ACT2. side-志穂

志槻と葵君。


どっちが好き?


「え?どっちも好きー」


正直な気持ち。


志槻は大切な弟だから好きだし、葵君はずっと小さい頃から一緒に過ごしてきた幼馴染だから好きだし。


葵君は違うんだろうか?


「えと、でもさ、志槻君は弟だから結婚は出来ないでしょ?僕となら結婚できるよ」


「えー、葵君、志穂の王子様じゃ無いから結婚しない」


「え?」


目を真ん丸にして驚いたように私を見る葵君。


「あのね、志穂は王子様と結婚するって決めてるの。

葵君王子様じゃ無いでしょ?だから志穂、葵君とは結婚しないの」


「王子様・・・」


「うんっ!王子様!ママがね、志穂にもいつか王子様が現れるよって言ったの!

だからね、志穂は王子様が現れるのを待ってるの!」


「そんなぁ・・・」


また泣きそうに瞳を潤ませる葵君。


葵君は私や志槻より3ヶ月も早く生まれて来たのに、すぐ泣きそうになる。


だから私はいつも葵君のお姉さんになった気分になる。


よしよしと葵君の頭を撫でてあげれば、葵君が珍しくキっと私を睨み付けた。


「じゃあ僕が王子様になったら志穂ちゃん僕と結婚してくれる?」


「へ?葵君が王子様になったら?」


コクン、と真剣な目をして頷く葵君。


葵君が王子様になったらか~・・・


煌びやかな王子様の服を着ている葵君の姿を想像する。


優しく微笑んで姫って呼んでくれる王子様。


「うんっ!葵君が志穂の王子様だったら結婚する!」


「絶対、約束だからね!僕、志穂ちゃんの王子様になるからね!」


葵君は志槻の椅子から飛び降りて、ドリルと鉛筆を握りしめたまま私の部屋から出て行った。


でも、王子様ってどうやってなるんだろう?


葵君は一般人なのに。


王子様なんかなれるわけないのに。


変なのー。




―――――――

――――…



「志穂、志槻、おはよう」


それは、翌朝の事だった。


「は?葵、お前俺を呼び捨てすんな!」


「お前こそ今呼び捨てにした!!!俺は良いんだよ、俺は王子になったんだからな」


「はぁ?」


「志槻、俺の荷物持て、お前は俺の従者だ!」


・・・何か、間違ってる。


葵君、志穂の王子様になるって言ったけど、今の葵君、王子様じゃ無くて王様じゃん。


「誰が葵の荷物なんて持つか!バーカ!」


「クソっ、志穂持て」


「・・・へ?」


ほら、と無理矢理ランドセルを押し付けてくる葵君にキョトンとする。


葵君、私の王子様になるって言ったのに、私に荷物持たせるの??


もー、意味わかんない!!


「馬鹿葵!!志穂に荷物なんか持たせるなよ!!」


「じゃー志槻が持て」


「嫌だ!!!」



煩い。


「もーっ!朝から煩-いっ!!

喧嘩なら志穂のいない所でやって!!

志槻と葵君が喧嘩すると志穂まで怒られるんだから!!」


「おい志穂」


ギロっと葵君が私を睨み付けてくる。


今までの優しい葵君じゃなくて、反射的にビクッと肩を揺らした。


「な、何」


「俺はお前の王子だからな、葵って名前で呼ぶことを許可してやる」


「はぁ?!何それ!!!!葵君何てぜんっぜん王子様じゃ無い!!」


「志穂!俺は王子になったんだよ!!さっさと“葵”って呼べ!」


何でこんな強引な王様になっちゃった訳?!


もー、最低!!


「志穂、先に学校行くから!!!」


葵君のランドセルを抱えたまま、小学校まで走る私の後を、志槻と葵君が追いかけてくる。


もーやだ!


二人と同類になんか見られたくないのに!!

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