第10話 図書室を後にして
教室に戻る途中、美桜は階段の踊り場で足を止めた。
(今の、私...)
窓から差し込む陽の光に手をかざす。まだ少し震えているのが分かった。
「あ!美桜!」
後ろから千夏の声がする。
「珍しいね、こんなところで」
「千夏...」
親友の顔を見た途端、緊張が解けたのか、膝から力が抜けそうになった。
「ど、どうしたの!?」
千夏が慌てて美桜の腕を支える。
「ちょっと、ここで休もっか」
階段横の小さなスペースに二人で腰掛ける。
「で?何があったの?」
千夏の声には、優しさの中に期待が混ざっていた。
「その...先輩に...」
「え!まさか告白!?」
「ち、違うよ!」
慌てて否定する。でも、頬が熱くなるのは止められない。
「でも、言いかけた...」
「えっ」
千夏の目が丸くなる。
「なんて言おうとしたの!?」
「『先輩が特別な』...ってところまで」
「きゃー!」
思わず声を上げる千夏を、美桜は慌てて制した。
「で、でも...村上副会長が来て...」
「あー!」
千夏が残念そうに髪をかきあげる。
「でも、すごいよ美桜!」
「え?」
「だって、自分の気持ちを伝えようとしたんでしょ?」
美桜は小さく頷く。
「前の美桜なら、絶対できなかったよね」
その言葉に、はっとする。
確かに、少し前の自分には、想像もできなかった。
「白石さんも、応援してくれてて...」
「え?白石さんが?」
驚く千夏に、昨日の出来事を話す。
「へぇ...」
千夏は感心したように聞いていた。
「白石さん、意外といい人なんだね」
「うん...私も、たくさんの固定観念に縛られてたんだなって」
「美桜...」
千夏が嬉しそうに微笑む。
「本当に変わったね。でも、すごくいい方に」
「そう...かな」
「うん!だって、自分の気持ちに正直になれてるもん」
その時、チャイムが鳴る。
「あ!」
慌てて立ち上がる二人。
「美桜」
教室に向かう途中、千夏が突然立ち止まった。
「次は、絶対成功させようね!」
「も、もう...」
照れる美桜に、千夏は人差し指を立てる。
「私が見張り役になってあげる!村上副会長が来ないように!」
「千夏ってば...」
でも、その言葉が嬉しかった。
教室に戻る途中、美桜は自分の心の変化を感じていた。
陽太先輩への気持ち。
白石さんとの新しい関係。
千夏の変わらぬ支え。
(また、伝えよう)
今度は、最後まで。
自分の気持ちを、きちんと言葉にして。
胸の中で、小さな決意が花開こうとしていた。
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