第55話:頭文字D
「シグナルに注目!」
シグナルオールグリーン。
全車一斉に走り出したように見えるが、先に抜け出したのは5レーンのS2アクアだ。
「くっ、この加速、パワダですか?」
「片軸使ってる意味はここにある!最強モーターのパワダについて来れるかな?」
S2アクアはそもそもマスダンレスで作られているアクアがS2に乗ることで驚異的な軽量マシンとなっている。
たぶん電池込みで100g以下とか、そんなレベルだ。
これにトルクがあるパワダが乗っているので、とにかくパワフルだ。
カルーセル前のアイガーで超減速するが、スッと着地し、加速しながらいとも簡単にカルーセルを通過する。
「やはりとんでもねぇマシンだな」
「これに追いつけるのか……」
2周目、1位はぶっちぎりでお姉さんのS2アクア。
2位にルキのサンドラ、その後ろすぐに俺のエンプレスが忍び寄る。
「くそっ、アルカリ電池でのテスト不足が出てる、速度が乗らねぇ」
ルキのサンドラは速度が上がりきらないようだ。
決勝戦はタミヤから支給されるアルカリ電池で走らせる必要がある。
ニッケル水素系は1.2v、育てても1.5V台。
アルカリ電池は大体1.6Vなので電圧はアルカリのほうが上に見えるが実はそうじゃない。
電池には内部抵抗というものがある。
電池も回路なので内部の媒体や触媒に抵抗値がある。
ニッケル水素系は抵抗値20m〜100mΩに対して、アルカリは200〜400mΩ超えにもなる。
電池が発生できる起電力の計算は「電圧-(電流x内部抵抗)」となりこれがミニ四駆で使用される電圧になる。
仮にニッケル水素が平均品質の50mΩ、アルカリは最高品質の200mΩ、電流を1Aで計算しても、
ニッケル:1.5-(1x50m)=1.45V
アルカリ:1.6-(1x200m)=1.4V
このように当たりのアルカリ電池であってもニッケル水素より起電力が低くパワーが出にくいのだ。
マッハダッシュなどのケース背面の説明書きには「アルカリ電池ではパフォーマンスが出ない」と記載があるほど。
実はダッシュモーターをアルカリ電池で使うのはかなり難しいのだ。
アルカリ電池で走らせ「られる」ようにするには、とにかく消費電力を下げること。
例えばターミナルはゴールドの金メッキより銅ターミナルのほうが抵抗が少ない──つまり消費電力は小さい。
他にも接点の圧力や細かなセッティングが効いてくるが、1番はモーター自体の性能だ。
トルクも回転数も欲しいが省電力であって欲しい、しかし大体の場合はそれを両立させることは難しい。
トルクや回転数を求めれば、モーターは基本電気を多く使ってしまうことになる。
ただ、慣らしが上手くいけば回転数を保持したまま省電力のモーターを育成することができる。
この慣らしは経験と時間が必要で一朝一夕にはできない。
今回、俺のモーターの育成をルキに手伝ってもらい、高性能なものになった。
だがそのせいでルキのマシンに使うモーターの慣らしまで手が回らなかったのだろう。
「ルキ、俺のモーターの育成に長いこと付き合わせちまったせいだ、すまない」
「勝手に自分のせいにしてんなよ、これはオレ自身の問題だ、気にするな」
「しかし」
「ウダウダ言ってんな、どんなマシンでもどうなるかはわからん。こっから上がるかも知れんし落ちることもある。手を離したら後は祈るのみだ」
さすがにルキはレース経験が長いだけあって達観している。
青龍を見つめるルキの瞳は力強く、どこか楽しげだ。
そうだ、俺もすべて注ぎ込んだのだから、後は自信を持って見守るだけだ。
レースは中盤に差し掛かり、相変わらずトップはS2アクア、オレのエンプレスが少し差を詰め始めている。
「アイガーでかなり差を詰められるのね。そのマシン、ほとんどノーブレーキなのかな?よくやるわね」
4周目が終わるころにはエンプレスはS2アクアに2馬身差まで詰めていた。
「最後のカルーセル!行ってくれ!」
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解説:
・アルカリ電池
コンビニや100均でも手に入る一般的な乾電池の1種。
電圧の高さ、電池の持ちがこれまでのマンガン電池より性能がよく、普及している。
ミニ四駆のジャパンカップレギュレーションでは、タミヤがミニ四駆用に販売しているパワーチャンプRXか、富士通のPremium Sが使用可能です。
練習とかなら100均のものでもOKです。
・ニッケル水素充電池
一般的な電池だとエネループがニッケル水素電池となります。
タミヤからはネオチャンプという名称で販売されており、レースではこちらが使用可能です。
出力電流量が高く、ダッシュ系モーターを軽々走らせることができます。
またスマホなどに使われるリチウムイオンバッテリーとは違い、メモリー効果がほとんどありません。
長期間放置しても充電して使い出せば元通りに近いスペックで使えます。
・モーター慣らし
基本的にモーターは使えば使うほど、回転に慣れてスムーズに回るようになります。
ただ通常走行を繰り返すのでは時間がかかる。
そこで、モーターを直接電源に繋いで回転させ、人工的?に慣らしてしまう行為を「モーター慣らし」と呼んでいます。
やり方はいろいろあって、ここも沼が深い世界となっています。
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