第8話 白石さんは意外にイジワル

「...それで?」


突然、白石の声のトーンが変わった。


「え?」


「篠原先輩のこと、どう思ってるの?」


「!?」


思いがけない質問に、美桜の顔が一気に赤くなる。


「な、なんでその...」


「図書室でよく会ってるの、知ってるわ」


白石は少し意地悪な笑みを浮かべた。初めて見る表情に、美桜は戸惑う。


「私ね、たまに放課後も図書室で勉強してるの。だから、二人がマカロンを食べながら話してる姿とか...」


「ほ、他の人には言わないでください!」


慌てて声を押し殺す美桜に、白石は小さく吹き出した。


「ふふ、意外と可愛いところあるのね」


「も、もう...」


顔を両手で覆う美桜に、白石は少し柔らかな声で続けた。


「でも、先輩のおかげね。早坂さんが変われたの」


「...はい」


手を下ろして、美桜は小さく頷く。


「最初は、ただ憧れの存在で...でも、私の話を真剣に聞いてくれて、私のことを認めてくれて...」


言葉につまる。白石は静かに待っている。


「気づいたら、特別な人になってました」


告白するような言葉に、自分でも驚く。でも、白石の前だと、なぜか素直に言えた。


「へぇ...」


白石が意味ありげな表情を浮かべる。


「それで、告白する予定は?」


「え!?そ、そんな...私なんかが...」


慌てて手を振る美桜に、白石は少し厳しい目を向けた。


「また、そうやって自分を否定するの?」


「あ...」


「先輩は、早坂さんのことをちゃんと見てくれてるんでしょう?」


「はい、でも...」


「なら、自分の気持ちに正直になってもいいんじゃない?」


その言葉に、美桜は息を呑む。


「私も、人の気持ちを見抜くのは得意な方だから」


白石はそっと目を細める。


「先輩も、特別な目で早坂さんのこと見てると思うわ」


「そんな...」


でも、心の中で小さな希望が灯る。陽太先輩の優しい笑顔、時々見せる照れたような表情、自分のことを考えて選んでくれるマカロンの味...。


「私...怖いです」


正直な気持ちが溢れ出す。


「今のままでいたい気持ちと、でも本当の気持ちを伝えたい気持ちと...」


「そうね」


白石は理解するように頷いた。


「焦る必要はないわ。でも...」


そっと美桜の肩に手を置く。


「自分の気持ちから逃げるのは、もうやめにしましょう?私も、早坂さんも」


「白石さん...」


「それに」


「恋する早坂さん、見てみたいわ」


「も、もう!白石さんったら...」


顔を真っ赤にする美桜に、白石は柔らかく笑った。


図書室に夕暮れが深まっていく。

かつてコンプレックスを抱いていた相手は、今や秘密を共有する特別な存在になっていた。

そして美桜は、自分の心の中で静かに育っていく想いを、少しずつ、でも確かに感じていた。

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