第15話 白百合祭への準備

朝のHR前、教室の隅に集まった三人。


「ねぇねぇ、聞いた?」


千夏が目を輝かせながら切り出す。


「来月の白百合祭、今年はクラス企画と個人・グループ企画の両方があるんだって!」


白石が眉を上げる。


「へぇ...珍しいわね」


「うん」


美桜は手元の案内プリントを見つめる。


『第45回 白百合祭

テーマ:Bloom! ~咲き誇れ、私たちの青春~』


「クラスは喫茶店をやるって決まったけど」


千夏が続ける。


「個人企画の方が気になるの!」


「どんなのがあるの?」


美桜が覗き込むように千夏の方を見る。


「えっとね」


千夏がスマートフォンをスクロールする。


「展示、パフォーマンス、フリーマーケット、スイーツコンテスト...って感じ!」


「スイーツ...」


思わず美桜の声が漏れる。


「あ」


千夏が急に立ち上がる。


「美桜、出てみたら?お菓子作り好きでしょ?」


「え!? で、でも...」


自信なさげに俯く美桜。


「篠原先輩も審査員として参加するみたいよ」


静かな声。振り向くと、白石が案内プリントを指さしている。


「え!」


思わず声が大きくなる。慌てて周りを見回す美桜。


「だ、だって...私なんかじゃ...」


その時。


「なによ、その『私なんかじゃ』って」


白石の声が、少し強くなる。


「あの日のケーキの感想、覚えてる?」


美桜は思い出す。カフェでの出来事。自分の素直な感動。先輩の優しい笑顔。


「私だって認めてるわ」


珍しく率直な言葉。


「美桜のお菓子作りの腕」


「白石さん...」


「そうそう!」


千夏が美桜の肩を抱く。


「この前美桜が作った家庭科実習のシュークリーム、すっごく美味しかったもん!」


「でも...」


「いいから出なさい」


白石があっさりと言い切る。


「え?」


「私も...」


少し言葉を探るような仕草。


「...手伝ってあげるわ」


「白石さんが!?」


千夏が目を丸くする。


「なによ。私だって料理くらい...」


言いかけて口ごもる白石。珍しく頬が赤くなっている。


「あの...ありがとう」


美桜は心臓が早くなるのを感じながら言った。


「私も手伝う!」


千夏が手を挙げる。


「え、でも千夏は...」


「試食係!」


「...それは単に食べたいだけでしょ」


白石の冷たい指摘に、三人で思わず笑ってしまう。


「あ、でも」


千夏が真面目な顔になる。


「宣伝とか、応援は任せて!」


「ありがとう...」


目頭が熱くなる。こんなふうに、自分のことを思ってくれる友達がいるなんて。


「泣くのはよしなさい」


白石が小さなため息をつく。でも、その目は優しい。


「まずは、何を作るか考えましょ」


「うん!」


気付けば、三人で円になって座っている。

企画書を覗き込みながら、時々笑い声を上げて。


(これが、私の居場所なんだ)


美桜はふと思う。


少し前には想像もできなかった景色。

白石との作戦会議。

千夏の明るい声。

そして...先輩に見てもらえる可能性。


胸の中で、小さな希望が膨らんでいく。


「あ!」


千夏が突然声を上げた。


「もしかして、白石さん、篠原先輩と美桜をくっつけようとしてる?」


「ふん」


白石が腕を組む。


「私は...ただ、面白そうだと思っただけよ」


その言葉に、また笑いが起きる。


チャイムが鳴る直前。

三人はまだ、スイーツコンテストの夢に胸を膨らませていた。


(頑張ろう)


美桜は密かに握りしめた手に力を込める。

今度は、自分から一歩を踏み出すために。

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