、自分の力をちゃんとコントロールできるようになりたい。それに、この島のことももっと知りたいんだ」


僕の答えに、精霊は満足げに頷いた。


「いいわ。私は『エルシア』というの。海の精霊としてこの島を見守っている存在よ」


「エルシア……僕はまだ名前がないんだ」


そう言うと、彼女は少し驚いた顔をしてから、微笑んだ。


「名前がないの?それなら、これから見つければいいわね」



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エルシアは銀色の狐を撫でながら、ふと僕に目を向けた。


「ところで、さっきの魔法……あれが暴発した理由、分かる?」


その問いに、僕は少し戸惑いながら首を振った。


「いや、正直分からない。ただ、もっと注意すべきだったとは思うけど……」


エルシアは軽くため息をつくと、透き通る指で僕を指差した。


「あなた、、魔力を扱うときに流れを無視してるのよ」


「……流れ?」


「そう、マナはただの力じゃない。川のように自然な流れがあるの。それを無理やり引っ張ったり、形を変えようとすると反発が生まれるのよ。あなたはありえないくらいの力で無理やり押さえつけて何とか使えてたみたいだけど。それはイレギュラーだからやめておきなさい」


彼女が倒れるほどの威力で暴発してしまったのは僕が無理やり魔力を押さえつけていたからだそうだ。


---


彼女の言葉に、僕は本の内容を思い出した。確かに、魔力を流れる水のように扱えと書かれていた部分があったが、正直あまり意識はできていなかった。


「どうすればいいんだろう?」


僕が素直に尋ねると、エルシアは小さく微笑んで手を差し出した。


「やってみましょう。私が手伝うから」



---


僕は彼女の指示に従い、もう一度手を前にかざして集中した。


「まずは、魔力の流れを感じるの。無理やり掴もうとしないで、流れに身を任せるのよ」


エルシアの透き通る声が、波の音と重なって心地よく響く。言われた通りに深呼吸をし、指先に意識を集中させると、微かな流れが感じられた。


「これが……流れ?」


「そうよ。それをそのまま形にするの。ただし、川の流れを無理にせき止めるのではなく、穏やかに誘導するようにね」



---


僕は手のひらをゆっくり動かし、流れる魔力を丸い形に整えた。先ほどよりも簡単に火の球が生まれる。その輝きはどこか柔らかく、周囲の空気を穏やかに包み込むようだった。


「成功した……!」


「まだよ」


エルシアは軽く笑いながら、さらに続けた。


「次はその形を保ちながら、力を加減してごらんなさい。さっきは一気に出しすぎて暴発したのよ。流れを壊さない程度に少しずつ力を加えてみて」



---


僕は言われた通りに、火の球に意識を集中した。ほんの少しずつ力を注ぐと、火が微かに輝きを増す。それでも流れは乱れず、穏やかに動き続けている。


「なるほど……これなら安定するんだ」


「そういうこと。力任せに使うのではなく、自然に寄り添うように操るのよ」



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銀色の狐が満足げに尾を振り、小鳥が肩で軽く鳴いた。彼らもこの成功を喜んでいるようだった。


「ありがとう、エルシア。君が教えてくれなかったら、きっとまた失敗してたよ」


僕が素直に感謝を伝えると、彼女は少し表情を緩めた。


「まあ、あなたのような者に教えるのも、悪くないわね」


「僕のような存在……?」


「ええ、あなたは普通の人間でもないし、獣人やエルフ、ドワーフに天翼人に精霊でもない。でも……その力には何か大きな意味がある気がするわ」


彼女の言葉には深い意味が込められているように感じたが、僕はそれ以上問い詰めることはしなかった。


「ただ、一つだけ言っておくわ。私は精霊として、この島を守る存在。特定の一個体に肩入れしすぎるのは本来なら望ましくないのよ。でも、あなたは普通の人間じゃないようだから例外にしてあげる。なんなら人間じゃないわねあなた」


エルシアは意地悪そうに微笑むが、その目には優しさが宿っていた。


人間ではないと言われたがあまり動揺は無く、確かになというくらいにしか思わなかった。



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「これからも……いろいろ教えてくれるのか?」


僕が恐る恐る尋ねると、彼女は軽く笑いながら頷いた。


「ええ、力の使い方だけじゃなく、精霊としての知識も教えてあげるわ。ただし、学びたいならその分努力しなさい。特別だからといって甘えるのは許さないわよ」


「分かった、頑張るよ」


僕は彼女に向かって深く頷いた。この出会いは偶然だったけれど、エルシアは僕にとって必要な存在になりそうだ。



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精霊エルシアは僕の先生のような存在となった。彼女から学ぶことで、自分の力をさらに深く知り、この島での時間をより充実させることができるだろう。




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