第6話 克服

「それにしても」


マカロンを食べ終わった後、陽太が珍しく考え込むような表情を見せた。


「白石さんのこと、最近はどう?」


「え?」


突然の質問に、美桜は手の動きを止めた。


「あの、その...前よりは気にしないようにしてます」


「うん、それは素晴らしいことだと思う」


陽太は優しく微笑んでから、少し言葉を選ぶように続けた。


「でも、白石さんのことを避けているだけかもしれない。そう思わない?」


図書室の窓から差し込む午後の日差しが、美桜の肩に暖かく触れる。


「実は、白石さんのことをよく見かけるんだ。図書室で」


「え...」


「君が来る前とか、帰った後とか」


陽太は視線を本棚の方に向けながら、静かに言葉を紡ぐ。


「時々、君が座っていた席を見つめているんだ」


「...」


「話しかけてみない?」


「で、でも...」


美桜は自分の制服のスカートを軽く握りしめる。


「私、白石さんに嫌われてると思うんです。いつも冷たい目で見られるし...」


「本当にそうかな?」


陽太の穏やかな声に、美桜は顔を上げた。


「白石さんって、君と同じくらい頑張り屋さんだと思うんだ。でも、周りからの期待が大きすぎて、本当の気持ちを見せられないのかもしれない」


「本当の...気持ち?」


「うん。君が最近、自分のペースを見つけられたように」


陽太は美桜の方をまっすぐ見つめる。


「白石さんも、誰かと本音で話せたらいいんじゃないかな」


「でも...私なんかが...」


「早坂さん」


いつもより少し強い口調に、美桜は息を呑む。


「君は、人の気持ちに寄り添える優しい子だ。だからこそ、白石さんの本当の姿が見えるかもしれない」


「先輩...」


「無理はしなくていい。でも、避けるのはもったいないと思うんだ。二人とも、素敵な女の子なんだから」


その言葉に、美桜の頬が少し熱くなる。同時に、これまで見えていなかった何かが、少しずつ形を成していくような気がした。


白石さんの、どこか寂しげな後ろ姿。

完璧な笑顔の中に時々見える、迷いの色。


「...分かりました」


小さいけれど、決意を込めた声。


「機会があったら...話してみます」


「うん」


陽太は満足げに頷いた。


「きっと、いい話になると思うよ」


図書室の静けさの中、美桜は自分の中の小さな変化を感じていた。

かつての憧れは、今では特別な存在になっている。

そして、その人が教えてくれた—


自分らしさを大切にすることは、相手のことも理解することに繋がるのかもしれないと。

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