第50話:大人って突然なるけど心が追い付かない時もある

12歳の朝。


成人の朝!


今日は何を隠そう成人式だ!


成人式といってもみんなでワイワイやるようなものではなくて、なんていうか、成人の儀?みたいな感じらしい。


朝は成人式、昼は生誕祭、夜は家族でお祝いだ。


ということで朝一番に起きて速攻父上のところに突撃だ!


「パパ~?成人式は~?」


「うん?おぉカノイか。早いな、楽しみだったのか?」


「まぁね!人生に一度だけのイベントだしね!」


「ははは!そう楽しいものでもないけどな!」


「え?そうなの?」




そうして連れてこられたのは例の赤い実の木こと神の木の前。


えー!嫌なんだけど!何か聞く前だけど嫌なんだけど!


「ここでな、血を一滴たらすんだ。」


「嫌なんだけど!って一滴?」


「神の木にカノイのことを覚えてもらうんだよ。今後の人生で子供が欲しくなった時に安全に妊娠出産できるようにね。」


「ほへー。」


そうか、安心して妊娠出産できるように……うん?


「私が産むの?」


「うん?どちらになるかはわからんが、念には念を入れてな。」


「……それもそうか。」


どちらになるかわからない性なんだよな、私達は。


前世のこともあるからなんというか、あんまり考えたことなかったなぁ。


まぁ興味本位で体験してみたい気もするが、どっちになるかはその時になってみないとわからんなぁ。


なんて思っている間に父上が私の指先をナイフで切る。


言って!先に言っといて!


「痛いぃ……。」


切り傷ってなんかジュクジュクして痛いよね。


こればっかりは前世と今世を合わせても慣れる気がしない。


「ははは!カノイは切られるのが苦手だから産むほうかもな!」


「そんなんで決めてほしくないよ~。」


もっと真面目に決めようよ~。




さて、成人の儀を終えていつも通りの生誕祭。


変わったのは私が大人になったことだけだ。


たったそれだけのことなのに、皆で遊べる時間が特別に思える。


「カノイー!おめでとさん!」


「カノイ様!お誕生日おめでとうございます!」


「おめでとうございます!」


「カノイ様!おめでとうございます!あんたも大人の仲間入りね!」


「おめでとうございます!カノイ様はお兄ちゃんみたいにならないでくださいね?」


「おめでとうございまーす!今日から就業仲間だな!」


「おめでとうございまーす!お仕事頑張りましょうね!」


「カノイ様、12歳のお誕生日おめでとうございます……!」


皆が祝ってくれるこの瞬間は一番大好きだ。


「お兄ちゃん!お誕生日おめでとう!」


「にーちゃ!おめでとう!」


「皆……ありがとう!私もこれから大人として頑張るよ!」


出来る範囲で!


カノイ・マークガーフ、12歳、無事成人を迎えた春の出来事である。

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