第14話 姉の帰省

「じゃあ、また明日」


駅前で別れを告げる三人。今日という日が、特別な思い出として胸に残っていく気がした。


「あ、白石さん」


美桜は思い切って声をかけた。


「また、一緒にカフェ行きませんか?」


一瞬の間。でも、白石はすぐに小さく頷いた。


「...いいわ」


その返事に、千夏が嬉しそうに飛び跳ねる。


「やった!次は私が見つけたお店に行こうよ!」


「うるさいわよ」


白石の言葉は、もう以前のような棘がない。


---


「ただいま...」


玄関を開けると、見慣れない靴が目に入った。


(まさか...)


「おかえりー!」


リビングから聞こえてきた声に、美桜の目が輝く。


「お姉ちゃん!」


部屋に駆け込むと、そこには懐かしい笑顔があった。


「みおちゃん、大きくなった?」


「そんな久しぶりじゃないよ」


でも、嬉しくて抱きついてしまう。


「あらあら」


台所から母の声。


「美桜ったら、もう高校生なのに」


「いいじゃない」


姉の優花が美桜の頭を撫でる。


「私の可愛い妹なんだから」


「もう、お姉ちゃんってば...」


嬉しさで頬が緩む。


「あ、今日カフェに行ってきたの!」


「へぇ、珍しいね」


優花は美桜の隣に座り、くすくすと笑う。


「もしかして、デート?」


「ち、違うよ!」


慌てて否定する美桜。でも、顔が熱くなるのは隠せない。


「あ、やっぱり気になる人がいるんだ」


「う...」


「ねぇ、お母さん!みおちゃん、恋してるみたいよ!」


「まあ」


台所から覗き込む母。


「うぅ...」


両手で顔を覆う美桜を、姉は更にからかうように抱きしめる。


「ほら、教えて?どんな人なの?」


「...先輩」


小さな声で答える。


「おお!年上男子!さすが私の妹!」


「お姉ちゃん!」


「でも、嬉しいな」


急に優花の声が優しくなる。


「みおちゃんが、誰かを好きになるなんて」


その言葉に、美桜は姉の胸にもたれかかった。


「...今日ね」


少しずつ、カフェでのことを話し始める。

先輩のこと。

白石さんとの関係が変わったこと。

千夏の変わらない支え。


「へぇ」


優花は妹の話を優しく聞いている。時々頭を撫でながら。


「みおちゃん、変わったね」


「え?」


「前より、自分の気持ちを素直に話せるようになってる」


「夕飯できたわよ」


母の声に、二人で立ち上がる。


「あ、今日はみおちゃんの好きな肉じゃがよ」


「わぁ!」


「私が作ったの。舌に合うか分からないけど」


姉の言葉に、美桜は飛びつくように抱きつく。


「絶対美味しい!」


「もう、甘えん坊さん」


でも、優花は嬉しそうに妹を抱き返す。


その夜の食卓は、いつもより賑やかで温かだった。

美桜の話を、家族みんなが優しく聞いてくれる。


「みおちゃんの想い人に会ってみたいなぁ」


「もう!お姉ちゃん...!」


照れる美桜を見て、家族みんなで笑う。


(幸せ...)


心からそう思えた。

カフェでの特別な思い出。

姉の突然の帰省。

家族の温かさ。


全てが、美桜の心を優しく包んでいた。


枕に顔を埋めながら、今日一日を思い返す。

先輩の言葉。

白石さんの意外な表情。

千夏の笑顔。

そして、姉の優しさ。


幸せな気持ちのまま、美桜は静かに目を閉じた。

明日も、きっといい日になる。

そんな予感を抱きながら。

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