第10話:生まれてきてくれてありがとうって伝えたくなる時もある
今年の冬に母が妊娠していたことが発覚した。
つまるところ弟?妹?ができるのである。
正直に言おう。
助かったという気持ちとうれしいという気持ちの半々である。
次期当主候補はどんどん増えてほしい。
真面目に貴族とかできる気がしないから。
ある程度のマナーや自分の身分の高さも把握しているが、気軽に頭を下げちゃいけないくらいしか守れる気はしない。
それすらお辞儀の文化のあった元日本人の自分にはつらいのである。
「あらあら、カノイちゃん、お兄ちゃんになるのがうれしいのね~。」
「弟が生まれてきたらお前にかまう時間が減ってしまうかもしれない。しかし、愛していないわけではないんだ。私はカノイも、シシーも、新しく生まれる子も愛しているぞ。」
本当によくできた親だな、と思う。
親になったことがない、さらに兄弟ができたことがないからわからないが、確かに愛情を注ぐ対象が分散するとぐれる子や悲しむ子は多いと聞く。
そういったことがないよう先回りをして愛情を示す親の姿に感銘を受ける。
我ながらいい家族を持ったな。
確かに身分による身の危険は恐怖だが、彼らの子として生まれてよかったと、今この瞬間は確かに思う。
きっと、次に生まれてくる子も家族に愛されて幸せを感じるのだろう。
いや、幸せにしなくては、私の理想の為にも。
とりあえず、初めて会った彼には「生まれてきてくれてありがとう」と伝えよう。
2歳の生誕祭に向かう道中の出来事である。
生誕祭にはもちろん村人全員が参加している。遠目からこちらを見ている子供達が目に入り声をかける。
「きょうはわたしのせいたんさいです!ぶれいこうです!おおいにあそびましょう!」
そういうと、私より大きな子供達はおどおどするのをやめて、笑顔でこちらに駆け寄ってくる。
「ご子息様!あたしファン!鬼ごっこがいいです!」
「俺はジェイル!その次はかくれんぼをしましょう!」
「僕、エイルって言います!怪我をしたら僕のところに来てください!」
1人1人自己紹介をしながら要望を伝えてくる。
なるほど、上に立つ人間か。
とりあえず名前を覚えるところから始めなくては……。
「ではおにごっこをしましょう!おにはリボルとファンとわたしがします!ヴァイスとジェイルとエイルはにげてください!では、よーい!スタート!」
春の麗らかな陽気の中、子供達は駆け回る。
大人たちはそれをやさしく見守るのだった。
カノイ・マークガーフ、2歳、誕生日に素敵なプレゼントを沢山もらった春の出来事である。
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