第12話 反則
「あのね、先輩」
ケーキの感想で盛り上がった後、千夏が突然茶目っ気のある声を出した。
「私たち三人の中で、誰が一番可愛いと思います?」
「え!?」
美桜は思わず背筋を伸ばした。白石は手にしていたフォークを止める。
「ちょっと、千夏...!」
慌てる美桜を尻目に、千夏は期待に満ちた目で先輩を見つめている。
「そうだなぁ...」
陽太は悩むような仕草を見せながら、三人をじっと見た。その視線に、美桜は顔が熱くなるのを感じる。
「まず、千夏さんは」
陽太は人差し指を立てて、
「明るい笑顔が素敵です。周りを元気にする力がある。それって、すごく可愛らしいと思う」
「えへへ」
千夏が照れくさそうに頬を掻く。
「白石さんは...」
一瞬の間。白石の横顔に、微かな緊張が走る。
「真剣な表情がいいね。特に、さっきケーキを評価してた時の目の輝き。情熱を持って物事に向き合う姿が、凛として可愛らしかった」
「...!」
白石の頬が、微かに赤く染まる。普段は見せない表情に、美桜は思わず見入ってしまった。
「そして、早坂さん」
「はい!」
思わず声が裏返る。
「一生懸命な所が、とても可愛らしい」
優しい笑顔で続ける。
「例えば、さっきケーキを食べた時。素直な感動が表情に出てて。その純粋さが、早坂さんの魅力だと思う」
「あ...」
言葉が出てこない。心臓が、今にも飛び出しそう。
「結論として」
陽太は三人を見渡して、
「みんな、それぞれ違う可愛らしさがあって。甲乙つけがたいかな」
外交的な回答に、千夏が笑い出す。
「さすが生徒会長!」
「む...」
白石が小さく唇を尖らせる。1番じゃないことに少し不満があるのだろうか。
美桜は、自分の手元を見つめたまま。先輩に「純粋」と言われた言葉が、胸の中でリフレインしている。
「あ、でも」
陽太が付け加えるように言う。
「今の反応。三人とも、すごく可愛いよ」
「...!」「へ...?」「えっ...」
同時に顔を上げる三人。そして、また同時に俯く。
白石は耳まで真っ赤になりながら、必死に冷静を装っている。千夏は珍しく言葉を失い、スプーンをくるくると回している。美桜は...もう、頭から湯気が出そう。
「あらあら」
カウンター越しに見ていた陽太の母が、優しく微笑んでいた。
(先輩のお母さんに、こんな恥ずかしいところ見られちゃった...)
でも、不思議と嫌な気分ではない。
むしろ...この空気が、何だか幸せ。
夕暮れのカフェに、三人の乙女の赤くなった頬と、陽太の優しい笑顔が溶け込んでいった。
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