第8話 風魔法を使いこなそう

 シャトリエーゼは三人の魔法少女が休憩に行くと、私に対して訪ねてきた。


「ごめんねオランチアちゃん。 あの子達と別の棟に行って訓練を行うことになるかもだから、D棟のトレーニング器具で鍛えておいて下さい。 キリのいいところでそのまま帰っちゃっても大丈夫です。」


「そんなぁ……。 シャトリエーゼともっと練習したかったなぁ。」


 今日はどうやら、稽古のできる時間はあまり残ってないようだ。

 美々香もまだ学生でいつでも稽古の対応ができるような方ではないため、道場内の他の誰かにも稽古の相談をした方がいいのかもしれない。


「はあ……。 私の練習に付き合ってくれるような親切な方はいないかなぁ。」


 オランチアがため息をついて戯言のように呟いていると、あの魔法少女の三人の内の一人がやってきてこう言った。


「あ……あの……。 も、もし良かったら、うち……とけ、稽古しません……。」


「え? あれ? もう戻ってきたの?」


 オランチアが不思議そうに彼女に対して言った。

 

 他の魔法少女二人と一緒に休憩に行ってたからこんなすぐに戻って来るとは思わなかった。

 それにD棟から休憩所ってそれなりに距離もあるから、こんなすぐには戻ってこれないはず。


「う、うち……一応、ここから休憩行くの面倒だ、だからちょっ、ちょっとした裏技使ってる……。」


「裏技……?」


「うん……。」


 とりあえず、私はこの子が一緒に稽古をしてもよいと言ってきたのでそれに対する返事をすることにした。


 「あの、私と稽古してくれるんですか。 もし良ければお願いします。」


「う……うん。 ちょっ、ちょっと緊張……するけど大丈夫……です。」


 たどたどしい話し方でセイント・クォーツはオランチアに対して戦いの練習に賛成してくれた。


「まあ、百花ちゃんはちょっとそういう子なんで大目に見て下さいね。 戦闘経験はあるけど、オランチアちゃんとはいい勝負だから一緒に今日は稽古頑張ってください。」


 シャトリエーゼはセイント・クォーツのことを百花ももかと読んだ。

 

「へぇ……。 百花ちゃんって名前なんだ。」


「あっ はい。」


 軽い自己紹介を行った後、他の魔法少女二人もD棟に帰ってきた。

 休憩がしっかりと取れたようで、二人とも今すぐにでも戦おうぜというような威勢の良い顔でシャトリエーゼを眺めている。


 「あッ!! またクォーツちゃん早く戻ってきてる!!」


「いや、いつものことだから別に驚く事でもないけどな。」


 そして、シャトリエーゼは道具の準備を終えるとこう言った。


「今日の稽古は終了なので今日はセイント・クォーツちゃんとキリのいいところで稽古を終わらせて帰ってもらえれば大丈夫です。」


「では二人ともさようなら!!」


 シャトリエーゼと他の二人の魔法少女はそのままD棟を後にして、違う棟に行ってしまった。


「それで一緒に稽古をするって話だけど何をする? 私はできれば今日の三人がやっていた風魔法のこと勉強したいなぁ。」


「あっ…… はい。 うちなら少しく、くらいなら誰かに、教えられます……。」


 セイント・クォーツはオランチアの前でもう一度、風魔法を使い、的に向かって投げて見せた。


「こう……やってやるの……。」


「やっぱり私でも頑張ればできそうだな。 確かこうやって力を溜めれれば風の抵抗が起きるんだっけ。」


 私は自分の手のひらに思いっきり力を込めてシャトリエーゼが三人にアドバイスしているやり方を真似して弾を作ってみた。


「こ……こんな感じかな……?」


 オランチアの周りに風が生まれる。

 手のひらを軸に風を流れ込むように力を上手く調整しながら、弾の形を形成してみた。

 弾は徐々に鋭い刃のようになっていき、小さいけれど投げるのには十分な大きさになった。


 「えへ。 なんか割と頑張ればすぐに覚えられそう。」


 アランチアは思いっきり、叫んだ。


「オランチアウィンドアスプラッシュ!!」


 咄嗟に思いついた掛け声で的に向かって弾を投げた。

 そして的の角に弾が当たって、その部分は綺麗に裂けた。


「なんか普通にこの技使えたんだけど、私もしかして天才!? うわぁすごいん!!」


 オランチアはすぐに新しい技を使えた喜びに思わず、ガッツポーズをセイント・クォーツに取った。


「す……。凄い……。」


 セイント・クォーツは少し笑顔でオランチアに拍手をした。


「オランチアちゃん……中々凄いですね……。」


「えへへ……そんなに褒めなくても……。」


 オランチアはその後も他の魔法少女達がやっていたように風魔法の練習を続けることにした。

 オランチアはまだ、完全にこの技を自在に操る手段が分からなかったので、時々セイント・クォーツにやり方や今まで教わってきたことを聞き出したりして、徐々にコツを掴んできた。


「ふう……。 結構、始めて使う技を何度も使い続けるのは疲れるね。」


「ど……どうする… 少しだけ休憩……する?」


「そうだね。 ちょっと休憩にしたい。」


 オランチアは栄養ドリンクを飲みながら休憩をした。

 その後、私はどうやったら強くなれるか考えながら魔法を使うイメトレを行った。

 

「魔法少女って漫画やアニメみたいに空飛んだり、街の中を暴れる恐ろしい怪物を倒す場面って少ないよな。」


「あっそう……ですね……。」


「『果実の魔法少女たち』や『ウジャ魔女みどら』、『美少女恒星プリスター』みたいな強い魔法少女に憧れているけど、現実はそんな上手くいかないよね……。」

 

「け……結構古い作品ですね……。 魔法少女系のアニメって結構見たり……します?」


「まあ、ぼく……私は魔法少女オタクだったから魔法少女になったわけで……。」


「そ、そうだったんだ……フフフ……。」


 まさかだが、このセイント・クォーツという子、同族かな?

 漫画やアニメの話に食いついてくるのはその可能性がある。


「ねえ。 君もしかして漫画やアニメのこと詳しいタイプ?」


「はい! めっちゃ漫画やアニメ見る人です! うちも魔法少女に憧れて今ここにいるので!」


「へ、へぇ……。 ちなみに『果実の魔法少女たち』で一番好きなキャラクターって誰?」


「シトラス・エリサ!!」


「ぶッ!! まじか!!」


「だって、あの絶妙な男前なカッコよさと女の子特有の可愛さを両立した子中々いないじゃん!!」


「確かにな。」


 オランチアは久しぶりにオタク仲間に会えたのか少し会話が楽しくなってきた。

 

 まさか、重度のアニオタで俺と同じような趣味嗜好をしている女子高生がいるなんてな。



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