第6話 変身解除の方法

 オランチアは稽古の時間が過ぎるまで練習をした。

 シャトリエーゼになった美々香も次の稽古の相手がいるとのことなので、オランチアも帰りの準備が出来次第、帰宅することにした。


「ハァハァ……。 魔法少女になった状態で激しい動きをすると疲れるなぁ。」


「魔法少女の姿を維持しているだけで魔力を使いますからねぇ。 ですが魔法少女になって、戦い続ければ徐々に魔力も付いてくるのでそんなにすぐ疲れるようなことは無くなっていきますよ。 さあ、これから強くなっていきましょうね☆」


 シャトリエーゼはそう言うと、D棟にある自販機の飲み物を買ってきて、オランチアに渡した。

 まだ、道場に入ってから初日の子に対して親切な態度を取る彼女。

 久しぶりに可愛い女性に親切にされたことによって、オランチアこと義弘は気分が高揚していく。


「美々香ちゃんは普段もここで訓練員として働いてるの?」


「うーん。 違いますね。」


「訓練員は副業?」


「はい。」


「本業は何してるの?」


「本業は大学生ですね。」


「だ……大学生か……。」


 魔法少女道場の訓練員は実は魔法少女としての能力が高くて人に教えることができれば現役の学生でも研修やアルバイトという枠で採用される。 

 訓練員はそれなりの社会的地位があるため、学生ができるアルバイトとして見ればかなりの高時給で待遇が良い。

 そのため、高位の魔法少女になれた学生がバイトをする場合、ほぼ訓練員を選ぶと言われている。


「まあ、もちろん訓練員はそんな簡単になれないし、命の危険も少なからずあるけどね。」

 

「でも正規の訓練員として働くことになれば、そこら辺のサラリーマンなんかよりもずっと高級取りになれるの良いなぁ。」


 オランチアはそんなことを考えながら少し独り言を言っていた。


「オランチアさん何か悩まれていますか?」


「あっ…… いえいえ、ちょっとした考え事してただけです。」


「ちなみに美々香ちゃんはこの仕事楽しいですか?」


「はい! 結構楽しいですよ!」


「へえ! 私もいつかこういう仕事に就きたいな。」


「オランチアさんならきっとなれますよ!」


 とりあえず、オランチアは魔法少女の姿から元の姿になって体を休めたいと思ったので、近くの更衣室に行くことに決めた。

 一回、更衣室で休憩を挟んでから道場を出た後、元の姿に戻って帰宅することを考えた。


「そう言えば、ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな……?」


「大丈夫ですよ。」


「魔法少女の解除方法って基本的にみんなは合言葉を言って戻るの?」


「はい。 みんなそれぞれが決めた合言葉を言って元の姿に戻りますね。 何も言わずに元の姿に戻るより、合言葉を言いながら気を集中させた方が気分が良いですからね。」


「一応、魔法使う感じで精神を集中させれば戻れる?」


「ちゃんと戻れますよ。」


「教えてくれてありがとうございます! また、稽古の予約ができる日に行きます!」


「また稽古待ってますよー。」



◇ ◇ ◇



「一応、合言葉が無くても魔法を使う感覚で気を鎮めて念じれば戻れるんだよね……。」


 オランチアは魔法を使った時の感覚で精神を統一させ、自分の身体に力を込めてみた。

 そうするとオランチアの身体が輝き出し始めた。

 

「この光は……。」


 その瞬間、光が眩く光って、元の姿に戻ることができた。


「あれ、こんな簡単に戻れるんだ。」


 オランチアは義弘に戻ることができた。

 リベアナとの戦いの前、あんなに戻るために必死になっていたのが馬鹿らしく感じてきた。


「おいおい……。 戻りたいと考えながら、魔力を自分の精神に流し込んでいけばすぐに元の姿に戻れるんかよ……。」


 義弘は変身する時のように何か特殊な合言葉を言わなければ変身解除をすることはできないと思っていたのだ。

 変身解除が自分の意思でできないため、魔法少女に変身しても元の姿に戻れなくなる危険性を感じていたが、その悩みは今日この場で過ぎ去ったのである。


「まあ、でもこれでいつでも魔法少女になれるようになったぞ!」


 義弘にとっては変身解除方法を知ることができたことは画期的であった。

 これでいつでも魔法少女になることができるのだから。


「めっちゃ嬉しい! 魔法少女サイコー!!」


 こうして義弘は元の姿に戻り、更衣室で休憩することにしたのである。



◇ ◇ ◇


 

 元の中年のおっさんに戻り、美々香からもらった栄養ドリンクで体の疲れを回復させた義弘は少し考え事をしていた。 


「魔法少女から元の姿に戻る時は、そのまま戻るより何か合言葉をかけて戻った方がいいかなぁ。 やっぱり、何も言わずにストレートに戻るよりそっちの方が女の子としての可憐が表現できる。」


 とは言え、人前で元の姿に戻ることは無いので別に合言葉はいらなそうな気もするのだ。


「もし、元に戻る合言葉を作るなら『愛の力よ! 元の姿に戻りて! マジカル・オランチア!』とでも言ってピースサインでもするか。」


 義弘はカッコよく、元の姿に戻る方法を考えていた。

 そうすると、更衣室の向こうから女の子と考えられる女性の話し声と足音が聞こえてきた。

 その声と足音は徐々に近づいてきたので、義弘はすぐにオランチアに変身した。


「あっやべ、いくら人が来ないような場所にあるD棟の更衣室でも利用者はいるよね。」



「愛の力よ! 私のものとなりて! マジカル・オランチア!」



 オランチアに変身した義弘はそろそろ休憩をやめて更衣室から出る支度をした。

 支度を終えるとちょうど、女の子が更衣室に入ってきた。 

 どうやら、女の子は三人でみんな高校生くらいの見た目をしている。


「私たちもそろそろD棟じゃなくて、C棟で稽古したいよねぇ。」


「うち……まだ討伐依頼一つしか達成してないし、不安だよぉ。」


「おいおい……。 そんな弱気じゃ、いつまでも昇級できないよ。」


(よく見ると、三人とも私が道場の入口で見かけた子たちだ。)


 そのまま、オランチアになった義弘は三人の子がいる場所を素通りして帰宅した。


 


 





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