第52話:望郷はいつまでも響く
夏が過ぎ去り秋が到来、してすぐのお話。
カノイ・マークガーフ、この度初めて!王都の地に立ちました!
「ここが王都……。」
「すげー……。」
「都会ですね……。」
初めて見る王都はどこか懐かしい、歴史的文化財を見ているような感じだった。
なんというか、ぱっと見は19世紀のイギリスを彷彿とさせる煌びやかな装飾が多く施されている。
しかし、よくよく見ると電球や電線のような現代的な技術がそこかしこで使われている。
どこかちぐはぐなようでいて、まとまりを見せるそれは、きっと多くの転生者が残していったものなのだろう。
私は……その中にはいない。
私は私、カノイ・マークガーフとして生きているのだから。
でも、少しだけ、ほんの少しだけ、彼らと同じように生きてみたかったという"吉井一人"という人格が顔を出す。
それでも、それでも私はカノイ・マークガーフだ。
転生者でも賢者でもない、マークガーフ家に生まれたカノイという少年だ。
だから、この感情は仕舞っておこう。
「すごい技術だな~!家にも持って帰れないかな?」
「どうでしょう?何がどうなっているのやら……。」
「いいな!あれとかそれとか持って帰ろうぜ!」
私は彼らとともに生きている、カノイ・マークガーフだ!
「カノイ~!そろそろ着くぞ~!」
「あ、はーい!」
やっと別荘に着いたようだ!
「別荘ひろーい!」
「ははは!まぁそうだな。実家よりも幾分か広いな。」
幾分かというか、かなり広い。
寝室1室1室がとても広い。
「わーわー!こんな広いところに住むの!?」
「そうだぞ~。剣術大会の間だけな。」
「もったいない!もっと旅行に来るべき!」
「そうだな~。カノイが大人になったからこれたんだぞ?これからは好きな時に来るといい!」
やったー!今度はフロージとヘディンも連れてこよーっと!
あ、でも二人が大人になってから連れてくるべきか?
王都という大都市に来るのは分別の付く大人になってから。
そういうことだよね父上。
「迷子にならないように頑張る!」
「うん?ははは!頑張れよ、カノイ!」
剣術大会は何とも大盛況!
出場者達も沢山!
筋骨隆々な奴もいればひょろっとした奴もいる。
その中でも一際目立っているのが、リボルとヴァイスだ。
「やっぱり家の子って綺麗だよな~。」
いつも目の保養になっていただいております。
なんというか、他の同年代の人間を見たことでより一層家の子達の美しさが際立つというか。
いや、家の子達ずば抜けて可愛いわ。美人さんしかいないもん。
前世の記憶と照らし合わせた場合、他の参加者も整った顔立ちをしてはいるのだ。
それでも見劣りしない家の子の美貌よ。フォーエバー。
なんてふざけている間に剣術大会は始まった。
「がんばれ~!リボル~!ヴァイス~!」
「おう!」
「はい!」
二人は順調に勝ち進んでいった。
そうしたらどうなるか、答えは簡単!
「リボル選手!ヴァイス選手!前へ!」
わお!いつも通りの光景!
「では……決勝戦!開始!」
「おりゃー!」
「はー!」
いつも通り、リボルとヴァイスが打ち合っている、のだが?
いつもより気迫があるというか、なんか、あれ?戦いの中で成長した?
切っ先はいつも以上のスピードで斬撃を飛ばしている。
斬撃っていうかエフェクト?みたいなのが見える……え、こわ……。
「すごいね!リボルもヴァイスも剣に魔力を乗せて斬撃を飛ばしている!あれは私もなかなか習得するのに時間がかかったよ!」
え~父上もできるの?というかあれ魔法なのか。なら納得……できるかなぁ?
おっと、そうこうしているうちに勝負がつきそうだ!
「くっ!」
「とどめだ!うおりゃー!」
「負けるか!はあー!」
かんからん
と音を立てて剣が落ちる。
勝ったのは、
「……っしゃ!久しぶりに俺の勝ちだ!」
「はぁ……まいりました。」
「勝者!リボル選手!」
「「「うおおおぉぉぉ!!!」」」
新しいチャンピオンの誕生に会場は大盛り上がり!
ついでに私も大盛り上がり!
「優勝リボル!準優勝ヴァイス!これってかなりの好成績なのでは!?」
「そうだな!よかったな~カノイ!優秀な部下が二人もいて!」
父上も嬉しそうに私の頭をわしゃわしゃと撫でる。
こういうとこ親子だな~と思う。
「カノイ!」
「カノイ様!」
「二人ともよくやった!よーしよしよし!」
駆け寄ってきた二人の頭を思いっきり撫でる。
「ちょ、まてってカノイ!」
「ふふ、カノイ様、乱暴ですよ!」
親子だから仕方ないね!
そんなこんなで、剣術大会は案外あっさりと終わった。
リボルもヴァイスも王都の騎士団に誘われていたが、
「いや、俺、忠誠を誓った方がいるので。」
「私には心に誓ったお方がおりますので。」
なんて断っていた。え、かっこいい……惚れちゃいそうだぜ!
……茶化してはいるが、心の底から嬉しかった。
あぁ、彼らは私と共に生きてくれるんだな、と思うと胸が熱くなる。
「さて!王都を満喫するのは次にして、さっさと帰るか!」
「えー!もっと遊ぼうぜ!」
「駄目駄目!フロージとヘディンがいない日が続くと私が寂しい!」
「ふふふ!そうですね、皆が心配ですし、帰りましょうか。」
よーし!懐かしの我が家に帰るぞ!
カノイ・マークガーフ、12歳、王都最強の部下二人を手に入れた秋の出来事である。
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