第11話 カフェでの出会い

「えっ、カフェ!?」


美桜は思わず声を上げた。休み時間、千夏が突然持ちかけた提案に驚いて。


「そう!篠原先輩のお母さんがやってるカフェ、行ってみない?」


「でも...」


「私も行ってみたいわ」


突然、後ろから声がした。振り向くと、白石麻里が立っていた。


「白石さん...」


「こう見えても甘いものは好きなの、会長のマカロン、是非とも味わってみたいわ」


相変わらずクールな物言いだったが、その目には少しだけ期待の色が見えた。


「じゃあ、決まりね!」


千夏が満面の笑みで言う。美桜は何も言えなくなった。


---


「Café Lumière...」


放課後、三人で駅前の新しいカフェの前に立つ。温かみのある木の外観に、大きなガラス窓。おしゃれな雰囲気が漂っていた。


「わぁ...素敵」


思わずため息が漏れる。


「雰囲気はいいわね」


白石が評論家のような目つきで店内を観察している。


「いらっしゃいませ」


入店すると、優しい声が迎えてくれた。エプロン姿の大人の女性。温かな笑顔が印象的だ。


「あ、陽太のとこの学生さん?」


「は、はい!」


美桜は慌てて挨拶をする。篠原先輩のお母さんだと気づいて、心臓が早くなる。


「いつも陽太がお世話になってます」


その声は、まるで自分の息子のクラスメイトを迎えるような自然な温かさだった。


「あ、陽太なら今、奥で新作のケーキの試食をしてるわ」


「試食...」


白石が興味深そうに目を輝かせる。


「よかったら皆さんも感想を聞かせてくれない?」


「え!?」


思いがけない展開に、美桜は戸惑う。でも、千夏が即座に答えた。


「お願いします!」


---


「これが...先輩の好みなんだ」


奥のテーブルに運ばれてきたケーキを、美桜はそっと見つめる。上品なショートケーキ。


「見た目は普通だけど...」


白石が言いかけたその時。


「あ、みんな!」


後ろから聞き慣れた声。振り向くと、篠原陽太が立っていた。


「こんなところで会えるなんて」


いつもの優しい笑顔。でも、制服ではなくカジュアルな服装の先輩を見るのは初めてで、美桜は言葉が出てこない。


「丁度いいところに。この新作、食べてみてよ」


「え、ええ...」


四人でケーキを囲む。美桜は緊張で手が震えそうになる。でも...


「美味しい!」


思わず声が出た。外見は普通のショートケーキなのに、中のクリームが絶妙な甘さで、スポンジはふんわりとしていて...


「これ、すごくいい」


白石まで目を見開いている。


「本当?よかった」


嬉しそうな先輩の笑顔に、美桜の心臓が跳ねる。


「でも、ここをもう少し...」


白石が専門的な意見を述べ始める。先輩は真剣に聞いている。


(不思議...)


美桜は思う。数日前まで、白石さんとこんな風に過ごせるなんて考えもしなかった。


「ねぇ」


千夏が小声で言う。


「素敵な時間になりそうじゃない?」


確かに。色んな意味で。


窓から差し込む夕暮れの光が、四人の上に優しく降り注いでいた。

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