第58話:風のレーサー侠(おとこぎ)

「みんなーお待たせー」


 数日後。

 Gsガレージ24を貸し切り、お姉さんの結婚祝い走行会が行われることとなり。

 町田宮高校ミニ四駆部員も招待されることとなった。


「ジン、こんな感じの格好で大丈夫かな?」

「大丈夫だとは思うがスカート短すぎだぞ」

「お姉さんのお相手、どんな人なんだろーねー」

「あ、そこ気になるよね」


 お姉さんと言っていいのかお兄さんと呼ぶべきなのかわからないし、お相手の方ももしかしたら男性かもしれないし、いろいろ油断できない多様性を感じる。


「お、やっときたか」

「ルキー、元気だったー?」


 お店の前でルキとも合流し店内に入る。

 日頃見慣れない人たちでごった返している。

 OBの方やお店の経営者の方だろうか。


「あ、みかどさん!」

「あら、ジンくんだったかしら」


 町田宮高のために用意されたテーブル近くにOB用のテーブルがあり、そこにみかどさんたちがいらっしゃった。


「みかどさんにいただいたモーターでチャンピオンズになれました!ありがとうございました」

「役に立ってよかった、優勝おめでとう」

「ほんと、ミニ四駆以外で役に立たねぇ能力だよな、それ」

「なによ文句ある?この能力の助力があって後輩がチャンピオンズになれたんならいいじゃない」

「へぃへぃ、ごもっともでー」


 仲良さそうな男性は旦那さんだろうか。

 スーツなのに学生帽をかぶっているあたり、ちょっと変わった人なのだろうなぁと思う。


「ジーン、ちん!!」


 ばっしーーーん!


 背中を思いっきり叩かれて、俺はオレンジジュースを吹き出しそうになる。

 くそ、ちょっぴり鼻に入った。

 この感じは……土井先生だ。


「いった、もうこの気合い入れた挨拶やめません?ほんと死んじゃいますよ」

「これくらいで死んじゃダメよダメよも好きのうち。あらなかなかマゾいわねジンちん」


 どうしてそうなるのだ。

 土井先生も今日はなんだかフォーマルな出立ちだ。

 白のタキシードを着こなし、長髪のドレッドも束ねられて男らしい雰囲気だ。

 まぁ喋ると相変わらずだが。


 しばらく歓談していると照明が落ち、先ほどのみかどさんの旦那さんらしき方にスポットライトが当たる。

 そして手に持ったマイクで熱いパフォーマンスを繰り出す。


「えーごほん、そぉーれでわっ!新婦の入っ場っでぇっす!」


 入り口のドアが開き、ウェディングドレス姿のお姉さんが入場してきた。

 いつもポニーテールだった髪は纏められ、ベールの中に収まっている。

 オフショルダーの白いドレスには至る所にクリスタルがあしらわれていて、スカートが揺れるたびに光の波が店内を走った。

 手に持ったブーケにはミニ四駆のパーツがあしらわれている。


「すごく綺麗……これで男性とかいまだに信じられないわ」

「同感だ、惚れ直してしまいそうだ」


 だが男だ。

 ちなみに入場曲は「果てしなき挑戦」。

 結婚パーティーにしてはちょっと暑苦しい気もするが、まあこれもお姉さんらしいというか。


「ねぇジン、どんな人が旦那さんなんだろうね」

「あ、それです私も気になります」

「お姉さん、お兄さんなんでしょ?じゃご相手はお姉さん?それともお兄さん?おねにいさま?」


 ハクが混乱しているが気持ちはわかる。

 しかし、もうすぐ新郎様のお顔も拝めるわけだしな。

 お姉さんの心を奪ったヤツの御尊顔、楽しみでしかねーっつーの。

 


「それでは新郎の入場でっす!ってかほれ、とっとと前に行けよ!」

「やぁだっ火野ちんったら強引なんだから」


 ん?

 スポットライトが当たり、土井先生がドレッドヘアを優雅に揺らして台上へと歩いていく。

 白いウェディングドレスに並び立つ白いタキシード。

 お姉さんの隣に土井先生が並んだところで俺は初めて意味が認識できた。


「うそ、お相手って土井先生なの!?」

「あ、あぁ、なるほど、ななる、ほど?」

「すごーい、土井先生とお姉さんが結婚なんだー」

「ほんとすげぇ世の中だよな、狭間」

「なんとまぁ……」


 そっかー、ライバルは土井先生だったわけだ。

 ……いろんな意味で勝てねぇよ!!

 しかしまぁこれはこれで納得だ。

 ある意味でピッタリなカップル、これ以上ないくらいだ。

 こんなの心から祝えるに決まってる。


 お姉さんと土井先生が挨拶を一通りを終え、再度みかどさんの旦那さんがマイクを握る。


「よーしおまえら、この2人の祝いの場だ、もちろんミニ四駆は持って来てるだろうな?」

「「「「「おぉぉーーーーー!!」」」」」


 ミニ四駆な人たちの集まりだけあって、みんなミニ四駆を持参しているようだ。

 無論、俺たちだって自慢のマシンを持ってきている。


「ご持参でない方々、そしてお子様にでもレース参加できるよう、今日のレギュレーションはB-MAXルールで行います!持って来られてない方はこちらのマシンなど、ご自由にお使いください!」


 太っ腹である、さすがミニ四駆ショップオーナー夫妻だ。


「では準備のできていそうなやつらから予選を始めていきます!1人目はもちろん、我らがアイドルでありこの場の主役!あおいさんだ!」


 お姉さんがウェディングドレスのままミニ四駆を高々と掲げ、コース前まで。


「対戦相手は……町田宮ミニ四駆部、現役の部長でありジャパンカップチャンピオンズでもある、狭間ジンくん!」


 なんといきなりのご指名、相手はお姉さん、望むところだ。


「ジンくん、こないだの大会のようにはいかないわよ?」

「何言ってるんですか、今回も負けませんよ!」

「それにしても、まだそのボディ使ってくれてるんだ」

「今日という特別な日は、やはりこいつの出番かと思いまして」


 スターターは土井先生。

 夫婦初の共同作業になるのか?


「それじゃいっくわよーシグナルに、っちゅうもっく!!」


 シグナルオールグリーン!


「いけぇ!リバティ!!」


ーーーーーーーーーー


Fin


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解説:


・果てしなき挑戦

アニメ「ダッシュ!四駆郎」のエンディングテーマ。

超名曲なのでカラオケで歌うべし!

俺たちの地平線ホライゾン


・おねにいさま

あかほりさとる著「MAZE⭐︎爆熱時空」の主人公:メイズが性別が切り替わるキャラだったのでヒロインからそう呼ばれていた。

ちなみにアニメの主題歌は聖飢魔IIですw


・B-MAX

ミニ四駆ショップのフォースラボが主体で考案されたミニ四駆のレギュレーション。

基本的にポン付け以外不可のルールで、初心者でも参加しやすく敷居が低い。

とはいえ電池やモーター慣らしに秀でた上級者のほうが有利ではある。

ここも配給制にするとかできると、差が少なくなるなぁ、とか思ったり。

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