第16話 作戦会議
放課後の図書室。
夕暮れの光が窓から差し込み、本棚に淡い影を落としている。
「ここなら、落ち着いて考えられるわね」
白石が席に腰掛けながら言う。美桜はその隣に座る。
二人の前には、スイーツコンテストの企画書が広げられていた。
「やっぱり...季節感を出したいです」
「そうね...」
白石が腕を組んで考え込む。
「今の時期なら...」
その時。
ふわりと、二人の前に紙袋が置かれた。
甘い香りが、微かに漂う。
「え...」
振り向いた先には。
「篠原、先輩...」
思わず声が小さくなる。
制服姿の陽太が、優しく微笑んでいた。
「お疲れ様。放課後の図書室なんて、珍しい組み合わせだね」
白石が咳払いをする。
「スイーツコンテストの...打ち合わせです」
「へぇ」
陽太が興味深そうに紙を覗き込む。
近い。
美桜は息を止めそうになる。
「その袋...」
白石が目で示す。
「ああ、これ」
陽太が紙袋を開く。
中から出てきたのは、小さな紙箱。
「新作の試作品。よかったら、感想聞かせてくれない?」
そう言って、箱を開ける。
中には、琥珀色の小さなケーキが二つ。
「まさか...キャラメルとイチゴ?」
白石の声に、陽太が嬉しそうに頷く。
「さすが。季節のメニューとして考えてるんだ」
「私たちも、季節感のあるお菓子を...」
言いかけて、美桜は慌てて口を閉じる。
「へぇ、それは楽しみだな」
陽太が箱を置く。
「二人で協力するなんて、意外な組み合わせだけど」
その言葉に、美桜は白石の方をちらりと見る。
過去の自分には、想像もできなかった光景。
「...早坂が作るお菓子なら」
白石が静かに言う。
「きっと、面白いものになるはず」
「白石さん...」
「そうだね」
陽太が頷く。
「楽しみにしてます」
まっすぐに、美桜を見つめる陽太。
その瞳に、いつもの優しさと、何か期待するような光が混ざっている。
「あ、あの!」
立ち上がりかけた陽太を、思わず呼び止める。
「このケーキ...作り方を、教えていただけませんか?」
一瞬の沈黙。
「もちろん」
陽太の笑顔が、夕暮れの中で輝いて見えた。
「でも、その前に」
箱を指さす陽太。
「まずは味わってみて。二人の感想、聞きたいな」
白石が一つ目のケーキを取り、美桜に勧める。
「遠慮なく」
その仕草に、美桜は小さく頷いた。
ほんの少し、勇気が湧いてくる。
(これも、一歩なんだ)
フォークを手に取りながら、美桜はそっと微笑んだ。
季節の味わいと、先輩の想いと。
それを感じ取れる自分に、少しだけ自信を持って。
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