第3話 怪我の治療方法

「これは人形だ……。 しかも俺が今戦ったリベアナ本人の……。」


 義弘は相手を人形にする力を持った魔法少女に変身することができるようになった。

 なんということだろうか。 

 あの夢のおかげで自身のこれからの人生が大きく変わることになったのだ。


「これから第二の人生が始まるというのか。 とても楽しみだ……。」


 俺は第二の人生を胸に期待しながら、忘れずに持ってきたカバンから救急車と会社に今の状況を連絡した。


 それから、救急車がやってきて俺はすぐに搬送された。



◇ ◇ ◇



「うぐ……いててててててて!!」


「患者さん大丈夫ですよ。 すぐに治療魔法で治りますからね。」


 俺は緊急搬送されたその日の夜、治療魔法で看病してもらうことになった。

 どうやら、この病院には魔法の類の使える人物がいるみたいだ。

 

「治療魔法とは言え、まだ顔面パンチされた顔の痛みや肩と腹の深い傷は回復をしていない。 直ぐに治ってくれればいいのに……。」

 

 俺は今日を含めた三日の間、入院することになった。

 そして、物凄い激痛によって風呂に入れないため、俺はそのまま寝ることにした。



◇ ◇ ◇



「ふあぁぁぁ……。 めっちゃ寝たぁぁ……。」


 時計を見たらもう午前10時を過ぎていた。

 俺が昨日寝たのは確か午後10時前だったような気がするが……。


 魔法少女になって戦っていたことが身体にも影響をしているのだろうか。

 昨日の人生で味わったことのない傷の痛みは若干、良くなったとは言え今日と明日で完治してほしい。

 

 何もやることがなくなったので治療室のテレビをつけてみた。


『地域ニュース!! 昨日、午後1時過ぎ頃 ○○市△△町の避難勧告地帯で緊急救助を依頼した三十代のサラリーマンが無事に保護されました。 男性は意識があり、命に別状はないとの事でしたが肩や腹部に深い損傷があり、そのまま緊急搬送されたのことです。 また他の救助隊の情報によりますとその付近で四匹の魔獣が死体で見つかり、この魔獣たちが野性で育ったものではないと推測されています。 首謀者と思われる犯人は未だに捕まっておらず、今後は魔法少女や騎士を始めとした戦闘部隊によって探索を進められる模様です。』


「って、まんま当事者俺じゃん。」


 流石に余りにも当事者過ぎて気まづくなったので、違うチャンネルに変えてみた。


『さあ、今日のアイドルは彗星の如く現れたあのお方です!! 彼の煌めく目を見たらどんな女性も一発でメロメロ!! 今そのご尊顔をみんなで拝みましょう♡ ――キャ~~~ッ♡ かっこいぃぃぃん♡ こっちみてぇぇ♡ その偉大な世の女性たちを虜にする今一番のアイドルの名は――」


「なんだこれ。」


 見ていてあまりにも下らないアイドルのバラエティー番組だった。 

 とりあえず、他のテレビにチャンネルを変えてみたが特に見たいと思えるものはなかったのでテレビの電源を消した。 


「ちょっと退屈だなあ。 何か面白いことでもないかなぁ。」


 ここは病院。 

 緊急搬送された患者なのでゲーム機も無ければフィギュアもこの治療室にはない。

 退屈を凌ぐために義弘は色々と面白い妄想に浸っていると、何か声のようなものが近くから聞こえてきた。


『おい、聞こえてんか。 この魔法少女おっさん。』


「えっ? 誰?」


 治療室には今、俺しかいない。

 なのに今、誰かの声が俺の神経に直接呼び掛けるように聞こえた。

 最初は疲れているための幻聴かと思ったが、明らかに声が聞こえるのである。


『本当は聞こえてんだろお前。』


「だ……誰かいるのか……。」


 義弘は少し警戒して声の在り処を探ってみた。

 どうやら貴重品を入れるロッカーから聞こえているようだ。

 とりあえず、ロッカーを開けてみた。

 しかし、声を発するもの特に見つからない。

 もう少し声の在り処を探るため、俺はロッカーに耳を澄ませた。

 そうするとカバンの近くに置いといたリベアナの人形から声が聞こえてくる。


「人形から声が聞こえる……。」


『やっぱり、聞こえてんだろ。 無視すんな。』


「お……おう……。 元気だったかリベアナ。」


『は? この状態を見てどこが元気だと思ってん?』


 どうやら、不機嫌なようだ。 

 まあ、当たり前な気はするけど。


『これ、お前のビームのせいでなったんだろ。 だから早く元に戻せよ。 私何もできなくて辛い。』


「いや、俺も人形から元の姿に戻す方法分かんない。」


『なんだと!! お前ぜってぇ許さねえ!!』


「おおー。 怖い怖い。 君みたいな可愛い女の子にそんな台詞似合わないぜ。」


『なんだッ!! こいつ!!』


 人形になったリベアナと意思疎通を取ることができるぞ!!

 

 俺はリベアナの人形をロッカーから取り出し、ベッドの近くにある小さなテーブルの上に立たせた。


「わぁ!! 凄い!! リベアナちゃん♡」


『うっ……。 なんだよその顔……。』


「よく見るとリベアナちゃんの体ってモチモチ感ありそうだよね!!」


 そう言って、俺はリベアナの人形全体をしっかりと触ってみることにした。

 よく触ってみると本物のミニフィギュアよりも人肌を感じる作りになっており、この触り心地は1/3ドールの最高級品に匹敵している。

 また不思議な生暖かさを感じることもできた。


『うわあぁぁあああああ触んじゃねえぇぇええええ!!』


 リベアナがめちゃくちゃキレている。

 まあ、こんな中年のおっさんにベタベタ触られるのは女の子なら嫌悪感を感じても仕方がない。

 だが、それでも俺はリベアナの体を触り続けた。

 やっぱり、フィギュアとドール好きの俺にとっては好奇心と性的な欲望を抑えることができないのである。


『てめぇなんて簡単に八つ裂きにできんだよぉぉぉおおおおおおお!!』


 人形になって、何も抵抗の出来なくなったリベアナ。

 魔力のある小鎌でまるで地震が起きたようにコンクリートの道路をギザギザに割った力を持つ子。

 その圧倒的な戦闘力で襲われ、殺されかけた自分にとっては一生もののトラウマになる可能性があってもおかしくはないはずなのに、今ではただの可愛らしい人形である。


「いやー本当に出来の良い人形だ。 家に帰ったら俺の嫁として迎え入れてあげたいくらいだ。」


『何言ってんの!! こいつヤバすぎる!!』


「ただなあ、少し残念なのは性格が悪過ぎるところと目つきが少し悪いところかなぁ。 顔面点数はパッと見だと80点と言ったところだが、この第一印象からもうちょっと減点した方がいいかな。」


『キッしょいんだよ!!』


「うーん。 見た目に関しては地雷系や小悪魔系の服を着せれば目つきの悪さが味を出していい仕上がりになりそうだ。 顔や体型も全体的にバランスが良い。」


 そんな感じで俺はリベアナの人形をもう一度、テーブルの上に乗せてゆっくりと息を落ち着かせた。


「そう言えば、フィギュアの解除方法とかあるのだろうか。」


 よく考えたら彼女の言う通り、人形化を解除する方法が分からない。

 流石にフィギュアになったからと言って永遠に戻れなくなるということはないだろう。


「いや戦いが終わった後、変身が解除されたよな。 でも、これって戦いが終わったから解除されたわけではないような気もする。 時間かな?」


 一応、魔法による状態変化は時間の経過によって、解除されると聞いたことがある。

 場合によっては魔法少女になれる時間も決まっているのかもしれないし、人形化の魔法も時間経過で元に戻る可能性は高いと言えるだろう。


「時間経過という考察か……。 って……。」


 俺は一瞬だけ、嫌な予感がした。

 つまり、フィギュアにした人間が元の姿に戻る可能性があるという考えが頭によぎったのである。

 この推測が正しければリベアナのフィギュアはいずれ元の姿に戻るということである。


 その瞬間、また昨日の恐怖が込み上げてきた。


『ククク……。 もし時間経過で元の姿に戻った時は真っ先にお前を殺してやるよ!!』


「あっ……この人形ずっと持ってるとヤバいやつかも……。」


 とは言え、彼女は俺のことを知らない。

 つまり、どこか遠いところに今から捨ててくればいいのではと考えた。


「いや、だがすでに……。」


 そもそもの話、既に彼女は俺の正体について知っている可能性が高い。

 なぜなら、病院の中で医療従事者と俺の会話のやり取りをしているときにこのフィギュアを自分の傍に置いていたからだ。

 もし、人形の姿でも俺以外の人間の声がしっかりと聞こえていた場合、俺の自宅や本名などの情報を知られている可能性が高い。

 そうなれば、何処か遠い場所に捨てたところで解除してしまえばすぐに俺を殺しに行けてしまうだろう。


「このまま、考え込んでも何も始まらない。」


 俺はとりあえず、昨日の分のお風呂に入った後、病院の昼食を食べることにした。

 リベアナのことも気になるが、自身の身体の治療も心配なので俺は残りの入院生活も引き続き、治療室で安静にすることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る