第7話 三人の魔法少女
義弘は最初の稽古から数日後、二度目の稽古の予定を入れた日に道場に行くことにした。
「今日は会社が早帰りだから、道場は午後から行けるぜ。」
早速、道場の受付カウンターにいた美々香に今日の稽古を受ける申し込みをした。
「あっ!! オランチアちゃん!! 今日も稽古しに来てくれたんだね!!」
「美々香ちゃん数日ぶり!!」
「今日は私と前回の稽古の続きをするのでよろしいでしょうか?」
「そうです!!」
「すいません。今日は三人の魔法少女がD棟で私と稽古をしたいという予約があったので、もし彼女達が来た場合、そっちの稽古の対応をしないといけなくなります。 ですので、場合によってはオランチアちゃんと時間まで稽古ができない可能性があるのでご注意下さい。」
どうやら、既に稽古の先着があったようだ。
せっかく、時間が取れたのに時間いっぱい強くなる練習ができないのは少し残念だ。
「では、またD棟に行きましょうか。」
しかし、そんな残念がっている暇はない。
一日でも自分は強くならなければいけないので多少、稽古の時間が短くなっても練習すべきだ。
D棟に着くと早速、美々香はシャトリエーゼの姿になり、稽古の準備を始めた。
やっぱり、美々香ちゃんは可愛い。
「さあ、前回出来なかった近接戦の基礎をやろうかなぁ。」
今日はどうやら近接戦の練習をするらしい。
って近接戦ってまさか……。
「あの、私は今日も魔法の弾や遠距離で戦う稽古がしたいです……。」
「うーん。 でも、オランチアちゃんは近接戦もやっといた方が私は良いと思いますよ。」
「うぅ……。 女の子同士で殴り合いなんて嫌だよぉ……。」
「まあ、最初は攻撃する練習をするだけなのでオランチアちゃんに怪我はさせませんよ。 一回試しにやってみましょう。」
オランチアこと義弘にはリベアナ戦での痛い思いがあったため、物理戦に対して億劫になっていた。
とは言え、リベアナともう一度戦う時が来た時に彼女に勝てるぐらいの力をつけておかなければならない。
「でも、ここは勇気を振り絞ってやんなくちゃ!!」
オランチアはあの時の体験を噛み締めて稽古へと挑んだ。
◇ ◇ ◇
「それじゃ、オランチアちゃん!! 私は構えますので、全力で攻撃しに来なさい!!」
「シャトリエーゼさん、行きます!」
タッタッタタタッとオランチアが殴りの構えでシャトリエーゼに向かって走って行った。
オランチアはシャトリエーゼの顎を目がけて右手のアッパーで殴りかかった。
「ふんふん。 中々良い動きだね。」
その瞬間、シャトリエーゼは左手でオランチアの右手をガッシリと掴んだ。
「ぐっ!」
「単調な動きだと敵に読まれちゃうよ。 もうちょっと工夫してみよう!」
どうやら、オランチアの素人戦法はシャトリエーゼには通用しないようだ。
そして、シャトリエーゼは掴んだ左手を離してこうアドバイスをしてきた。
「まずは、攻撃の出だしを少し工夫してみようか。」
そう言うと、シャトリエーゼはD棟にあるサンドバッグが並んであるところに行き、オランチアに手招きをした。
オランチアもすぐにサンドバッグのある方に走って向かった。
「これから私がちょっとした間合いの取り方を教えまぁーす!」
シャトリエーゼはサンドバッグの近くでニコニコと微笑みながら構えた。
「まずは片足出して足踏みをしましょう。」
そう言うと、彼女は足踏みをしながらリズムを組むような動作を始めた。
「そうしたら、お腹をちょっと凹ませて、顎を引かせて、後ろ足に乗った状態を維持しながら比重が後ろに載っているように意識してみてくださいね。」
そして、拳で顔面をガードするかのように硬い姿勢を取り、下半身を回転させて力を抜いてサンドバッグに向かって一直線に拳を打った。
ドガッ!! と大きな音を出しながらサンドバッグは振り子のように揺れた。
「この殴り方はストレートって呼ばれていて、ボクシングでお馴染みの技なんですよ!」
とりあえず、私も少しずつ強くならないといけないなと思い、シャトリエーゼに言われたような構えで殴ってみることにした。
オランチアのパンチはズドンと大きな衝撃をサンドバッグに与えた。
自信の身体にも凄まじい重圧がかかってきた。
「どう? こんな感じでも大丈夫?」
「うん! それでも全然大丈夫ですよ!」
「分かりました!! 物理の訓練もこのノリでやっていきます!!」
こうして、格闘の稽古が順調にやっていると廊下の付近から足音と話し声が聞こえた。
どうやら、三人の魔法少女がここにやってきたようだ。
「そろそろ来たかな。」
シャトリエーゼが廊下の入口付近に近づくと、三人の魔法少女がD棟の中に入ってきた。
「お邪魔しまーす!」
「お……お邪魔……します……。」
「こんにちは。 シャトリエーゼさん。」
三人の魔法少女って、前に何度かすれ違った子たちか。
魔法少女は基本的に変身している状態だと第三者からは認識することはできないという特性があるが、話し方や雰囲気的にあの学生三人で間違いないだろう。
とりあえず、これからお世話になるので自己紹介をすることに私はした。
「私はオランチア!。 モチーフはオレンジだよ☆」
そう言うと、三人も私に自己紹介をしてきた。
「私はマスカリーナ! 名前的にマスカちゃんと呼ばれることあるけどリーナちゃんと呼んでね!」
「あっ……うう…… うちは……セセ……セイント・クォーツと言うものです……。」
「私はキリカ。 よろしくね!」
自己紹介が終わるとシャトリエーゼが稽古を教えるために話を始めた。
「三人には今日、風を操る魔法を応用した戦術を教えたいと思います。 オランチアちゃんにはまだこの魔法を覚えるのは難しいと思いますので見ているかサンドバックで格闘の練習をやっておいてくださいね。」
稽古の練習をしたいが風の魔法がどんなものなのか気になったので風の魔法を見学することに私はした。
「前に私が教えた通りに【ウィンドアスプラッシュ】を使って、的に目掛けて打ちましょう!」
シャトリエーゼがそう言って、三人の魔法少女はそれぞれの的に目掛けて魔法の弾を作った。
弾は光らず、魔法少女の手のひらを軸に風が流れ込んだ。
周りに強い空気の乱れが起こり、少し離れていたオランチアでもその乱れに気づくことができた。
「なんか凄い切れ味の良さそうな弾……。」
三人が弾を撃つ準備を終えると彼女たちの手のひらに物凄く鋭い小さな強風が生まれ、キリカと名乗った魔法少女は一番手に的に目掛けてその鋭い弾を撃った。
「喰らえ!! ウィンドアスプラッシュ!!」
威勢の良いキリカの声がD棟に響いた。
彼女はどうやら、戦闘能力が高そうだ。 容姿を上手く認識できなくてもクール系の子でスポーツ経験のありそうな良い体型をしているんだろうなぁ。
そう言った雰囲気が十分伝わってくる。
「行っけええぇぇ!! ウィンドアスプラッシュ!!」
この子も割と元気がありそうだ。
最近、私がよく通うコンビニに明るい女子高生くらいの新人が来た。
その子の明るい笑顔と「いらっしゃいませ」が好きでそのコンビニに行く頻度が上がったくらい、元気な性格というものは良い。
「はわわわわ…… ウ……ウインドアスプラッシュ……。」
この子はちょっと天然なのかな?
ちょっと陰キャっぽい性格なのだろう。
その後も私は三人の練習を終えるまで見学することにした。
「三人とも前回よりも上達したね!! この調子なら見習いランクももうすぐ卒業!!」
シャトリエーゼはそう言って褒めて三人に休み時間を与えた。
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