第3話:魔法

古びた建物の中はまだまだ不思議なもので溢れていた。僕は絵本を読み進めながら、文字と絵の意味を少しずつ覚えていった。それに夢中になりすぎて、気づけば夜が近づいている。


狐がそばで静かに丸まり、小鳥は棚の上で羽を休めている。二匹とも、この時間が心地よさそうに見えた。


「さて、次はこれだな」


僕は新しい本を取り出した。それは、他の絵本と少し違って、文字が多めだったが、それでもいくつかの絵が描かれている。一つのページを開くと、そこには手をかざして光を放つ人の絵があった。


「これは……魔法?」


絵の中の人は手のひらから光を放ち、周囲の草花を輝かせているように見える。その姿には、何か強い力を感じた。



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本をめくるたびに、別の絵が出てきた。炎のようなもの、風の渦、水が宙を舞う姿――どれも言葉では説明しにくいが、視覚的に強く印象に残るものだった。


「魔法って、こんなことができるんだ」


僕は絵を指でなぞりながら、ページをめくり続けた。


その中には簡単な手順のようなものも描かれていた。文字を読むのはまだ難しいが、図解されている部分を見て、なんとなくの流れを理解することができた。



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「もしかして……僕にもできるかな」


思い立ったら、試してみたくなる。僕は本を膝に置き、絵に描かれている通りに手を前に出した。


呼吸を整え、指先に意識を集中させる。絵には「感じることが大事だ」といった内容が書かれているようだったので、それを真似てみる。


「力を……引き出す?」


指先がじんわりと熱を持ち始める。すると、周囲が一瞬だけ静まり返り、まるで空気が重くなるような感覚がした。



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「……え?」


次の瞬間、小さな光が指先に現れた。それはほんの一瞬の出来事で、光はすぐに消えてしまったが、確かに何かが起きた。


「これが……魔法?」


銀色の生き物が静かに頭を持ち上げ、こちらをじっと見つめる。その瞳には、驚きよりもむしろ納得のような表情が浮かんでいた。


小鳥は軽く羽ばたき、僕の肩に降りてきた。まるで、何かを期待するかのように鳴いている。



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「もう一度、やってみるか」


僕はもう一度手を前に出し、今度はもっとしっかりと集中してみた。頭の中で何かが広がる感覚があり、それに応じて体の内側から力が湧き上がってくるような気がした。


再び指先に光が灯った。今度は少しだけ長く続き、その周りの空気が揺らいで見える。


「これが……僕の力なんだな」



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魔法というものが何なのか、まだ完全には分からない。それでも、自分にもこういうことができるのだという実感が、心の中に少しだけ自信を与えてくれた。


「もっと、知りたいな」


僕は本を抱え直し、まだ読んでいないページをめくった。この建物には、きっともっとたくさんの魔法の知識が眠っているはずだ。


狐は僕の隣に座り、穏やかに尾を振っていた。その動きが、まるで「次を見てみよう」と言っているように感じた。



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こうして、僕の中に「魔法」への興味が芽生えた。島での生活はまだ始まったばかりだけど、少しずつ世界が広がっていくのを感じる。


「この力を使えば……もっといろんなことが分かるのかもしれないな」


僕はページをめくりながら、次にどんな知識が得られるのか、胸を高鳴らせていた。



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草原に立ち、風が心地よく頬を撫でる中、僕は静かに目を閉じた。


「魔力を感じる……」


先程は何となくで発動出来たが本に書いてあった通り、魔法を発動するには、まず自分の周囲に流れるエネルギー――魔力を感じ取る必要がある。目を閉じて深呼吸を繰り返すと、次第に空気の中に微かに流れる何かが意識に触れた。それは風のように軽やかで、けれど確かに存在するもの。


「これが…魔力…」



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ゆっくりと手を前にかざす。周囲の魔力が指先に集まり、柔らかく揺れる光の粒となって浮かび上がった。


「これを……整えるんだ」


魔力は形を持たないエネルギーだ。だが、本には「形を与えろ」と書かれていた。言葉の意味を完全に理解しているわけではないが、本能的に分かることがある。


僕は指先を少しずつ動かしながら、その光の粒を丸い形に整え始めた。



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「……ゆっくり、崩れないように」


光の粒はまるで意思を持っているかのように動き、時折ばらけそうになる。それを穏やかに手のひらで包むようにして制御する。すると、少しずつ一つの球体へと形が整っていった。


「これでいいのか?」


丸くなった光の球は、微かに脈動しながら静かに浮かんでいる。その動きは僕の呼吸に合わせて変化しているようだった。



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「次は……大きさを調整するんだな」


本には「形が整ったら大きさを安定させろ」とも書かれていた。光の球を見つめながら、意識を集中させる。少しだけ力を抜くと、球体がふっと小さくなった。逆に力を込めると、少しずつ大きくなっていく。


「面白いな……まるで生き物みたいだ」


狐が少し離れた場所で見守っている。彼の青い瞳には、不思議そうな光が宿っていた。



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「形も大きさも整えたら……次は発動だ」


僕は光の球を前方にそっと押し出した。球体がふわりと浮かび、数メートル先で静かに消えた。その瞬間、微かな風が周囲に広がり、草が軽く揺れる。


「成功……だよな?」


僕は自分の手を見つめながら呟いた。魔力を扱うのは初めてだったが、なんとか結果を出せたことに小さな達成感を覚えた。



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次に挑戦するのは「火」の魔法だ。本には、炎を生み出すには魔力を高速で振動させる必要があると書かれていた。


「振動させる……ってどうやるんだ?」


僕は手をかざし、また魔力を感じ取る。今度は光の粒を作るのではなく、その粒を細かく震わせるイメージを頭の中で描いた。


「もっと早く、もっと強く……」


すると、指先にじわりと熱が集まってきた。次の瞬間、小さな火花がパチリと弾ける。


「……できた!」


火花はすぐに消えたが、その一瞬で何が起きたのかを感覚的に理解した。狐が嬉しそうに軽く尾を振り、小鳥も羽ばたいて肩に降りてきた。



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「よし、もう一度」


今度は火花ではなく、小さな炎を灯すつもりで魔力を振動させた。数秒後、指先に淡い赤い光が灯り、それが揺れる炎の形に変わる。熱を感じながらも、炎は決して指を傷つけることはなかった。


「これが……火の魔法か」



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こうして、僕は少しずつ魔法を扱えるようになっていった。魔力を形作る感覚も、少しずつ慣れてきた。それでも、まだ学ぶことはたくさんある。


「次は……もっと複雑な魔法に挑戦してみるか」


建物に戻り、本を再び開く。そこには、もっと高度な魔法の技術が描かれていた。僕はそのページを指でなぞりながら、次の挑戦に胸を高鳴らせた。



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結構ストックあるけど最初にいきなり50話くらい公開した方がいいのでしょうか?

どっちにしろ少し忙しい時期なので余裕ができるまで予約更新で進めていきます!


数日したら急に話数が爆増してる可能性があります。

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