第54話:MFゴースト

「たのむ!超えてくれー!」


 レイのDQほどではないが、かなりの速度でカルーセルに突入するエンプレス。


 かっ、さしゅ────


 どの曲線にも囚われるとこなく、ほぼ真っ直ぐカルーセルを抜けていく。

 ロスが一切出ない理想のラインで超えたと言えるだろう。


「すごい、完璧じゃん!?この速度で安定できるの?」

「あ、もしかして、私のとスラダンの形が違う?」

「その通り、スラピポだ」


 スライドダンパーにピボットも搭載したもの、それがスラピポだ。

 トモと作ったスラダンでも走れはしたが安定度が低かった。

 速度を出してカルーセルを攻略するにはと考えたとき、ハクのピボットを思い出し同時搭載すれば?と思い付いたのだ。


「カルーセル入り口の右側をどれだけ柔らかく触れられるかが鍵だったんだ」


 アイガーを下り、エンプレスがトップをキープしたままゴール。


「よっし!」

「あちゃー、追いつけなかったか……」

「あ、レイちゃんに抜かれた」


 最終周でレイのDQがかなり挽回し、トモのレッドウイングをギリギリ抜き2位に。

 そこまで差はなかったから、DQが1周目でカルーセルを失敗していなければ、レイに負けていた可能性もある。


「まぁとにかく、これでジンは一歩前進!わたし達の分までがんばってよ!」

「あ、優勝、狙ってくださいね」

「わかってる、勝ってみせる!」


 しばらくすると全ての準決勝が終わった。

 リタイアが多く、勝ち上がりは3人とのこと。

 つまり、次戦が決勝である。


「つこって、オレも勝ったからな、決勝はガチんこで頼むぜ」

「おぅ、そっちも手抜くとか考えんなよ」

「そして最後の1人は……わーたしっ!」


 振り返るとお姉さんが嬉しそうに微笑みかけている。

 やっぱり勝ち上がってきてしまったか。


「ジンくんルキちゃん、一緒に走るのは初めてだもんね」

「はい、昔からお世話になってますが、今日は全てをぶつけますんで。勝負してください」

「そう簡単にはチャンピオンにはなれない、ってとこ教えてあげるね♪」


 なかなか好戦的だ。

 いつもは親切で優しい表情しか見せていなかったけど、プライベートだとこんな感じなんだな。


「オレも念願のチャンピオンズ目の前だからな、2人に負けるわけにはいかねぇ」


 ルキもやる気だ(3回目

 今までも部室やガレージで一緒に走らせてきているが、まともに勝ったことはない。

 この2人に勝たなけれならないのだ。

 そして勝ったら……もう一度、お姉さんに告白する!!


「エンプレス、がんばってくれよ!」


 小さなマシンに小声で話しかけたとき、品川シーサイド名物のビル風が吹き、マシンの提灯が揺れた。

 それは“任せとけ!”とでも言っているかのような、そんな動きに見えた。


「それでは決勝戦、勝ち上がった方はこちらに並んでください」


 MCガッツのアナウンスでスタート近くに集まる。


「それでは選手紹介!1レーン、町田のミニ四駆ショップの店長さんだ!マシンもお姉さんもビューティフル!つづいて3レーン、こちらも町田から女子高生!ブルーのスカジャンにブルーのサンドラが決まってるー!3人目は……なんとまたもや町田から、どうなってるんだ町田!しかも高校生!カラフルなミライト輝くウイニングエアロア!これはすごいレースになりそうだ!!」


 MCガッツもさすがに興奮している。

 会場の響めきも半端ない。

 決勝進出を果たした三人のうち、2人が高校生なんてミニ四駆オープンクラス決勝ではなかなかない光景であろう。


「それでは!ジャパンカップオープンクラス、決勝戦を始めます!」


 出場者だけではない、会場全体が固唾を飲む。

 緊張の一瞬。


「シグナルに注目!」


ーーーーーーーーーー


解説:


・スラピポ

スライドダンパーにピボットを取り付けたバンパーのこと。

両方搭載することで安定度は高まるが、重量増加とマシンのスライド量が増えるのでコーナーが遅くなる可能性がある。


・MCガッツ

田宮の名物社員。

ミニ四ファイターなどと同じ感じで、公式大会のMCとして活躍している。

最近は若手MCも増えてきているのか、出番は少し減ってきているのかな?

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