第9話 二度目の人形化
セイント・クォーツとオランチアはオタク話で盛り上がっていた。
「オランチアちゃんって魔法少女になったのはいつ?」
「実はまだ一週間経ってないよ……。」
「本当……?」
「そうだよ。」
セイント・クォーツはちょっと驚いた顔で私の方を見ている。
どうやら、まだ魔法少女成り立ての子は普通、風魔法や魔動技を上手に使いこなすことはできないらしい。
つまり、私は天才ってことだ、えへっへ。
「で、でも、一応才能のある子はたまに初見の魔法でもすぐ覚えられちゃうこともあるらしい……。」
「まあ、僕の天才っぷりにかかればそんなこと容易いことさ……。」
オランチアはカッコつけてイキった。
ちょっといつもより気分が良かったので口調が思わず、変わってしまったようだ。
「オランチアちゃんってショートヘアで割と全体的にオタク受けしそうなデザインだからボクっ娘も似合うかも?」
「僕は君にオレンジ色の愛を届けにきた正義の魔法少女オランチア!!」
「僕のマジカルパワーで君も可愛いお人形さん♡」
「うはぁ!! なんかボクっ娘になった途端、めっちゃ雰囲気出てきた!!」
どうやら、セイント・クォーツと私は相性が良い。
話していてとても会話が弾むのだ。
「今は二人きりでもう自由時間とは言え、流石にお話ばかりしている訳にはいかない気がする。 そろそろ、練習を始めなくちゃ。」
「あっ……。 そうだったね。」
セイント・クォーツはオタク特有の興奮を抑えて、落ち着いた表情になった。
オランチアも我に返って、カッコつけた発言を恥ずかしがった。
「そう言えば、セイント・クォーツさんはあの時、なんでみんなと一緒に他の棟に行かなかったの?」
「そ、それは……。」
「うちがまだ実力不足だから……。」
また、もごもごした話し方に戻ってしまった。
さっきまでの気迫あるオーラはどこに行ってしまったのか。
「まあ、確かに実力がないうちは他の棟に行くのは止めた方がいいかも。」
「そうだね……。」
「でも、まだ魔法少女になってからそんなに経ってないんだっけ?」
「はい……。」
「なら私たちで一緒に頑張って強くなっていけばいいんじゃない?」
とりあえず、自分と似たような価値観の人だ。
仲良くしていくのが道理だろう。
「分かったよ。 一緒に頑張ろうね!!」
「うん。 こちらこそ一緒に頑張ろうね。 セイント・クオーツちゃん!!」
こうして、オランチアには新しい魔法少女の仲間ができましたとさ。
めでたしめでたし。
「なんちゃって♡」
「あっ……。 後さ……。 一応、うちの魔法少女名呼びづらいなら、クォーツか百花って呼んでも、いいよ……。 こっちの呼ばれ方の方がうちも分かりやすいし……。」
「分かった。 じゃあ、これからはクォーツか百花ちゃんって呼んであげるね!!」
そんなことで話し合いも終わって稽古をもう一度、再開しようということになったのだが、どんな稽古をするかまでは二人は考えていなかった─
「てか、何をするかまだ考えていなかったわ。 百花ちゃんは何か提案ある?」
「うーん……。 お互いの必殺技見せ合う?」
「おぉ!! なるほど、そう言うやり方があったよね。」
確かに必殺技を見せ合うというのもいいのだが、私はまだ魔法少女成り立てだし、使える技も限られてる気がするんだけど、大丈夫かな。
「まあ、必殺技と言っても自分だけのオリジナル技を使いこなすのは大変だからね……。」
「と、とりあえず、うちの魔動技見てみない?」
「うん!」
セイント・クォーツこと、百花ちゃんの必殺技を見ることができる。
一体、どんな必殺技なのだろうか。
【
百花がそう唱えて手を上げると、大きな桃のような物体が彼女の頭上に現れ、私の方に飛んできた。
「ふわぁ!!」
「大きな桃が私の方に向かってくるぅ!!」
オランチアは飛んできた大きな桃を無意識に避けようとしたが、結構な速さであったため、避けることはできず、そのまま当たってしまった。
「んぎょ!!」
当たった瞬間に大きな桃が空気の塊に姿を変え、オランチアの身体を包み込む。
オランチアは不思議な空気を吸い、甘い匂いを感じて興奮した。
「うへぇ……。 いい匂い♡」
この空気からは女子高生の良い匂いがした。
オランチアこと義弘は街中ですれ違ってきた女子高生のことを思い浮かべながら、ニタニタと笑った。
「てか、あんなのに思いっきりぶつかったのに痛みが全くないな。 攻撃技ではないのかな?」
「実はその魔動技……補助系で当たった相手の防御力を上げることができるの。」
「つまり、身体を丈夫にすることができるってこと?」
「そういう事……。」
なんというか、ちょっと個性的な技だな。
できれば、私もこういう技を覚えたいところだ。
「そう言えば、あの桃の匂いって不思議だよね。」
「あ……。 それ、実は……。」
「?」
「う……うち……のたい……体臭……。」
「ぇ……。」
「実は、その技、私の魔力と肉体の一部から作られてるから……。」
「に…肉体と言っても、体液や体臭でも代用できたから別に……健康に害は出ないけど……。」
「百花ちゃんってめっちゃ良い匂いするんだね♡」
「あっ……。 うん……。 なん、か、嬉しいかも……。」
オランチアこと義弘は百花の女子高生の匂いで発情していたのかと考え、気まづくなった。
気をそらすために何か別の話題を出さなくては……。
「そ……そうだ。 私も魔道技自体は使えるんだよね。 だから少し見せて上げようかな。」
「オランチアちゃんも魔道技使えるの?」
相手を人形に変えることのできる魔法。
私はそんな特別な能力が使えることをいくら仲良くなったとは言え、今日あったばかりの人間に見せていいのか戸惑っていたが、一度誰かに見せてみたいという欲求の方が強くなった。
「約束だけど、他の子にこの必殺技を持っていること内緒にしておいてね。」
「うん! 内緒にするよ。」
「ありがとう。 この技はね。 触れた相手をお人形にしちゃうんだよ。」
「人形……?」
「うん。 ちょっと、今はここには私と君しかいないから相手を人形にする場面は見れないけど……。」
「相手を人形にする魔法……。 ちな、み……それはどのように……。」
「ビームを撃って当てたら人形にできるよ。」
「な……なるほど……。」
「じゃあ、ちょっとだけ力を入れて撃ってみるか……。」
「あ、あの……。 少しだけ待ってて……。」
百花はそう言うと、D棟から出ていった。
トイレに行きたくなったのだろうか。
「うーん。 ちょっとだけ試しに撃ってみるか。」
前回のリベアナ戦では物凄い力を振り絞って出したが、今回はあまり力を入れずに出してみようとオランチアは考えた。
あまり力を入れなくても撃てるのか気になったからだ。
私は胸元に両手を当て、その両手でハートを作った。
【ラブラブ♡ハート】
そう言うと、前回よりも速い段階で身体のエネルギーは溜まっていき、撃てる準備が整った。
「いっけえぇぇ!!」
私は的に向かって撃ってみた。
ビームは的に向かって命中したが的は壊れなかった。
「この技、ずっと溜めなくても撃つことができるんだ……。」
しかし、ビームの威力や大きさはリベアナに撃った時よりも遥かに弱かった。
恐らく、溜めた量によって威力も変わるのだろう。
少し経つとビームを撃つ練習をしていると百花がまた戻ってきた。
「ご……ごめん……。 少し遅くなった……。」
百花が戻ってくると一緒に誰かがついてきた。
それは変な棒人間みたいな人型の小さい物体である。
一体そんなものを連れてきて何がしたいのだろうか。
「あの……。 もし良かったらこの子を……。」
「へ?」
「まさか、それを人形にしろってこと?」
私がそう言うとその物体は何も言わずに、ペコリと頷いた。
その百花が持ってきた動く棒人間みたいなのには、ツッコミを入れず、オランチアは頷いた。
「でも、それが元に戻れなくなっても責任取れないよ。 そこは大丈夫?」
「うん。 大丈夫……。」
それなので、一応人形にするビームを加減して撃ってみることにした。
【ラブラブ♡ハート】
ビームはそのまま棒人間に向かって飛んで行った。
棒人間は思いっきりビームを浴びた。
しかし……。
「え?」
なんと、しっかりと当たったはずのビームが変な角度に反射して近くにいた百花に向かって飛んでいった!!
「あっ……。 は……跳ね返ってき」
ビームは思いっきり百花に当たって、彼女を人形の姿へと変えたのである。
オランチアは慌ててすぐに人形になった百花のところに駆け付けた。
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