第12話 十二人

 ふと目を開けると、俺は前に夢の中で見た風景と同じ場所にいた。

 シャボン玉のようなものが辺り一帯をふわふわと浮いていた。

 俺の眼では見ることのできない遥か彼方までこの無重力空間のような場所は続いているようだ。


「起きた?」


「君は……。」


「あれ? 私のこと、もう忘れちゃった?」


「いや、確か四日前にあった女の子。」


「なんだ。 普通に覚えてたのね。」


 流石に俺もあんな凄い力をくれた人のことを忘れるわけがないよ。

  

「それで、私の力どう? 結構面白い?」


「そうだね。 おかげで人生が豊かになった。」


「へぇ。 ありがとう。」


 俺は力を貰ってから、この子に聞いておきたかったことが沢山あった。

 今ここで話しておこう。


「私に質問がありそうな顔してるね。」


 それは君の存在が気になるから、当たり前だ。

 漫画やアニメでも謎の多いキャラを積極的に描写していくのが物語を進行させる王道だからな。


 「別にミステリアスなキャラだけが物語を進めていくカギになるわけじゃないよ。」


 女の子はそう言って俺の近くまで来た。


「それで私にどんな質問があるのかな。」


「まず、君はいったい何者?」


「私はりんか。 よろしくね!」


 確かに君の謎は一つ解けた。

 だが、俺が君に聞きたかったことはまだあるよ、りんかちゃん。


「君はいったい何者と言うのは、つまりは君はどういう存在であるかってこと。」


 そう言うと、りんかは悩んだ顔でこう答えた。


「ちょっと抽象的な質問だね。 私はどこにでもいる普通の子だよ。」


 いやいや、普通の子が夢を通して特別な能力を与えるっておかしいだろ。

 何か隠してるんじゃないのか。


「その誰かに特別な力を与えられる能力ってどこで手に入れたの?」


「生まれた時から持ってたよ。」


 とりあえず、俺は質問内容を変えてみた。

 そうすれば、少しはまともな会話になるかもしれない。


「なんで俺にこんな力を与えたの?」


「たまたま私の能力上げたら面白そうかなと思った人がおじさんだった。」


「たまたまなのか……。」


「まあ、ちょっとした私のお遊びみたいなものだと思ってくれればいいかな。」

 

「お遊び……。」


 どうやら、まともにこっちから質問をしても何も進展が無さそうだ。

 相手の話も聞いてみることにしよう。


「そう言えば、今日おじさん相手を人形に変えて凄い焦ってたよね。」


「だって、俺はあのままだと刑務所行きになってたから。」


「私の助言が役に立ったかな?」


「助言って……。」


 やっぱりあの時、俺に話しかけて助けてくれたのは君だったか。

 まあ、人形になったセイント・クォーツを元の姿に戻そうと思った時に誰かに精神が乗っ取られたような気味の悪い感触をもらったり、世界の時間が停止したような状態になってビビらされた分があるから素直には感謝できないけど……。


「ごめんなさいね。 でも、あなたを助けるにはそうするしかなかったから。」


「確かに最終的には助けられてるわけだし、感謝するよ。」


「それじゃあ、そろそろこれからあなたにやってもらいたいことを話そうかな。」


 りんかはそう言うと、表情を少し笑顔にした。

 何か重要な事でもあるのだろうか。


「これからおじさんには集会のお手伝いをして欲しいの。」


「集会?」


「そう。」


「具体的には何をしたらいいの?」


「まずはあなたを含めた十二人の私の子に会ってみて。 会えたら、集会の手伝いをしたいと言って頼み込んでね。」


 ちょっとまって。

 まず、俺を含めた十二人ってなんだ。

 俺以外にも力を与えた奴がいるのだろうか。


「要するにそういう事。 既にあなたは私の子に会っているから、集会のお手伝いはすんなり参加できると思うよ。」


「それはどういうこと?」


「安心して。 ちゃんと私の子を探していればすぐに参加できるから。」


「ちょっと!」


 りんかはそう言うと後ろを向いて歩いて行った。


「じゃあ、またいつか会おうね。」


「まだ、話したいことが……」


 りんかはそう言うと、何処かに姿を消した。

 俺は意識が徐々に薄れていった。

 

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