第56話:バリバリ伝説

「最後のカルーセル!行ってくれ!」


 5周目に入ってもエンプレスの速度はほとんど落ちない。

 消費電力の大きいパワダのS2にあと少しまで迫ってきているが、アクアの走行性能が高くまだ平面では伸びがある。

 2馬身差を詰めきれない。

 最後のアイガー上り、S2アクアが減速、どうやらマルーンのグリップ力低下からか登坂力が落ちているようだ。

 大外からエンプレスが巻くしあげ、最後のカルーセルに突入!!


「「「いっけぇーーーエンプレス!」」」


 場外からみんなの声援を受けたエンプレスがカルーセルを駆け抜ける。

 アイガー下りで逆転し、トップとなりそのままゴール!


「優勝は1コース!ウイニングエアロア!!」


 MCガッツが高らかに叫ぶ。


「やった……勝った……」


 ついに優勝できた、しかも大舞台ジャパンカップでだ!

 今までのいろんなことが脳内を過っては消え、過っては消え、走馬灯のように駆け巡る。

 処理が追いつかずオロついていると、ルキが横から話しかけてきた。


「とりあえずマシン受け止めてやれよ、まずはそこからだ」


 そうだ、自分で受け止めて自分で電源を落とす。

 ここまでやり切る必要があるのだ。

 ウイニングランを終えたマシンを最終コーナーあたりで受け止めてスイッチを切る。

 走り切ったエンプレスがとても誇らしげに見えた。

 いかん、こいつを眺めていたら涙が止まらない。


「ほら、みんなの声援に応えてあげないと」


 お姉さんに言われた方向を見ると部員のみんながこっちに走ってきていた。


「おまえら……」

「おにーちゃーん、おめでとーーー!!」


 どーん!


 ハクが頭から突っ込んで来て、俺は体勢を崩しかける。


「ふごっふ!」

「やったじゃんジン!おめでとう!これでチャンピオンズだね」

「あ、ハンカチ使いますか、どうぞ」

「すごいねー!優勝だねー!」

「まぁじ完敗だな、モーター間に合ってもこりゃ勝ててないわ」


 涙拭きながら姿勢と気持ちを立て直す。


「おまえらのおかげで優勝できたよ、ほんとうにありがとう」


 本当に、心からそう思えた。

 レイが声掛けてくれなかったら俺はあそこでミニ四駆を辞めていたかもしれない。

 トモが居なかったらそもそもこいつらがミニ四駆をやることはなかった。

 ハクが盛り上げてくれなかったら俺以外の誰かがミニ四駆を嫌になっていたかもしれない。

 ルキが絡んでくれなかったらジャパンカップの予選すら抜けられなかっただろう。

 ミニ四駆はただのおもちゃだけど、これがなかったらこんな熱い世界を知ることはなかった。


 全てのレースが終わり、表彰式。

 俺は壇上に上がり中央でチャンピオンズの証をいただく。

 隣には3位のルキと、2位のお姉さんがいる。

 ギャラリーからの盛大な拍手をいただいたところでMCガッツがこちらにマイクを向ける。


「今の感想を一言!」

「あどうも、ありがとうございます。今回勝てたのも部活のみんなや先生、OBのみなさんにGsガレージの方々のおかげです。今までミニ四駆のレースで個人優勝とか1度もなくて、初優勝がジャパンカップだなんてまだ信じられないです」


 隣でお姉さんも微笑みかけてくれている。

 いつもの柔らかい眼差しに、俺はどきりとする。


「ジーン!今がチャーンス!」


 声の方を見るとみんながお姉さんを指差している。

 ここで告るのか!?いや確かに勢いって大事だ、やってみる価値はある!

 そう思い、ガッツからマイクを奪い取った。


「お姉さん、前言ったこと覚えてますか?」

「えっ」

「俺がチャンピオンになったら、ってやつです」

「う、うん……」

「お姉さん!もう一度、告らせてください!」


 会場が静まり返るのがわかる。


「俺とお付き合いしてください!」


ーーーーーーーーーー


解説:


・チャンピオンズ

ジャパンカップで優勝するとチャンピオンズという称号が得られます。

こちらを入手すると、1年間公式大会のチャンピオンズクラスに出場可能となります。

全ミニ四駆レーサーの憧れですが、チャンピオンズクラスで優勝できないと1年で権利が剥奪されてしまうので、なかなか厳しい世界です。

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