第2話:残された足跡
森の奥へ進むと、木々の間から何かが見えた。それは、古びた石の壁だった。
「……これは?」
近づくと、それは小さな石でできたものだった。壁には苔が生い茂り、崩れかけた部分もあるが、入り口の様なものはまだはっきりと残っている。誰かがここにいたのだろうか。
銀色の生き物が先頭に立ち、扉の方へ進む。僕も続いて足を踏み入れた。
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扉は朽ちていて、軽く押すとギシギシと音を立てながら開いた。
中は薄暗く、静かだった。太陽の光が隙間から差し込み、埃が細かく舞っている。その中に、古い木の棚や机、椅子が見えた。特に目を引いたのは、棚に並ぶ不思議な物体だった。
それは四角い形をしていて、薄い板が重なっている。初めて見るものだったが、なんとなく「大事なもの」だと直感的に感じた。
銀色の生き物が軽く鳴いて棚の方へ近づいた。僕もそれに続いて、一つ手に取ってみる。
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「これ……何だろう」
触れると、その物体は意外と柔らかく、薄い板が何枚も重なっていることが分かった。一枚めくってみると、中には小さな記号や模様のようなものがびっしりと並んでいる。
「絵……じゃないな」
記号の意味は全く分からない。ただ、それが意図的に並べられたものであり、何かを伝えるためのものだということだけは分かった。
他の四角い物体を手に取ると、今度は色鮮やかな絵が描かれていた。それは木や動物のようなもの、そして何かをしている人の姿だった。
「これは……わかりやすいな」
絵をじっと見つめていると、銀色の生き物が軽く尾を振りながらこちらを見ていた。
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棚をさらに調べていると、小鳥が軽く羽ばたいて鳴き声を上げた。何かを教えるように、棚の奥をつついている。
「何かあるのか?」
棚を動かすと、奥からもう一つの四角い物体が現れた。それは他のものよりも小さく、表面に星の模様が描かれていた。
手に取ってみると、表紙の中には簡単な絵が描かれている。木々、動物、星……それぞれが単純な形で描かれており、近くには小さな記号も並んでいる。
「……これは、絵と記号を組み合わせたもの?」
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本能的に、この絵と記号を関連付けて覚えられる気がした。例えば、木の絵の横にある記号が「木」という意味を持つのではないか――そんな考えが頭をよぎる。
僕はその絵本を膝に置き、一つ一つの絵と記号をじっくりと見つめた。最初は漠然とした違和感しかなかったが、次第に記号が意味を持つような感覚が生まれてきた。
「この記号……こういう意味なんだな、きっと」
銀色の生き物は静かに隣に座り、小鳥も棚の上で羽を休めながらこちらを見ている。彼らも僕が何かを理解し始めていることを感じ取ったのだろうか。
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しばらく絵本を見ていると、隣の机に目が留まった。そこには壊れた小さな道具や、石でできた不思議な模様のついた板が置かれていた。銀色の生き物がそっとその板に近づき、鼻先で軽くつつく。
「これも……大事なものなのか」
僕はそっとその板に触れてみた。冷たい感触とともに、胸の奥に少しだけ暖かい感覚が広がる。その感覚は、さっきまで読んでいた絵本とどこか似ていた。
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「ここに住んでいた人が、これを残したのかな……」
僕は呟きながら、絵本をしっかり抱え込んだ。この場所にあるものを通じて、もっとこの島や、ここに住んでいた人のことを知りたいと思った。
「ありがとう。君たちがここに連れてきてくれたんだな」
銀色の生き物が静かに鳴き、小鳥も軽く羽ばたいて嬉しそうに鳴いた。
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僕は絵本を持ったまま、さらにこの建物を調べることにした。この場所にはまだたくさんの「記号」や「物」が残されている。すべてを理解するには時間がかかるだろう。でも、それが不思議と楽しみだった。
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日はだいぶ傾いていた。
棚から手に取った絵本を読み進めるうちに、いくつかの記号と絵の関連性が少しずつ分かってきた。木々や空、草原の名前――それらを一つ一つ覚えていくたびに、この世界が少しだけ明瞭に見えるようになってくる。
「……なるほど、これが“木”で、これが“鳥”か」
僕は何気なく、そばでじっとしている銀色の生き物を見た。
「君は……“狐”に似ているな」
絵本に描かれていた狐の絵は、小柄でしなやかな体つきを持ち、鋭い耳と長い尾が特徴的だった。銀色の毛並みを持つこの生き物とは少し違うが、それでもしなやかな体や大きな耳、長い尾を見れば、どこか似通っているように思えた。
ただ、それだけではない。彼の尾は、揺れるたびに微かに光の軌跡を描き、瞳には深い知性が宿っている。ただの野生の狐では説明しきれない、神秘的な輝きがあった。
「けど、普通の狐じゃないよな……君は、星の光を纏った特別な存在だ」
銀色の生き物は小さく尾を振り、僕の言葉を認めるようにそっと目を細めた。
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小鳥が軽やかに飛び回りながら、机の上に降り立つ。その羽の動きが、光を反射してきらきらと輝いて見えた。
「君は……“鳥”だね。けど、普通の鳥とも少し違う」
絵本に描かれていた鳥たちは、翼で空を飛び、地上から木の上へと自由に行き来していた。彼らの翼はただ羽毛に覆われているだけだったが、この小鳥の翼は透き通るようで、光を浴びると淡い虹色に輝く。
「羽が……星の光を映してるみたいだ。君も、特別なんだな」
小鳥は羽ばたきながら軽く鳴き、僕の肩に舞い降りてきた。その動きには優しさがあり、僕に向ける瞳もどこか親しみ深い。
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僕はふと、絵本の一部に描かれていた動物の群れの絵を思い出した。森や草原で暮らす様々な生き物たち――その中には、さっき見かけた赤い鱗の獣や、大きな翼を持つ鳥に似た姿もあった。
「この島の生き物たちは、みんな絵本に出てくる動物に近いけど……それ以上に特別なんだな」
絵本に描かれた動物たちは自然の一部として生きている存在だったが、この島にいる生き物たちは、どこか神秘的な雰囲気を纏っている。それは単なる野生ではなく、この島そのものと繋がっているような印象を受ける。
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「本の中だけのものだと思ってたけど……実際に見て、触れて、分かることもあるんだな」
僕は絵本をそっと閉じた。銀色の生き物は相変わらず僕のそばにいて、小鳥は軽やかに羽ばたきながら机の上を歩いている。彼らとこうして過ごしていると、自分がこの島の一部になれているような気がした。
「まだこの建物の中に何かあるかもしれないな」
僕は立ち上がり、再び探索を始めた。
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